
街道はまだ濡れていた。
轍の底に残った空が歩くたびに小さく揺れる。雲の切れ間からこぼれた光が、遠くまで続く道をところどころ白く照らしていた。
町の門を出たところで旅人は一度だけ足を止めた。
背後から聞こえていたもう一つの足音も止まる。
けれど、振り返らなかった。
しばらくすると、その足音は町のほうへゆっくり遠ざかっていった。
肩の荷を背負い直す。
行き先は、まだ決めていない。
知らない町がある。
見たことのない景色がある。
名前も知らない花がどこかで咲いている。
この世界には、まだ知らないことが多すぎた。
旅人は顔を上げた。
そして、誰の足跡も残っていない道へ、ひとりで歩き出した。