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苺の国のパルフェ魔法女学園  作者: ビリリねこ
第一章 一年生
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第9話 聖騎士と魔女①

ネグレクト味のある話が序盤入ります。

すみません、ご注意下さい(◇まで飛ばしてください)


「まあいい、みんな来ているよ。早く着替えておいで」

「はい……、お父様」


 ディタが自分の部屋に着替えに向かう途中、姉のキースとすれ違った。

 目が合ったが無視された。


 部屋で着替え終わると、大食堂へ向かう。

 侍女が扉を開け中へと入る。


「皆様ごきげんよう……。遅れてすみません」


 挨拶と謝罪をするも誰も見向きもしない。


 今日は親戚たちの集まりだった。

 大勢で食事をしながら話をしている。


 親戚たちは、皆聖騎士だった。


 魔法使いになれる人間は人口の3%にも満たない。


 そして、魔法使いになるよりも聖騎士になることの方が何倍も難しかった。


 キルスターシュ家では特に、聖騎士の中でも、筆頭騎士や騎士団長、王直属のロイヤルガードとなるのが当たり前だった。

 ただの聖騎士止まりでは、笑われ見下された。


 そんな家で魔法使いにしかなれない者は同じ一族とはみなされず、存在しないものとして扱われていた。


 父も母もただの聖騎士だ。

 一族の中で肩身の狭い思いをしているようだ。


 自分もなんとか両親の期待に応えようと思ったが、聖騎士学園に合格出来なかった。

 聖騎士学園に入学できなかった罪悪感と、今後のことを考えると怖くて眠れなくなった。


 同じ席につくことを許されず、メイドたちと共に大テーブルの側に立って時間が過ぎるのを待つ。

 同年代のいとこから食事を投げつけられて、笑われても何も感じていないふりをする。


 ふと、投げつけられた食べ物に目を落とすと、昼間ズコットが言っていたことを思い出した。


(これはビタミンB6が豊富な野菜だわ)


 三大栄養素を摂取しても、ビタミンやミネラルがないとうまく体に吸収されないのだとか。


 そんな話をズコットが——腕を組み目を瞑りながら——長々としていると、ビートが眉間にシワを寄せてだんだんイライラしていくのがディタの目に入った。

 ディタは内心怒ってしまうのではないかとヒヤヒヤしたが、ビートが両隣にいたランセとディタに小声で、


(逃げよう)


と言い出したので、ちょっと可笑しくなって笑ってしまった。するとビートもディタに釣られて笑ったのだった。


 友人たちとの楽しかった時間を思い出して、ディタは少し元気になった。


 親戚たちが帰った後、姉の部屋の前を通ると、姉の叫び声と共にいろんなものを壊す音が聞こえた。


 昔は明るい性格で優しかった姉も、魔法女学園に入学してから変わってしまった。

 いつもイライラしていて、気性も荒くなっていた。


「この子は出来損ないだ。キルスターシュの名を名乗ってもらっては困る。養子にでも出したらどうだ?」


 姉が魔法女学園に入学する事が決まった日、姉の目の前で親戚たちは父に向かって言った。


 笑顔が凍りついたような表情で、姉が父を見ていたのを思い出す。


 自分もきっと親戚たちに同じことを言われているのだろう。

 いつまでこの家の子どもでいられるのだろうか。


 いつか聖騎士よりすごいことをして見返したい。


 自分や姉は出来損ないではないと証明したい。


 ディタはそう思っていた。


 部屋に帰ると布団にくるまった。

 いつまでも体の震えが止まらなかった。







 翌日、放課後。


 三年のレイとベル、一年のピノ、ビート、エレル、ズコット、ディタが飛行魔法練習台を囲んでいた。


 苺のレアチーズケーキを模した練習台の上に立つ、オレンジ髪でタヌキ顔の少女ランセは、銀のフォーク型の杖に跨ると勢いよくジャンプした。


「とうっ!」


 ボスンッ!


