第5話 みんなで海へ①
ある日の昼休み。
図書館から教室への帰り道、ビートは変なものを見てしまった。
同じクラスの子達が廊下の真ん中で四つん這いになって、組体操の人間山脈をやっていた。
目を合わさずに前を通り過ぎようとするビート。
「あ、クリスタリーゼ! ちょうどいい、ちょっと手伝って!」
声を掛けられた。
知らんぷりして通り過ぎようかとも思ったが、その時は足を止めた。
恐る恐る人間山脈を見ると、下の段の中心にいたズコットが、
「あと一人足りないんだよ。てっぺんに乗ってくれない?」
と言って来た。
見ると五人で四つん這いになって二段目までは完成していたが、てっぺんには誰も乗っていない。
「えー……」
もともと木登り遊びとかが好きだったので、ちょっと興味はあったが、学校の廊下でやるのは恥ずかしい。
「ビートちゃんお願いー」
「ビート早くしてー、腕が攣りそう」
「クリスタリーゼ早くしろー」
「クリスタリーゼさんお願い」
ランセとピノとエレルと、おっとりしたもう一人の生徒に謎のプレッシャーを受けるビート。
ほんとうにやりたくなければ走って逃げたのだろうが、今回は好奇心の方が上回った。
「じゃあ、今回だけね」
ビートは上履きを脱いで山を登り始めた。
不安定でグラグラするが、中心にズコットがいるので謎の安心感がある。
頂上についた。膝立ちになり、胸を張って両手を広げてみた。
みんなも正面を向いてピシッと姿勢を正した。
廊下とグラウンドの間は全面ガラス張りだったので、その姿がガラスに映る。
「「「おおー」」」
みんなで感嘆の声を上げた。
通り過ぎる生徒たちは、写真を撮る人を邪魔しないようにする時の感じで、山の後ろ側を通る気づかいを見せる。
「で、これ何?」
ビートが聞くと、
「え? 急にやりたくなっただけだけど?」
と、ズコット。
「定期的にやりたくなるよねー」
続けてピノ。
「3ヶ月に一回はやらないと落ち着かねーよな」
さらにエレル。
「ビートちゃんは本好きだけど、本には書いてないんだよこういう事は」
最後にランセが言った。
正気かこいつら、そう思うビートだった。
もう一人の生徒はみんなを微笑みながら見ていた。
おっとりした雰囲気に、苺のような真っ赤なロングヘアの彼女の名は、ディタ・キルスターシュ。
名門キルスターシュ家の次女で、成績優秀、期末テストの後には襟に銀の苺をつけているだろうとみんなから思われている才女だった。
「ねえ、今度の週末みんなで海に行かない?」
おっとり系才女が言った。
「いいねー」
「行く行くー!」
などと返事を返す人間山脈たち。
「クリスタリーゼさんは?」
ディタに聞かれた。
「え? いや、私は、行かない……」
思わず断ったが、行きたいような、行ってみてもいいような、そんな気分だった。
ビートは本を読むのも好きだが、実はアウトドア派でもあった。
また、飛行魔法で飛べた事が成功体験となっていたのかもしれない。
自分を少し好きになれた事で、人を少し信頼してもいいかなと思えるようになっていた。
「えー行こうよビートちゃん」
「そうだよ行こうぜー」
食い下がるランセとエレル。
「二人とも、クリスタリーゼさんを困らせないの。けど、もし気が変わったら声を掛けてね」
ランセたちと違ってあっさりと引き下がられた。
そのまま行ってしまいそうな5人。
ビートは何か言おうとするが、言わずに視線を床に落としてしまった。
自分なんかが行ってもみんなが楽しんでるのを邪魔してしまうんじゃないか、そんな不安が頭をよぎった。
ビートのそんな動きを見ていたピノが、
「ビートもやっぱり行くってさ」
いきなりビートの手を取って集団に引き込んだ。
「あ、」
ふいを突かれるビート。
手を引きながら後ろを振り返り、小声でピノが言った。
「今回だけ、いいでしょ?」
戸惑いながらもビートは頷いた。
「あー、わたしにはムリに誘うなって言うくせにー」
それを聞いていたランセが抗議してくる。
「私はいいの」
ピノが力技で突っぱねる。
「んー、けど、ビートちゃん来てくれて嬉しいから今回は許します」
許された。
「じゃあ教室に帰って、みんなで海に行って何するか作戦会議しましょう!」
「「「おー!」」」
ディタの声にみんなで合わせた。
6人は教室へと向かった。
向かう途中。
「あの、さっきはありがとう」
ビートがピノにお礼を言うと、
「んー、っていうか強引に参加させちゃってごめんね」
困った表情で謝るピノ。
「ううん、誘ってもらって嬉しかった」
素直に答えるビート。
「そう、よかったー」
安堵の表情を浮かべるピノ。
「ビートちゃん、いっしょに遊んでくれてありがとう」
そして何故か割り込んできたランセからお礼を言われるビート。
「え、うん……」
それに困った表情で答える。
「いいけど、なんでアンタがお礼言ってんのよ」
ピノの言葉も聞かずに鼻歌を吹かすランセ。
「フンフ、フンフ、フーン、ごふッ、フンフ」
鼻歌の途中でむせたオレンジ髪のタヌキに釣られて、3人は笑った。
◇
教室にて、教壇の前に集まって会議する6人。
「やっぱり、ビーチバレーがいいでしょ」
ズコットが言った。
「私、砂のお城作りたい」
「本読むのがいいかも」
続けてピノとビートが言う。
「今年は暑いからもう海に入ろうぜ」
「みんなでお弁当食べたいわね」
さらに続けてエレルとディタが言った。
口々にやりたい事を言う友人たちにランセが口を開く。
「全部やりたい!」
——作戦会議は終わった。
◇
「っていうか海に行くまでにさ、ランセお前飛べるようになったら?」
と、エレル。
「えー、なんで?」
心底わからん、といった様子のランセ。
「みんなと飛んで行きたくないの?」
「ランセだけ自転車になるけど」
ピノとズコットが詰める。
「誰か一緒に杖に乗せてあげたら?」
「ランセちゃん、あたしが乗せて行ってあげてもいいけど」
ディタとビートが甘やかす。
ランセは何を思ったのか、
「じゃあ、ビートちゃんに乗せてもらいます」
胸を張って言った。
「はあー、ダメだこりゃ。いつまでたっても故郷に帰れんぞー」
ガックリうなだれるピノ。
「あ、そうだった。やっぱり練習します。ビートちゃんせっかくだったけどごめん!」
「え? うん、いいけど」
「じゃあ今からみんなで、ランセが飛べるように特訓する?」
ズコットが言うと、
「え、今から? あしたからでいいです」
ランセは尻込みした。
(やる気ないんかこいつ)
全員が思った。




