閑話④「戦女神の聖域⑦」★
わたくしがこのダンジョンに閉じ込められて、一体どれだけの年月が経ったのだろうか……。
「70年? 80年? ……もはや正確なところは分かりませんわね」
まだ100年は経過していないと思うが……いつからか数えるのが煩わしくなって辞めてしまったので、詳細な年数は不明だ。
「ここ数年は新たに訪れる魂もめっきり減ってしまいましたし、孤独が耐え難くなってきましたわ……」
どういう理屈かわからないが、黄泉への道からやってくる転生者が年々減少しているのだ。今年にいたってはまだ一人も訪れていない。
彼らとの会話は思った以上に寂しさを紛らわせるのに役立っていたようで、最近はどんどん心が弱ってきているのを感じる。
「結局、あの子の使いもやって来ませんでしたわね……」
黄泉への道で出会ったチート転生券を所持していた少女。
彼女であれば約束を守ってわたくしを助け出してくれると思ったのだが、おそらくあれから30年以上経っている現在もまだその兆候はない。
前世の記憶はあっても黄泉への道での出来事は覚えていなかったのか……。
あるいは世界一の美女として転生したことで、華やかな生活に溺れてわたくしのことをすっかり忘れてしまったのか……。
はたまた魂は第二地球に辿り着いても、すぐに転生するとは限らない可能性だってある。
とにかく彼女との出会いで希望を持ってしまっていた分、落胆も大きかった。
「もう、疲れてしまいましたわ……」
顔を俯かせて魔力の泉を眺める。
そこには昔と全く変わらない17歳当時の姿のままで、氷の中に眠るわたくしの身体があった。
魔術を解いて遺体から伸びる紐を切断すれば……この長い長い苦行に終わりが訪れる。
もう十分頑張った。そろそろ解放されても良いのでは――
――ドォォォン!!
わたくしが生への執着を手放そうとした矢先、遠くから戦闘音のようなものが聞こえてきた。
続いてドラゴンの咆哮も響いてきて、ダンジョン内が激しく揺れ始める。
「まさか……。誰かが入ってきてモンスターと戦っていますの!?」
あの声は、間違いなく最奥に続く大部屋に鎮座するドラゴンのものだ。
モンスター同士が戦うことはまずないので、相手は人間の侵入者である可能性が高い。
にわかには信じ難いが……遂に、遂にわたくしの行動範囲内まで到達した者が現れたのだ!!
慌てて魔力探知を行いながら、ドラゴンのいる部屋の方角へと飛翔する。
「1、2、3……4人組のパーティ! し、しかもこの魔力量は――」
大部屋まで魔力の探知範囲を広げた瞬間、思わず驚きで息を呑んでしまう。
全員が……50年以上この魔窟で魔力を鍛え続けてきたわたくしと同程度かそれ以上!?
ここほど強大な戦力を備えた者たちが一気に4人も現れるなんて……!
無いはずの心臓がバクバクと脈打っているような感覚が全身を支配していく。
『グオォォォォーーーーッ!!』
わたくしが部屋に到着した瞬間、ドラゴンがその巨体をぐらりと揺らして地面に倒れ伏した。
同時に全身が光の粒子となって消滅していき、その場には大量のアイテムが残される。
「やるじゃないかシャイリーン。さすがはその歳にして全米最強と呼ばれるだけはあるね」
「あんたもな、アーサー・ロックハート。たった一撃でドラゴンにあんなにダメージ与えやがって、化け物かよ」
「おいおい、俺様を忘れてもらっちゃ困るぜ。この俺様がドラゴンの攻撃を抑えていたおかげだろうが」
「ちょっとみんな、無駄口叩いてないでもっと周囲を警戒して。そろそろ最奥でどんな怪物が待ち構えているかわからないんだから」
そこには4人の男女がいた。
眼鏡をかけた銀髪の美青年、筋骨隆々なスキンヘッドのマッチョマン、絶世とも呼ぶべき美貌を持つ金髪オッドアイの少女、それに彼らほど特徴的ではないが、額から二本の角を生やした黒髪の少女。
その誰もが桁違いの魔力量を持ち……そして、どこか懐かしい雰囲気を纏っている気がした。
……少女二人の方はちょっと縁が分からないですわね。
だけどあの銀髪の青年とスキンヘッドの男性! 魂の色がわたくしの知っている者たちに似ている気がしますわ!
