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第3話 ショートケーキの魔女②


 パルフェ魔法女学園の初等、中等、高等科はそれぞれ3年制で校舎も違うが、制服は同じだった。


 襟まで白いワンピース——腰に黒の細いリボンのついた——と、黒のローファー。


 校章は色分けされていて、一年は緑、二年は白、三年は赤となっている。

 学年で成績優秀な上位3名には小さな銀の苺のブローチが貸与される。





 ビートは5才の時に飛行魔法が使えるようになった。


「お母様、見てー」


 ふわふわ浮かぶビート。

 母親は大層驚いた。


「うっそ、すごいわねビート! もう魔法が使えるようになったの?」


 飛行魔法は通常8才以降に覚える魔法だった。両親は喜んだ。


「ビート、お父さんにも魔法を見せてくれるかな?」

「うん」


 部屋を飛び回るビート。


「うおー、父さんは嬉しいよー!」


 泣きだす始末。


 ある時、飛行魔法で親が行ってはダメと言った場所に入ってしまう。

 そこで悪い魔女に見つかった。


 魂を傷つける魔法を撃たれた。

 翌日発見され、悪い魔女は牢屋に入れられた。


 以降、ビートは飛行魔法を使おうとすると、その時のことを思い出して恐怖で飛べなくなってしまった。


 でも、もう一度飛びたかった。飛ぶのが好きだったし、誰かのせいで自分の好きなことが出来ないのが嫌だった。




 ランセと本を貸す貸さないのやり取りがあった日の夕方、ビートが一人で校舎内の階段を登っていると、降りて来た二年の生徒と肩がぶつかった。


「痛ったーい」

「キースちゃん大丈夫?」


 二年の生徒に向かってビートは頭を下げた。

 頭を下げ終わると行こうとした。


「ちょっと待ちなさいよ」


 呼び止められた。

 緊張を隠しながら振り返る。


「ちゃんと謝ったら?」


 二人の生徒に睨まれる。

 ビートはもう一度頭を下げた。鼓動が高まるのを感じる。


「そうじゃないの、地面に頭をつけて謝って。悪い事をしたらそうやって謝るって、親に教わらなかった?」


 ビートは固まってしまった。

 二年の少女達は歪んだ笑みを浮かべて言った。


「親からちゃんとした教育を受けていないのね、かわいそうに」

「私達が教えてあげるから、やってみてごらんなさいな。頭を地面につけてごめんなさいって」


 ビートは固まったまま。


「ほら、早くやんなさいよ」

「聞いてんの!」


 今にも実力行使に移行しそうな二年生の二人。


「コラー」


 一部始終を見ながらも、誰か呼ぼうかどうしようか、まごまごしていてなかなか入るタイミングが見出せなかったランセが、ここでようやく割って入った。ビートの横に立つ。


「なによあなた」

「一年が、二年の私たちに楯突こうって言うの?」


 襟につけた校章を見られた。

 二年生の二人は銀の苺のブローチをつけている。


「一年とか二年とか関係ないです! そっちの方こそこの子に謝ってください!」


 硬直していたビートが驚いたような顔をした。


「なんで怪我をさせられた私が謝らないといけないの?」


 心底あきれたように聞く。


「わざとぶつかったじゃないですか、『ネイルつけて生意気、からかってやれ』って話してるのも見ました」


 ランセの言葉で、顔に影が落ちる少女二人。


「うるさい一年ね……」


 二人のうちキースと呼ばれた苺のように赤いボブヘアの少女が、腰から短いロッドを抜き放つと魔力を込め始めた。


「うそ、魔法使うんですか!?」


 もう一人の二年生も驚いた顔をした。

 授業や部活動以外で魔法は禁止されている。


 ランセはビートを見た。銀の苺のついた上級生だ。どんな強力な魔法を撃たれるかわからない。『逃げよう』 と、お互いの目が言った。


「わー」


 二人は手をつないで大急ぎで階段を駆け上がろうとしたが、ビートは足が硬直して動けず、階段の踊り場へ倒れ込んでしまった。


 バチバチと青い光を放つロッドが振り上げられた。


「これでもくらえ!」


 ランセがビートの前に目をつぶって立ちふさがり、魔法を受けようとしたその時。


「はい、そこまで」


 魔法女学園・初等科三年、生徒会長のベル・キャラメリーゼがロッドを止めた。

 同時に三年の、主席魔法使いレイも一年生二人を自分の背に隠していた。


 ベルはどうやったのか、止めたロッドに込められた魔力を消し去った。

 三年の二人の襟にも銀の苺が輝いている。


「授業と部活動以外は、校内で魔法を使うのは禁止だお」


 ベルは、なんか可愛い語尾で言った。


「ああ、ちょっと噛んだ。校内で魔法を使うのは禁止だよ」

「はあー、噛む音じゃないでしょ。せっかくカッコよく登場したのに台無し」


 ベルは、お茶目だった。





 二年の生徒二人は先輩達が連れて行った。おそらく謹慎処分となるのだとか。

 学校を休めるなんてうらやましいと思いながら、ランセはビートと教室まで歩いていた。


「あの、さっきはありがとう」

 

