ボスをガチャ召喚したら凄いのがキタ
手のひらに収まる白いキューブ──ダンジョンコアを視線で捉えた瞬間、空間に淡い光が走った。
次の瞬間、目の前に立体映像が展開される。
ホログラムで再現されたのは、俺のダンジョンだ。
『……ぶさいくな迷宮ですね』
「うるせいやい」
ラグナは俺の服の裾を掴み、背伸びするようにホログラムへ指を伸ばす。
『直線が多すぎるんです』
「……ダメなのか?」
よく遊んだ2Dの探索ゲーム、格子のように組まれたマップを思い出す。
『直線は、向こうまで見渡せてしまいます』
そこまで言われて、ようやく気づいた。
直線通路は安心だ。だが同時に、不安でもある。
先が見えるということは、常に警戒を解けないということだ。
「……緊張を強いる通路しかない」
『常に身構えるのは、マスターも魔物も疲れます』
ラグナは即答した。
『直線通路ばかりでなく、曲線を混ぜると影が生まれます』
「もしかして、その方が休憩しやすくなる?」
彼女は胸を張る。
『ラグナは断言しましょう。ここ一ヶ月、肩こりに悩まされたマスター の寝起きが爽快になると』
「おい、ひと月も放置するんじゃないよ」
金髪が、ぴょこりと揺れる。
腕を組み、見下ろすように──いや、実際は見上げながら、ラグナは言った。
『お礼を言える男子はモテますよ』
「……教えてくれてありがとう」
『へへっ』
……くそう。 可愛いのが腹立つ。
俺は軽くお腹をポスポス殴られながら、ホログラムを操作する。
ボス部屋をタッチすると、ウィンドウが切り替わり、購入リストが表示された。
階層ボスを、選ぶのだ。
ラグナが、興味深そうに覗き込んでくる。
『ほほう、ようやくですね』
「ダンジョンスコアは有限だからな。
これでも、ちゃんと計画立てたんだ」
『強いボスを買うため、せこせこ貯めていたと』
「あまり強すぎるのは無理だぞ。俺が勝てないからな」
『レベルが下がって気弱ですね。汚泥粘性体とか止めてくださいよ。ラグナも臭いのは御免です』
「わかってるよ。この前は、悪かったって」
画面を流し見しながら、俺はある一体で指を止めた。
──これだ。
戦闘兵装に包んだ、引き締まった体躯。
背には大鷲の翼。 槍を携えた、小柄ながらも明らかに強者の風格。
『一階層目にしては、慧眼ですね』
「だろ?」
『特に胸が大きいです。マスターにもそんな趣味が』
「うぉい、誤解されるから!
てかこいつ雄だろ、たぶん」
ニヤつく少女に急かされながら購入を確定する。
──『大鷲の鳥人を購入しました』
天井からラグナの声でアナウンスが流れた。
「うぉっ!?」
途端に、キューブから突き刺すような光が放たれ目が眩む。
『あ、確定演出』
……え、なに?
鋭いスパークが跳ね回り、衝撃が駆け抜けた。
虹色に変化する輝きが荒れ狂い、反射的にラグナを抱き寄せ、身を守る。
──ヒュンッ!
見事な槍さばきで、光が薙ぎ払われた。
──ズシャリ。
ゴツい鉤爪が石床を砕き、大きな影がゆるりと降り立つ。
現れたのは、画面の姿とは少し異なる軍服をきた男。
大鷲の翼をバサリと広げ、俺を射抜くように見定めた。
肌が痺れるような期待感と威圧に、ゴクリと喉が鳴る。
「……でかいな」
ダンジョンコアのカタログ一覧は『平均的な種族像』に寄せてるのだろうか。
それとも、階層ボスは特殊個体が召喚されるのか。
ふわりと舞い落ちる鋼のような羽根に、格上の力強さを感じた。
つい、と逸れる男の視線の先には、目を輝かせたラグナの姿。優しく翼を折りたたみ、優雅に跪いてみせた。
「|HELLO WORLD、天落の台座。
雷雲が一席、これよりはマスターの旗下に」
『……おお』
「うぉい!マスターは俺だよ、こっち。
ラグナもその気になってるんじゃありません!」
『むむ、惜しい』
「……で、ありますかな」
いや、お前も何残念がってるんだよこのロリコンめ。
大鷲の鳥人は俺に視線を移すと、ゆっくりと立ち上がり敬礼した。
口元はマスクで覆っていて表情は読めない。
目にはゴツい飛行ゴーグルをかけている。
「ふむ。では、お主が管理者か?」
「……ああ、そうだ。よろしくな」
『……やべぇ、今の俺じゃ勝てないかも』
「ラグナさんや。心を読まないでもらえますかね」
カカっと快活な笑い声が降りてくる。
大翼を揺らしてバードンマンが少し砕けた態度を示してくれた。
「ふむ。マスター方は仲がとても宜しいですな。
よい職場に就職できたようです」
第一階層の新任ボスは、何気に現実的なやつだった。
俺は苦笑いしながらも一歩前にでる。
捕殺者の瞳孔が、興味深げにじわりと滲んだ。