「もしかして斧の戦士と青年王ではなくてっ!? わたくしのことを助けに来てくれたんですのぉーーーーッ!?」
歓喜の叫びを上げてふわふわと近づくが、彼らはビクリと肩を跳ねさせたかと思うと、物凄いスピードで散開して戦闘態勢を取った。
……あ、あら? ひょっとしてわたくしの事を覚えてない?
「うおっ! なんかとんでもないのが出やがったぞ!」
「凄い魔力のゴーストだ……。みんな気を引き締めろ!」
「霊体と空中に浮いている奴なら俺に任せろ!」
「ちょっと待ってスズ! あれってもしかして――」
「オラァァーーッ!!」
ツノの少女が制止しようと叫びかけるが、金髪の少女が凄まじい速さで距離を詰めてきたかと思うと、強烈な右ストレートを放ってくる。
紙一重で回避するが、拳が頬の辺りを掠めて血が滴り落ちた。
……何故!? 幽体であるわたくしに物理攻撃が通用するはずがっ!?
「待ってくださいましっ! わたくしは怪しい者ではありませんわ!」
「どこがだ! こんなダンジョンの奥深くにいる膨大な魔力を持ったドリルの幽霊が怪しくない訳ねえだろ!」
必死に空中を泳いで逃げ惑いながら話を聞いて貰おうとするが、金髪の少女は一切聞き入れてくれる様子がない。
しかも彼女は背中から羽を生やしたり、幽体に触れることもできるという意味不明な能力を持っており、一方的に追い込まれていく。
「ぐぇっ!?」
「やっと捕らえたぞ! さあ、観念――」
「スズ! やめなさいって言ったでしょ! 【万鈞雷花】!!」
「ぎょえぇーーーーっ!?」
わたくしを羽交い締めにしていた金髪の少女が、突如頭上から降り注いできた雷撃に撃たれて、地面へと落下していく。
プスプスと焦げ臭い煙を噴きながら床に転がった彼女に、ツノの少女がため息を吐きながら歩み寄った。
「あの幽霊がたぶんママの言ってたレイコさんだってば! 勝手に殴り掛からないの!」
「……そういえばお嬢様口調の金髪ドリルって言ってたな。あまりにも怪しい姿だったからつい」
金髪の少女が立ち上がり、ツノの少女と一緒にわたくしに向き直る。
「悪かったな、急に殴りつけて。……で、あんたがレイコさん?」
「そうですわ……! わたくしのことを知っているんですの!?」
「うん。私たちのママがね、昔ここであなたと友達になっていつか助ける約束をしたんだって教えてくれたの」
「……ッッ!?」
あ、あの子ですわ……っ! 覚えていてくれたんですのね……!
きっとこの二人はあのときの少女が転生した後、やがて素敵な男性と結ばれて授かった子供なのでしょう。
このダンジョンを攻略できる実力を持ち、最も信頼できる者として送り込んできてくれたのだ。
「本当に居やがるとは……あれは夢じゃなかったってのかよ……」
「僕も半信半疑だったけど、目の前に実物がいるとなると信じるしかないね」
二人の少女に続いて、スキンヘッドの男と銀髪の青年もやってくる。
やはりわたくしの思った通り、彼らは斧の戦士と青年王が転生した者たちだったようだが、どうやら前世の記憶は殆どない様子だ。
だけど黄泉への道でのわたくしとの会話だけは薄っすらとだけ覚えていて、ずっと小骨が喉に引っ掛かったみたいな違和感を感じていたらしい。
そんなある日、少女たちがこのダンジョンを攻略するという話を耳にして、同行したいと申し出たそうだ。
そうして彼ら4人組はパーティを結成し、今日ここまでやって来たのだという。
「う、うう……。無駄では、無駄ではなかったんですのね……」
ぽろぽろと涙が零れ落ちる。
およそ百年近くもの間、諦めずに耐え続けてきた甲斐があった。わたくしの苦労と黄泉への道で出会った者たちとの交流は……決して無意味ではなかったのだ。
わんわんと泣き続けるわたくしの身体を、金髪の少女がギュッと抱き締めてくれる。
……ああ、温かい。
人のぬくもりとは、これほどまでに心安らぐものでしたのね……。
「もう少し、もう少しだけ醜態を晒すことを許してくださいまし……。わたくし……本当に寂しかったんですのよ……」
「うん。好きなだけ泣けばいいさ。あんたはそれだけ頑張ったんだからな」