 ビートはいつものクールな表情を解いて言った。


「ううん、けど、先輩たちカッコよかったねー」


 笑顔でランセは答えた。


「うん……」


 しばしの沈黙のあと、


「さっきは田舎者とか土臭いとか言ってごめん!」


そう言って謝罪すると、返事も待たずにビートは教室まで走って行ってしまった。


「おおーん?」


 どうしていいかわからないランセは、首をかしげながらその声を漏らした。


 教室に帰ると、いつものポーカーフェイスのビートに戻っていた。

 先ほどまでと違って、話しかけづらい雰囲気を身にまとっている。


「うーん、わからん」


 ランセが一人つぶやくと、


「何がわからんの?」


ピノが聞いてきた。


「いや、何でもないです」


 ランセは自分の席に向かった。


「んー?」


 ピノはランセを目で追いつつ、ま、いっかと思いながら自分の席についた。

 今日の授業は全て終わり。

 日直のエレルが教壇の前に立ち、終わりの会が始まった。







 翌日、ランセの机の上には、『花冠のミルフィーユ』最新刊と、『昨日はありがとう』と書かれた手紙が置いてあった。ビートにお礼を言わないと、と思ったランセはビートの席の前に立った。


「本、貸してくれてありがとう」


 オレンジ色のセミロングの髪を揺らしながら、満面の笑みで言った。

 ビートは一瞬ランセの方を見たあと、そっぽを向いてしまった。


「え、あのー」


 思ってたのと違う反応が返ってきてランセは戸惑った。

 なんか気まずいのでそのまま自分の席に戻ってしまった。


 ズコットがランセの隣にしゃがみ、小声で話しかけた。

 ビートに嫌なこと言われた子たちも、翌日謝罪の言葉とクッキーが机の上に置かれていたことを教えてくれた。その後、そっけない対応をされたことも。


「こらズコット、お前そういうことやめろって言ってるだろ!」


 エレルがズコットに言った。

 ズコットは立ち上がるとエレルの方を向いた。


「あ、ごめんなさい」


 巨体に恐れをなしたエレルが謝るより先に、ズコットはこの国の人間が反省する時にやるポーズをした。


「よーしよし、いい子いい子」


 ピノがズコットの頭を撫でた。


 ズコットの母親は極端に噂話が好きな人で、それが自分にも写ってしまったと本人は気にしていた。治したいのだそうだが、うまく行ってないとの事。

 そんなズコットの話を思い出しながらも、ビートはなんでそっけないんだろう、もっと話たいのに。と、思うランセだった。







 夜、寮の部屋で水晶玉の中の人物と話すビート。


「そんな事ないって、頭ではわかってるんだけど……」


『みんなが攻撃してくる人に思えて、それで先に攻撃的なこと言っちゃうんだ。わかるよ』


「でも、本当に攻撃的な人には萎縮しちゃって何も言えない」


『ははは、厄介だね』


「本当にそう思う。でも私、自分も田舎の方の出身なのに、なんであんな酷いこと言っちゃったんだろ」


『助けてくれた子だっけ、その子に謝りたい?』


「うん、っていうか謝った。今回は直接」


『へえー、やるね』


「うん、助けてもらった時にあやまれた。でもあやまってすぐ逃げたから、許してくれたかも分からない。あ、でも今日、笑って話しかけてくれた。どうしていいか分からないから、いつものように無視しちゃったけど……」


『ははは、その子になら、人が怖いって言ってみてもいいんじゃない?』


「えー、それは無理、絶対無理!ぜーったいむり!」


『はは、わかったわかった』


「でも、クラスの人たちみんな私に優しく接してくれてる気がする。まあ、放っておかれてるだけかも知れないけど、私ひどい事ばっかり言うのに、いじめられたりしてないし」


『いいクラスメイトに出会えてよかったね。今度話しかけられたら、笑顔で返せるように練習しようか』


「えー……」


『優しく接してくれるクラスメイトのために』


「はー、……やる」



 ビートは、とあるグループで知り合った、姉のような存在と定期的に話していた。


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