第64話 ただいま
世界が救われた日から7年ほどが経過していた。
あの騒動の後、宰相ルシェミはその任を解かれた。
そして罪滅ぼしとして、プリムが封印されているという霊山の管理をする職務についていた。
日々、特になにも起こらないので、アミティアたち妖精の遊び相手となる生活を送っている。
聖騎士学院はピカビア魔法学院へと名称の変更が行われた。
聖騎士たちの独自の信仰は残されたものの、妖精王の加護を受けなければ騎士としての活動は許可されなくなった。
騎士たちの多くが妖精王の加護を受け入れる。
彼らは魔法騎士と呼ばれた。
◇
「ランセー早く早く!」
「うん、すぐ行くー!」
今日は、魔法女学園高等科の卒業式。
ランセたちは18歳になっていた。
学園の寮でランセを急かせたピノは、高等科を卒業後、王立魔法協会の魔法研究部門で研究者として働くことが決まっていた。
「お前首席魔法使いだろ、早く行かなくていいのかよ」
ピノに続いてエレルにも急かされる。
エレルは、初等科での教育実習中、即戦力の太鼓判を押され、教員にならないかと誘われた。
その誘いを受け、教員となるためファンデュ校長の弟子となった。
「うん、わかってるってば、焦って靴が入らないんだよー!」
大慌てで雑に履こうとした靴を、脱いで再び履き直すランセ。
靴についた変な折り目のせいで、なかなかうまく履けない。
ランセは、妖精王と人間の女の間に生まれた子供だった。
高等科に入ると、その能力を開花させ、首席魔法使いへと上り詰めていた。
「よーし!」
無事に靴を履き終わると、ランセは体育館へと向かった。
体育館での卒業証書の授与が終わり教室で席に着くランセたち。
「えー、ここを卒業しても、勉強は終わりません。勉強とは一生続く坂のようなものです。それぞれに励み、遊び、人生を謳歌してください」
担任であるロワール先生の言葉に拍手が起こり、生徒代表としてランセが花束を渡した。
「ありがとう。お前らこれからも頑張ってな!」
泣き上戸のロワールは目を潤ませて言った。
「先生泣かないでー!」
ランセも、もらい泣きしそうになりながらハグした。
「あはは、二人とも涙脆すぎでしょ」
「ね、ってあんたもうるうるきてんじゃん!」
教室は和やかな雰囲気に包まれていた。
◇
「ランセちゃんこれからどうするの? 私たち今日の夜、みんなでご飯食べに行くけど」
「どこでご飯食べるの? 私、一旦家に帰ろうかなーと思ってる」
教室から、下駄箱へ向かう廊下を歩くビートとランセ以下いつもの4名。
ビートは、学園の飛行魔法最速記録を出し、競技選手にスカウトされた。
そこで頂点を目指すことを決意して、日々練習を続けている。
ビートが姉のように慕う、アカツブキ国おもち姫の妹の、しらたま姫との友情はまだ続いている。
「海辺のレストランですわ。2階にオープンテラスのある」
ディタがランセの問いに答える。
ディタは剣術の腕を認められ、魔法騎士団の入団試験に合格する。かつての従兄弟たちとも仲直りし、共に厳しい鍛錬に励んでいた。
「あ! あそこかー、オッケー! 私も行くよ!」
ランセはディタに笑顔を返すと、下駄箱から靴を出した。
「90分の食べ放題だからね。遅刻厳禁だよランセ」
ズコットが不適な笑みを浮かべて言った。
ズコットは、学生ボディメイク選手権で優勝を勝ち取ると、憧れだった魔法重騎士隊への入隊を決めた。逸材が来たと早くも先輩たちから可愛がられている。
「ふふふ、わかってるよズコットちゃん」
ランセも不適な笑みを返す。
「どれだけ食べられるかが勝負だからね。お昼は少なめにしとかないとね」
ピノがお腹をさすりながら言った。
「でも、お腹が空きすぎて逆に食べられないパターンもあるよ?」
ランセがピノに言った。
「確かになー」
エレルが頷く。
「そう考えると、普通にしとくのがいいのかな?」
ズコットが顎に手を当てた。
「運動してから行くというのはどうかしら?」
ディタが腕を振るジェスチャーをした。
「運動も、激しすぎると食べられなくなるかも」
ビートが上を向いて言った。
「んー、正解はないのか……?」
ピノが腕を組んだ。
「気合いで、気合いで頑張ろう!」
雑にまとめるランセ。
「最後、いっつも雑なのよねー」
眉間に皺を寄せるピノ。
「あはは、ほんとにね」
笑うビート。
「まあ、じゃあそんな感じで」
ズコットも適当にまとめる。
「ふふ、なんとなくな感じですわね」
ディタも雰囲気に乗る。
「よし、決まりだな!」
勢いだけのエレル。
そんな会話をしていると、
「おーい、お前ら、卒業おめでとう!」
誰かが声をかけてきた。
見ると、校舎と寮の間の道にボワロンが立っていた。
「あー!! 先生!」
「来てくれたんだー!」
「何年ぶり!?」
「久しぶりですわー、先生」
「懐かしー」
「ちょっと感動」
喜びの声を漏らし、校舎の外に出る教え子たち。
「娘の卒業式も今日だったんでな、寄ってみたんだよ」
ボワロンの言葉を待っていたかのように、魔法女学園初等科の制服を着た少女が走ってやってきた。
「ねー、母さん早く行こうよ」
「お父さんとリオンと先に行っといてくれ。ちょっとこいつらと話していくから」
遠くで手を振るフレイネルを指差すボワロン、フレイは大きい犬を連れている。
「この人たち母さんの教え子なの?」
不意に少女が聞いた。
「え? そうだよ」
ボワロンの返事を聞くと、少女はランセたちの前に立った。
「その節は、母が色々とご迷惑をおかけしました」
