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30話 うまくいく時



 姫との約束の日まで、あと17日。

 体育館。

 藁斬りの練習が始まった。


「ぜんっぜん、出来る気がしないわ」


 藁束に鈍い音をさせた後、ロザリエが言った。


「ホントにね。落下するように腕を落として、インパクトの瞬間に腰も落とすって、頭では理解できるけど難しいよー」


 目だけ上を見ながら、頭の中で動きをイメージしつつバニラが言った。


「ふん!ふん!」


 一心不乱に木剣を振るうユズ。


「待って、これ内観しない方がいいのかも」

「体に覚えさせたら、考えない方が良さそうね」


 野生動物からヒントを得たのか、ビスキュイ姉妹が言った。


「キースちゃんもう一回教えて」


 マルシュが真剣な表情で言った。


「うん、持ち上げた腕を落下させるのに合わせて、一瞬膝を抜くような感じで——」


 説明するキース。

 2時間が経過した。

 誰も藁を斬れずにその日は終わった。





 キースは家に帰ると、妹の部屋のドアをノックした。


「ディタ、ちょっといい?」


 少し間をおいてドアが開いた。


「姉様どうしたの?」

「ちょっと、手伝って欲しいことがあるんだけど」


 姉からの急な頼み事に、驚きつつも少し嬉しいディタ。


「手伝いますとも!」


 興奮気味に答えた。


「そ、そう、じゃあちょっと庭に来て」


 二人で庭に向かう。


「一年も薬斬りやってるでしょ? 私、今斬り方をクラスメイトに教えてるんだけど、いまいち教え方がわからないんだよね。今からあなたに教えてみるから、わかりにくいところがあれば言って欲しいのだけど」

「わかりましたわ!」


 目をキラキラさせて姉を見るディタ。


「う、うん、とりあえずこういう感じで——」


 ディタを相手に説明するキース。


「姉様さすがです! こんなことを考えながら斬っていたんですね」


 めちぎる妹。


「いや、あんまりめないでよ、悪いところを指摘して」

「悪いところなんてありませんわ!」


 久々に姉と長く話せて嬉しい妹は褒めるばかりで、説明方法を改善したい姉は困惑してしまっていた。


「二人とも一、ご飯よー!」


 母から声がかかり、姉妹の練習は終わった。





 それから10日が過ぎた。

 姫との約束の日まで残り7日。

 二年生はまだ誰も藁斬りに成功していなかった。


「よーし、今度こそ……」


 ユズは上段に構えると、木剣を藁束目掛けて振り下ろした。


ザンッ!


 はたから見ると、キレのない動きだったが、藁束は見事に切断され、斬られた藁が体育館の床に転がった。


「で、できたー!」


「えー、すごいじゃん!」

「うそ、できたの!?」

「うわーすごー!」


「ユズが一番乗りかー!」

「私のケーキが……」

「なんか悔しいです」

「見苦しい嫉妬やめな」


 藁斬りを成功させたユズに、驚くクラスメイトたち。


「ユズ先生、コツを教えて一」


 なぜか嬉しそうなバニラがユズに聞いた。


「えっとねー、体の中で弓を引き絞るように力をためて、解放するようにぶるんっていく感じ? かなり力を入れた後一気に脱力するみたいな感じかな、レモちゃんこれであってる?」


 キースの方を向くユズ。


「あってるも何も、斬れたらそれが正解だよ。でもそのイメージはわかりやすいかも。体の中で弓を引き絞るような感じなんだよね。あと、藁に剣が当たった時、藁の方に進む力と同じ力が剣先から自分に返ってくるみたいなんだけど、その反射してくる力を抑え込んで、全部藁に伝わるようにする必要があって、そのためには衝撃が来た時に押し返せるような姿勢の強さというか、体幹が必要みたいなんだよね。剣術の本によれば」


 キースは東国の剣士が書いた本の内容を、思い出しながら答えた。


「でた、体幹。けどなんとなく意味がわかったかも。さっきのユズの斬り込みは、剣が当たった時に体が全然プレてなかったんよね。体感トレーニングいっぱいやった方がいいのかもね」


 バニラが言った。


「はっはー。ずっと一人で体幹トレーニングしてた成果が出てしまったかー」


 ユズが頭をかきながら嬉しそうに自画自賛する。

 それを見たロザリエが言った。


「みんな、ユズに負けてらんないよ。今日から毎日、体幹トレーニング1000本やるわよ」


「1000本!? げえー」

「学園なくなるかもなんだから、まあ頑張ろうよ」

「しょうがない、たまには本気を出すか」

「あんた、まだ本気じゃなかったんかい」


 ユズの成功を見て、やる気を出すクラスメイトたちだった。





 そして姫との約束の日の前日。


ザンッ!


 藁束が切断され、体育館の床に転がった。


「で、できた〜!」


 藁斬りができない最後の一人となってしまっていたビスキュイ姉妹の妹、メルバがなんとか成功し、ヘナヘナと床にへたり込んだ。


「やったー! これで全員成功だね!」

「ああ、意外と楽勝だったな」


 ユズとロザリエが、メルバの背中をさすりながら言った。


「はあ~、ホントによかったよ~」


 今にも泣きそうなメルバ。


「できなかったらどうしよう、ってこっちまで緊張しちゃったよ」

「ホント焦ったわー。まあ出来ると思ってたけどさ」


 心底嬉しそうにバニラと、姉のペッシュが言った。


「あとは本番で頑張るだけだね」

「うん。妹の話だと一年もうまくいってるみたいだから、あとはホントにやるだけ」


 マルシュの言葉にキースが答えた。





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