それからしばらくの間、わたくしの嗚咽する声だけがダンジョンの中に響き渡った―――。
◇
ひとしきり涙を流した後、改めて4人と自己紹介を行う。
斧の戦士の生まれ変わりはマサル、青年王の転生体はアーサー、そしてあのときの少女の子供たちはそれぞれシャイリーンとリノという名前らしい。
彼らを連れてダンジョンの最奥――わたくしの遺体がある魔力の泉の部屋まで案内する。
「……どうです? 何とかなりそうかしら?」
聞いたところ、外ではあれから70年以上の月日が流れていたらしく、様々な回復アイテムや魔道具が発見されているとのことだった。
だからここまで到達できる実力を持った彼らなら、わたくしの身体を蘇らせることができるアイテムを持っていたり、そうでなくても何か方法を知っているかもと期待したのだが……。
「「「「…………」」」」
泉の中で氷漬けになっているわたくしの身体を見た4人は、難しい顔をして押し黙ってしまった。
やがてアーサーが大きくため息を吐き出すと、意を決したように口を開く。
「残念だが、僕のデータによると……この状態から回復させるアイテムは未だ発見されていない」
「そう、ですの……」
「エリクサーでも無理なの? 私たち一個持ってるけど」
「エリクサーは生きた人間に対しては万能薬だけど、死体を蘇らせることはできないんだ。レイコは現在ゴースト――所謂アンデッドの状態であり、肉体は完全に死んでいるからね……。エリクサーを使ったところで意味はないんだよ」
アーサーが沈痛な面持ちで首を横に振る。
正直覚悟はしていたが、改めてはっきりと言われるとショックは大きい。
「とりあえず俺様たちでボスを倒しちまってよぉ~、遺体を外に運んでから方法を調べてもいいんじゃねえか?」
「いや、レイコが幽体を維持できているのは、魔力の泉が電源代わりになってるからだ。コンセントを抜いてしまったら、充電が切れた途端に消滅してしまう可能性が高い」
「ん~……ならもうしばらくここで待ってもらうのは? ここは非消滅型ダンジョンみたいだし、俺たちが外でレイコの身体を蘇生させる方法を見つけ出すまでさ」
「――いえ、結構ですわ。このまま一緒に連れて行ってくださいまし」
わたくしが決意を込めて告げると、4人は戸惑ったような表情を浮かべる。
もう……一人で待つのは疲れた。彼らと会話して人との繋がりの大切さを再確認してしまった今、再び独りぼっちになってしまうのは耐えられない。
「今のわたくしの魔力であれば、魔力の泉との繋がりが切れても数日は持つはずですわ。その間に外の世界を堪能させてくださいな。それが終わったら……田中家の墓に埋葬してくださいまし」
何か言いたそうにしながらも、4人はわたくしの真剣な眼差しを受けてゆっくりと頷く。
そしておよそ70年ぶりに魔力の泉から遺体は引き上げられ、氷結状態から解除されると、マサルの背中に乗せてもらい、いよいよノーライフキングの待つ部屋へと向かうことになった。
巨大な鉄の扉を開けてボス部屋の中に入ると、凄まじい威圧感を伴った漆黒の瘴気が吹き付けてくる。
「へ~……。さすが『冥界迷宮』のボスなだけあって、相当な魔力の波動を感じるね」
「だが俺様たちにかかれば……」
「まあ問題なさそうだよな。さっさと終わらせて、レイコを外に連れ出してやろうぜ」
「そうだね。じゃあ行くよ、みんな!」
リノの合図とともに全員が臨戦態勢を整えた瞬間、ノーライフキングが王座から立ち上がり、悍ましい咆哮を上げて襲い掛かってきた。
……
……
……
かつてはどう足掻いても敵わないと思っていた、天上の存在であった不死の王。
だがそんな規格外の怪物は――
「――――【万鈞雷花】!」
『グオォォォォォォーーーーッ!』
しばしの攻防を繰り広げた後、アーサーの剣とマサルの拳によって地面に倒れ伏し、リノが放った雷撃により身体が完全に硬直させられてしまった。
そして動きの止まったノーライフキングの上空から、純白の翼を広げたシャイリーンが流星のように舞い降りてきて……!!
