表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/34

第34話 収穫祭


 収穫祭当日の昼。


 王都の端の地区に集合したランセたち6人。

 防水機能のある厚手の生地の、白いワンピースタイプの制服を全員が着用していた。

 靴も防水素材のローファー、腰には細い黒のリボンが巻かれている。


「ごめんごめん、待ったー?」


 最後に到着したピノが軽く息を切らせながら言った。


「もー、ピノちゃん遅い!」

「ううん、全然まってないよー」


 ランセとビートが言った。


「時間通りだし」

「ランセさん、意外と短気なのですね」

「いや、遅刻してねーんだから、短気じゃなくてわがままなだけだろ」


 ズコット、ディタ、エレルが言った。


「ごめんごめん、って、ハイこれ」


 ピノが全員に王都中心部に入るためのチケットを渡す。


 6人がいる場所は、中心地からは歩いて小一時間ほど離れている。

 そんな王都の端でも、建物に色とりどりの飾り付けがされていて、様々な出店などがあり、フルーツや花の甘い香りが漂っていた。


 そして王都中心部からうっすら聞こえてくるパレードの音楽と、人々の歓声が気分を高揚させた。


「よーし、じゃあ行くよー」

「おー!」


 6人は王都中心部に向かって歩き出した。





 収穫祭は、年に一度農作物の収穫を祝って行われる。


 王都の中心部は人で溢れていた。

 そして水も溢れていた。


「わー!」

「きゃー!」


 水の来た方向に手をかざしながら、逃げるピノとディタ。

 様々な方向から水が浴びせられる。

 収穫祭は水かけ祭りだった。


 使われる水はただの水ではなく、花やフルーツの香りのする、やや高級な水だった。

 しかし人々はこの日ばかりは、お金のことは気にしないのだった。


「やったなー!」

「行くよエレル!」


 背中にタンクを背負ってポンプで水を押し出す衛兵に向かって、ズコットとエレルがこの日のために覚えておいた、花の香りのする収穫祭専用の補助系水魔法を放つ。


「うおっ、君ら魔女か、ならこうだ!」


ポンプの出力を上げる衛兵。


「うわ!」

「ぎゃー、逃げろー!」

「ははは、まいったか!」


 大人の本気に敗北するズコットとエレル。


 街の人達はポンプの人もいれば、バケツを使う人、コップを使う人、オリジナルの水撒き道具を使う人などがいた。

 この日を祭りと知らずに訪れた旅人なども、当然ずぶ濡れだ。

 だが、初めは呆気に取られていても、人々の笑顔と祭りの雰囲気に飲まれて、しだいに一緒に楽しみ出すのだった。


「やたら水が冷たい人がいる」


 ビートが怯えながら指差す先には、バケツに入った氷水をコップですくって撒く老婆がいた。


「おばあちゃん、なんでそんなに冷やしてるの?」


 ランセが聞いた。


「ひひひ、その方が面白いじゃろ、そうら!」

「わー! つめたいー!」


 この日は気温が高かったため風邪をひくことはないが、その水は目が覚めるほど冷たかった。

 そんなこんなで、はしゃいでいたランセはみんなと逸れてしまった。





「はー、冷たかった。ってあれ?」


 あたりを見回すランセ。


「おーい、みんなー?」


 人が多すぎて、どこが何処だかわからない。

 キョロキョロしながら歩いていると、人とぶつかった。


「おっと、」

「あ、ごめんなさい」


 頭を下げるランセ。


「チェルシーさま大丈夫ですか!?」

「ええ、大丈夫よ」


 チェルシーに駆け寄るジル。そしてランセを睨んだ。

 その後から、聖騎士学院生徒会のリリエラ、アジル、アンの3人がやってきた。


「あなたは大丈夫、魔女さん?」

「あ、はい、大丈夫です」


 聖騎士たちは魔法女学園の制服を知っていた。


 ジルの視線にびっくりしながらも、チェルシーの問いかけにランセは答えた。

 水が乱れ飛ぶ中にあるというのに、聖騎士達は全く濡れていなかった。


「チェルシーにぶつかるとは不届な魔女だね。このまま帰していいの?」


 リリエラが笑いながら聞く。


「もちろんダメです!しっかり罰を与えないと!」


 ジルが吠える。

 不穏な空気に戸惑いを隠せないランセ。


「こらこらあなたたち物騒なことを言わないで、怯えてるじゃない。もう言っていいわよ魔女さん」

 

 生存本能が逃げろと言うのが聞こえた気がしたランセは、もう一度頭を軽く下げるとそそくさと行こうとした。


「あ、ちょっとまって」


 ランセを呼び止めるチェルシー。

 その声を聞いて、ランセは立ち止まって振り返ってしまった。


「あなたのような可愛い魔女さんが、どうしてそんな指輪をはめているのかしら?」


 チェルシーの視線が向けられた先の指を、ランセは見た。


「これは……」

「私は指輪が好きでいろんな本や図鑑を読んだわ。あなたのしているそれは力を抑える指輪、そんなものをつけているなんてよっぽど力が強いのかしら」


 チェルシーは不気味な笑みを浮かべながらランセに近づいた。


「ねえ、ちょっと外してみてくれない? その指輪」


 ランセに手を伸ばすチェルシー。


「え? え?」


 混乱して動けないランセ。

 チェルシーの手がランセの体に触れそうになったその時、


「ちょっと待ちなよ! うちの生徒に何かようなの?」


声がかかり、チェルシーは動きを止めた。


 助けに入ったのは、キース、ロザリエ、バニラ、ユズ、マルシュ、魔法女学園の2年生達だった。


「なにあなた、チェルシー様にその口の聞き方は」


 胸を張り顎を上げて、声を発したキースを威嚇するジル。


「あらいけない、私ったら指輪のことになると目がなくって、ごめんなさいね。怖がらせてしまったわね」


 しゃがんだ姿勢でランセの手を包むと、チェルシーは祈るように謝罪した。

 そして立ち上がり、声の方を見た。


「あら、あなたキースじゃない」


 キースを見て、チェルシーは少し嬉しそうな声色で言った。



お読みくださりありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