そして、ぺこりと頭を下げる。
「こらエル! なにやってんの」
ボワロンが慌てて止める。
「あはは、母さんのことだから、色々迷惑かけたんじゃないかなーと思って代わりに謝っといてあげたよ。じゃあ先行ってるねー」
走り去っていく少女。
「全く、困った娘だよ」
ボワロンが呟く。
「確かに迷惑ばかりかけられていたような……」
「そもそも何も教えてもらってないような……」
「お酒ばっかり飲んでたし……」
「賢い娘さんですわ」
「いやー、よくわかってらっしゃる」
昔を思い出す教え子たち。
「お前らぁ……!」
今にも怒り出しそうなボワロン。
「……まあ、今日だけは許してやる」
「って、怒らねぇのかよ!」
エレルのツッコミで全員が笑った。
ボワロンとフレイの一時保護施設仲間レタンは、馬車を作る職人となり、現在は親方として100人の弟子を抱える工房の主となっていた。
もう一人、ルルーナはお菓子好きが高じてケーキ屋を開業すると評判となり、その店は今も毎日行列が絶えない。
◇
みんなと別れ、ランセは飛行魔法で故郷へと向かって飛んでいた。
眼下にはいちご畑が広がっている。
「そういえば、キース先輩の合格発表もそろそろだっけ?」
ディタの姉、キース・レモネーシアは高等科を卒業した後、姫の騎士団へ誘いを断って、医療系の学校へ入り、心に問題を抱える人を救う為、医師免許の取得を目指して勉強していた。
その医療学校の高額な学費は実の父が出している。
父と子の関係はまだ完全な仲直りとまではいっていないが、徐々に距離は縮まってきていた。
キースの友人たちは、バニラやユズ、ロザリエやマルシュが中心となって、新しい魔法を使った農法を広めるための活動を始めるところだった。
全自動で美味しい作物が実ることから、すでに導入のための注文が殺到している。
そんな中、ビスキュイ姉妹は順調に生物学者への道を歩んでいた。
「って人の心配してる場合じゃないや、私も次の春からはベル先輩たちと一緒に働くし、気合いを入れないと」
ベル・キャラメリーぜ、レイ・フランベール、チェルシー・キルスターシュ、は王国調査隊員となっていた。
それは2年前に始まった、まだ誰も踏破していない土地の調査を行う冒険者の様な仕事だった。
春から、ランセもその中に加わる。
入団が決まり、事前に挨拶に行った時、3人が着ていた装備のかっこよさに、ランセは心を奪われていた。
ベルたちの友人、チエロはロイヤルガードとなっていた。怠け癖が高じてよく怒られているが、本人にはノーダメージだった。
また、ギータは聖騎士学院生徒会のリリエラと仲良くなり、フレジエ王国初のグッズ屋をオープンする。ギータがフィギアを作り、リリエラがそれを売った。コアなファンが付いている為、商品棚はいつも空っぽだった。
ギャレットとデロワは、王宮勤めの職員として働いていた。その堅実な働き振りで先輩職員からの評判も良い。
元、聖騎士学院生徒会のアジルはレイに惚れ、告白するも振られていた。
そんなアジルに密かに心を寄せているアン。
恋とは、なかなかうまくいかないものだなと思って二人を見るジル。
3人とも魔法騎士団に入団していた。
「そういえば、姫さまのそばにいつもいた、黒髪の男の子が渡してきた小説、まだ読んでなかったな」
ラクリマ姫は、ベンシーのおすすめ小説を読破していた。
しかし、今度は好きなところがお互い違って、それが原因で喧嘩になっていた。
ベンシーは無理解なラクリマ姫を諦め、同じ趣味の仲間を増やすべく布教活動を行なっていた。
「あの小説面白かったら、おばあちゃんにも見せてあげるかな」
ランセの祖母であるミリ・ヴァレリアンヌは魔法協会会長になっていた。
会長職が不慣れなミリを、ノワゼット元校長が支えた。
現在の世界一位はヴィヴィアン・キルスターシュだ。
実はヴィヴィアンは極度の人見知りだった。
飛び級で聖騎士学院高等科を卒業した後、数年間独自の修行をしていたと周囲に話していたが、実はそれは嘘だった。
ただ引きこもっていただけだったのだ。
引きこもる間、演技をすることでようやく人と話せる事を発見し、外へでられるようになったのだった。
なので、根が明るくてテンションの高い人が多そうな聖騎士より、根暗な人が多そうな魔女になることを選んだのだった。(実際はそんな性格特性はない)
ボワロンは子育てに専念するため、ランキングからは姿を消していた。
代わりにプラリネが世界2位の魔女となっていた。
そんなプラリネだが、まだ腰を落ち着かせる相手は見つかっていない。
しかし、聖女アルマナから若さを保つ秘訣を伝授され、立派な美魔女へと進化を遂げていた。
「あ、見えた!」
故郷のルヴァン村の前に降り立つランセ。
銀のフォーク型の魔法の杖から降りる。
「そういえば、初等科の時はおばあちゃんに、ほうきで叩き返されたんだっけ」
白砂で固められた地面に、カラフルなグレーズ(糖衣)のかけられたドーナツ型の家が立ち並ぶ。
歩いて村に足を踏み入れるランセ。
「ランセおかえりー!」
「卒業おめでとうー!」
「なんか賢そうに見える!」
故郷の幼馴染たちが出迎えた。
「ただいまー!」
元気よくそう言った。
こうしてランセは、無事に故郷の土を踏むことができたのだった。
お読みくださりありがとうございます。
これにて終了となります。
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