 落下魔法の使い手が、その技を聴衆に見せつけた。


「っと言うわけなんです」


 衝撃吸収マットに埋まるランセを見ながら、レイに向かって説明するピノ。


「んー、私がみた感じ、魔力より集中力の問題な気がするね」


 レイがあごに手を当てて言った。


「どんだけ魔力があっても、集中力がないと魔法って使えないもんねー、っとランセちゃん大丈夫かー?」


 ベルが釣り竿魔法を出しながら言った。


「んー、確かに遊ぶ時は集中してる気がするけど、授業の時は注意散漫に見えるかも」


 ピノが言うと、


「「「確かにー」」」


 他の一年生たちが納得の声を漏らす。


「はあー、集中力っていったいなんなんですか?」


 釣り上げられたランセが言う。


「とりあえずあれをやってもらうか」


 レイが何かを確信した様にランセを見た。





「ランセちゃん、このボールを両手ではさんで全力で魔力をボールに集中させてみて」


 レイから30センチほどのボールを渡されるランセ。


「え、こうですか? ぐぐぐぬー!」


 ランセが魔力を込めると、30センチのボールが、29センチに圧縮された。

 そのボールは、何センチに圧縮されたかが魔法で表示される様になっていた。


「やっぱりね」

「なるほどー、さすが筆頭魔法使い」


 ボールは魔力に反応する特殊な樹脂で出来ている。

 魔法を扱うときの集中力を測るのに使われた。


「どういうことですか?」


 納得するレイとベルにランセが聞いた。


「このボールが25センチぐらいに圧縮できるぐらいの集中力がないと魔法って使えないの」

「今のランセちゃんは29センチだったからあと4センチ以上は圧縮する必要があるね」


 レイとベルが説明していると、


「へー、こんな便利なものがあったのかー」


 後ろから突如現れた先生が感心した様に言った。


「うわ、ボワロン先生、急に現れないで下さい」


 ベルが身を仰け反らしながら先生の方へ振り返る。

 レイもビックリしたような表情を浮かべて後ろを向いた。


 ムース・ボワロンは、ランセたちのクラスの担任だった。

 今日はフォーマルなデザインだが胸元が細いV字に深くあいた黒のジャンプスーツを着て、ゴールドに輝くパンプスを履いていた。

 頭には、ダークグリーンで半透明の三角帽子をかぶっている。

 ブロンドのシャギーなミディアムヘアに、赤いリップの女豹のような35歳の彼女は、実は世界3位の魔女だった。


 かつて彼女は、付き合っていた聖騎士の彼の浮気現場を目撃してしまい、怒って病院送りにした経歴をもつ。

 仲の良い友人たちからは冗談めかして 『500年ぶりに聖騎士に勝った魔女』 と呼ばれていた。


 魔女が聖騎士に公式の戦い——御前試合など——で勝った記録が残っているのは500年前だった。

 聖騎士が、魔法を無効化するスキルを編み出して以降、魔女は公式の試合では勝利していない。


「先生、こんな便利なものも知らないで、本当に先生なんですか? ホントに教員免許持ってますか?」


 日頃、ちゃんと飛び方を教えてくれない鬱憤が溜まっていたせいか、ランセが急にセンシティブな話題に切り込んだ。


「ヴァレリアンヌ、世の中にはつまびらかにしない方がいいこともあるんだよ。先生が急にいなくなったら寂しいだろ」


 酒焼けした声でボワロンがランセを諭した。


「冗談はやめてくださいボワロン先生」

「名教授として名高いのに、そんなこと言ってるから何回も校長室に呼び出されるんですよ」


 レイとベルが言うと、


「名教授とかさ、虚しいよね。この仕事出会いも無いしさ。だいたい子どもに魔法を教えるのの何が楽しいのか」


 レイとベルの間に入ってふたりと肩を組み、言ってはいけないような事を言う先生。

 しかし、このボワロンの教え子たちは立派な魔女に成長しており、口々にボワロン先生のおかげだと言うのだった。

 本人に自覚はないのだが、魔女として生きていく力を身をもって伝授しているのかも知れない。


(やばいぐらいお酒臭い)


 レイとベルが密かに思っていると、


「ボワロン先生、ちょっと校長室まで来てもらえる? この辺りのお酒臭さと、あなたの机の上にあったこの酒瓶について詳しく聞かせてちょうだい」


 続いて現れた、レンタ・ノワゼット校長が、にこやかに言った。


「あれ? 放課後ってもう飲んでいい時間じゃないの?」


 などと呑気に話すボワロンにゲンコツを落とすと校長は言った。


「学園内に飲んでいい時間はねぇ!」

「ぎゃー、すいません!すいません!」


 校長は耳を引っ張ってボワロンを校長室へ連行した。


 校長は元世界2位の魔女でボワロンの師匠だった。







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