第34話 収穫祭
収穫祭当日の昼。
王都の端の地区に集合したランセたち6人。
防水機能のある厚手の生地の、白いワンピースタイプの制服を全員が着用していた。
靴も防水素材のローファー、腰には細い黒のリボンが巻かれている。
「ごめんごめん、待ったー?」
最後に到着したピノが軽く息を切らせながら言った。
「もー、ピノちゃん遅い!」
「ううん、全然まってないよー」
ランセとビートが言った。
「時間通りだし」
「ランセさん、意外と短気なのですね」
「いや、遅刻してねーんだから、短気じゃなくてわがままなだけだろ」
ズコット、ディタ、エレルが言った。
「ごめんごめん、って、ハイこれ」
ピノが全員に王都中心部に入るためのチケットを渡す。
6人がいる場所は、中心地からは歩いて小一時間ほど離れている。
そんな王都の端でも、建物に色とりどりの飾り付けがされていて、様々な出店などがあり、フルーツや花の甘い香りが漂っていた。
そして王都中心部からうっすら聞こえてくるパレードの音楽と、人々の歓声が気分を高揚させた。
「よーし、じゃあ行くよー」
「おー!」
6人は王都中心部に向かって歩き出した。
◇
収穫祭は、年に一度農作物の収穫を祝って行われる。
王都の中心部は人で溢れていた。
そして水も溢れていた。
「わー!」
「きゃー!」
水の来た方向に手をかざしながら、逃げるピノとディタ。
様々な方向から水が浴びせられる。
収穫祭は水かけ祭りだった。
使われる水はただの水ではなく、花やフルーツの香りのする、やや高級な水だった。
しかし人々はこの日ばかりは、お金のことは気にしないのだった。
「やったなー!」
「行くよエレル!」
背中にタンクを背負ってポンプで水を押し出す衛兵に向かって、ズコットとエレルがこの日のために覚えておいた、花の香りのする収穫祭専用の補助系水魔法を放つ。
「うおっ、君ら魔女か、ならこうだ!」
ポンプの出力を上げる衛兵。
「うわ!」
「ぎゃー、逃げろー!」
「ははは、まいったか!」
大人の本気に敗北するズコットとエレル。
街の人達はポンプの人もいれば、バケツを使う人、コップを使う人、オリジナルの水撒き道具を使う人などがいた。
この日を祭りと知らずに訪れた旅人なども、当然ずぶ濡れだ。
だが、初めは呆気に取られていても、人々の笑顔と祭りの雰囲気に飲まれて、しだいに一緒に楽しみ出すのだった。
「やたら水が冷たい人がいる」
ビートが怯えながら指差す先には、バケツに入った氷水をコップですくって撒く老婆がいた。
「おばあちゃん、なんでそんなに冷やしてるの?」
ランセが聞いた。
「ひひひ、その方が面白いじゃろ、そうら!」
「わー! つめたいー!」
この日は気温が高かったため風邪をひくことはないが、その水は目が覚めるほど冷たかった。
そんなこんなで、はしゃいでいたランセはみんなと逸れてしまった。
◇
「はー、冷たかった。ってあれ?」
あたりを見回すランセ。
「おーい、みんなー?」
人が多すぎて、どこが何処だかわからない。
キョロキョロしながら歩いていると、人とぶつかった。
「おっと、」
「あ、ごめんなさい」
頭を下げるランセ。
「チェルシーさま大丈夫ですか!?」
「ええ、大丈夫よ」
チェルシーに駆け寄るジル。そしてランセを睨んだ。
その後から、聖騎士学院生徒会のリリエラ、アジル、アンの3人がやってきた。
「あなたは大丈夫、魔女さん?」
「あ、はい、大丈夫です」
聖騎士たちは魔法女学園の制服を知っていた。
ジルの視線にびっくりしながらも、チェルシーの問いかけにランセは答えた。
水が乱れ飛ぶ中にあるというのに、聖騎士達は全く濡れていなかった。
「チェルシーにぶつかるとは不届な魔女だね。このまま帰していいの?」
リリエラが笑いながら聞く。
「もちろんダメです!しっかり罰を与えないと!」
ジルが吠える。
不穏な空気に戸惑いを隠せないランセ。
「こらこらあなたたち物騒なことを言わないで、怯えてるじゃない。もう言っていいわよ魔女さん」
生存本能が逃げろと言うのが聞こえた気がしたランセは、もう一度頭を軽く下げるとそそくさと行こうとした。
「あ、ちょっとまって」
ランセを呼び止めるチェルシー。
その声を聞いて、ランセは立ち止まって振り返ってしまった。
「あなたのような可愛い魔女さんが、どうしてそんな指輪をはめているのかしら?」
チェルシーの視線が向けられた先の指を、ランセは見た。
「これは……」
「私は指輪が好きでいろんな本や図鑑を読んだわ。あなたのしているそれは力を抑える指輪、そんなものをつけているなんてよっぽど力が強いのかしら」
チェルシーは不気味な笑みを浮かべながらランセに近づいた。
「ねえ、ちょっと外してみてくれない? その指輪」
ランセに手を伸ばすチェルシー。
「え? え?」
混乱して動けないランセ。
チェルシーの手がランセの体に触れそうになったその時、
「ちょっと待ちなよ! うちの生徒に何かようなの?」
声がかかり、チェルシーは動きを止めた。
助けに入ったのは、キース、ロザリエ、バニラ、ユズ、マルシュ、魔法女学園の2年生達だった。
「なにあなた、チェルシー様にその口の聞き方は」
胸を張り顎を上げて、声を発したキースを威嚇するジル。
「あらいけない、私ったら指輪のことになると目がなくって、ごめんなさいね。怖がらせてしまったわね」
しゃがんだ姿勢でランセの手を包むと、チェルシーは祈るように謝罪した。
そして立ち上がり、声の方を見た。
「あら、あなたキースじゃない」
キースを見て、チェルシーは少し嬉しそうな声色で言った。
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