第8話 みんなで海へ④
ズコットが走り込み、ジャンプして力いっぱい振り抜いた。
ドンッ!
恐ろしい勢いでボールが相手コートに打ち出された。
しかし、レイがそれに反応した。
正面でボールを捉える。
ポフッ!
腕や膝を柔らかく使い、ズコットの重い球の勢いを殺して、完璧に受けとめた。
ボールは緩やかな軌道でベルのもとへ。
一本目を決められたあと、三年生は上着の中に着ていたベストを脱いで、両手足に付けていたバンドのようなものを外していた。
ベストを脱ぐ時、砂浜にズン! という重そうな音がした。
ランセがもしやと思って持ち上げようとするも、重くて持ち上がらない。
三年生は重りをつけたまま生活していた。
魔法使いにもアスリート並みの体力が必要だというのが、パルフェ魔法女学園の哲学だった。
「レイ、お手柔らかにね」
レシーブされたボールをベルがトスした。
余裕を持って走り込んだレイが、高く飛んだ。
長い跳躍時間を活かして大きくそり返り、脱力した状態からしなやかに振り抜いた。
パシャーンッ!!
ムチが音速を超えた時のような音がした。
ブロックしようとしていたズコットの腕にボールが当たるも、何も触れなかったように球は進んだ。
大きく吹っ飛び、一回転してコートに尻餅をつくズコット。
三年のアタックが決まった。
「あ、やりすぎた」
「あー」
冷や汗を流すレイと、手で顔を覆うベル。
目を大きく開き、言葉なく固まるディタ。
「すご……」
観戦していた一年生は固まり、三年生たちは苦笑いを浮かべていた。
反対側のコートに入り、ズコットに手を差し伸べるレイ。
「大丈夫?」
「は、はい」
キラキラした目でレイを見るズコット。
それからあっという間に三年生が勝利した。
——試合後
「でも、私たちに重量装備を外させるなんて大したもんだよ」
「本当はこれ、寝るとき以外は外したらダメなやつなんだよね」
重りを外させたんだから、ある意味アンタたちの勝ちだよとまで言ってくれた。
謙遜する先輩たちがとてもカッコよく見えた。
◇
「そうだ、お姉ちゃん、ランセに飛行魔法教えてあげてくれない? この子だけまだ飛べないの」
ピノが姉のベルに聞く。
「飛行魔法? それならレイに聞いた方がいいんじゃない? 私教えるの下手だし」
レイに丸投げするベル。
「私? 別にいいけど」
丸投げされたレイはあっさり快諾。
「よろっしくお願いします」
急に自分の話が始まって、慌てて頭を下げるランセ。
「じゃあ明日の放課後に練習しようか」
レイがランセに微笑みながら言った。
「あ、明日? あさってとか、むぐ——」
後ろからピノがランセの口を塞いだ。
「明日の放課後、よろしくお願いします!」
ピノが笑顔で代わりに言った。
「うん」
レイも笑顔で返した。
◇
それから三年生たちにバレーコートを開け渡し、砂浜の別のゾーンで一年生たちは砂のお城を作り出した。
みんなで一個のお城を完成させた。
その後、それぞれ好き勝手に増築しだし、お城の隣にアイス屋さんや本屋さんや遊園地や運動場、自分の別荘などが並び立った。
次にみんなでお弁当を食べた。
学生寮の寮母が作ってくれたお弁当だった。
寮母の作るご飯はいつも美味しいのだが、今日は特別美味しかった。
色々はしゃいでお腹が空いていたせいもあるかもしれない。
今日の弁当はパンケーキとベーコンエッグとサラダだった。
デザートにフルーツヨーグルトをつけてくれた。
パンケーキにはバターとハチミツの上からココナッツパウダーが振られていた。
魔法の弁当箱によって、焼きたて出来たての状態が維持されている。
「うまー、なんだこれ」
「美味しいですわー」
驚きの表情を浮かべるエレル、笑顔のディタ。
「タンパク質が足りないんだけれども」
「あんたは別で鶏肉を付けてもらってるでしょ。っておいしー!」
食事もトレーニングのうちという考えのズコットと、もっと食事を楽しんだらいいのにと思うピノ。
「ランセちゃん、よかったらサラダあげる。あ、パンケーキおいしい」
「え、もしかしてビートちゃん野菜嫌いなの? わたしもー!」
野菜が苦手なビートと、野菜嫌いな仲間がいて嬉しいランセ。
それから目玉焼きに何をかけるかで、ランセとエレルの小競り合いがあったり、ズコットが野菜嫌いのランセとビートに聞かせるようにビタミンとミネラルの重要性について、うんざりする熱量で長々話したりした。
次にパラソルの下で本を読んだ。
ビートが砂に埋まった状態で本読みしてみたいと言い出したので、みんなで腕と頭以外を砂で覆ってやった。
「あったかくて気持ちいかも」
とビートが言うのでみんなやりたくなって、埋まった。
友人たちを埋め終わり、最後の一人となったピノが自分で自分に砂を盛りながら言った。
「なんでも自分で出来ると思われてるんだよね、私は」
少しやさぐれていた。
砂に埋まっているとお昼を食べたせいか眠くなってきた。
ビートとディタは本を読み、それ以外のみんなは昼寝の態勢に入っていた。
誰かが寝息を立てた。
それからしばらくたった頃、少し大きめのカニがランセの顔の横を通った。
ランセは寝ていて気付かない。
カニがランセの耳に近づく。
そして何を思ったのか、ランセの耳たぶをはさんだ。
「わー!」
眠りから覚め、砂から起き上がり大声を上げるランセ。
「もーなによ」
うとうとしていたピノが言う。
「カニに耳はさまれたー」
逃げ去るカニを見ながらランセが涙目で言うと、
「もー、ほら見せてみ」
砂から起き上がって、ピノがケガがないかみてくれた。
眠気のせいかいつもより優しい気がする。
「何もなってないから大丈夫」
砂まみれのドクターが太鼓判を押してくれた。
「ありがとうピノちゃん」
涙目でお礼を言った。
そうして変な目覚ましで起きたみんなは、準備体操をすると海に入ることにした。
海には膝ぐらいまで入ったが、まだ水が冷たくて泳いだりはできなかった。
でも、砂浜に座って波の音を聞いているだけで、なんだか気分が良かった。
◇
海に行った日の夜、ディタは外泊届を出し自分の家に帰っていた。
ダークチョコレートケーキを模したその立派な館には、豪華な馬車がたくさん停まっている。
「ディタ、どこへ行ってたんだい? 遅かったじゃないか」
館の主人が声をかける。
「すみません、お父様。学園でどうしても抜けられない用事があったので……」
ディタが答えた。