「これで終いだぁーーーッ!!」
『アギャァァァーーーーーッ!!』
黄金の剣がその身体を突き破り、断末魔の悲鳴を上げながら骸の王が塵芥となって消滅していく。
――あっさりと、本当にあっさりとアンデッドの王は討伐されてしまった。
ああ……なんと素晴らしい景色であろうか。彼らの戦う姿は、まるで神話の英雄が如く勇壮で、荘厳で……。
特にあの子の娘シャイリーン。
黄金の髪に赤と青のオッドアイ。純白の翼に白銀の甲冑、そして髪と同じ色の黄金の剣。その姿はまるで戦乙女――
いや……戦女神とでも言うべき神々しさだった。
……今、唐突に理解した。何故ここ数年転生者が減っていたのか。
それはきっと――あの子が生まれたからだ。
もうこの世界に彼女以上の存在は現れない。そう判断した誰かが、強者の魂を送り込んでくるのを止めてしまったに違いない。
そんな風に納得してしまいそうな程に、シャイリーンは特別な何かを感じさせる存在に見えた。
「よっしゃあ! 倒したぜ!!」
「あ、何かドロップしたよ」
シャイリーンとハイタッチしていたリノが、床に転がっている白い花のようなものを指差して叫ぶ。
一方アーサーとマサルは、部屋の中央に出現した宝箱の中からカードのようなものを取り出し、それを観察しながら何やら話し込んでいた。
「これは……どこかに入るための鍵のようだね」
「……んだよ。『なんちゃらの資格があるか試練を受けるか』とか言ってたからなんかすげーもんゲットできると思ったんだが、まだ試練の第一関門だったってオチか?」
「皆ちょっと集まって! この花の効果だけど――」
鑑定系の魔道具と思われる片眼鏡で花を確認していたリノが、興奮した面持ちで振り返る。
「――これ、死んでアンデッドになった人間を生き返らせられるらしいよ!!」
◇
部屋に出現した帰還の転移陣に乗って外に出ると、ちょうど夜明けを迎えたばかりなのか、地平線上から美しい朝日が昇ってきていた。
最後に太陽を見たのはいつだったか思い出すのも難しいほど昔のことだったので、あまりの眩しさに思わず目を細めてしまう。
「……本当にいいんですの? それって今まで見つかったこともない超貴重なレアアイテムなんでしょう?」
「愚問だろ。あんたは俺の母親の"親友"なんだ。それに……俺たちだってもう友達だろう? 皆も異論ないよな?」
全員が深く頷いて同意してくれる。
「シャイリーン……。皆さん……」
「スズって呼んでいいぜ。親しい奴はみんなそう呼ぶからさ」
スズはニカリと笑いながらわたくしの手を取り、ノーライフキングからドロップした"死者の花"を握らせる。
すると花弁から魔力の奔流が溢れ出し、遺体となったわたくしの全身に行き渡っていった。
そして数秒の静寂の後……わたくしの幽体は吸い込まれるように肉体へと融合していき、一瞬の暗転の後にゆっくりと目蓋が開いていく。
「――ッ!?」
呼吸ができる! 心臓が鼓動を刻む感覚がある! 足で大地を踏みしめることができている!
その感覚は夢のような、けれど紛れもない現実のもので……。
「あ、ああ……! 蘇り、ましたわ……。"田中 霊子"遂に復活ですわぁーーっ!」
「わぷっ!」
感激のあまり、傍にいたスズの小さな身体を抱き締めながらぴょんぴょんと飛び跳ねる。
そのままの勢いで他の3人も抱擁した後に、再度みんなで輪になり喜びを爆発させた。
「へへ……。なあ、提案なんだが、俺様たちいっそこのままパーティを組まないか? 俺様たちならきっと最強で最高のチームになるぜ!」
しばらく騒ぎ終えたタイミングで、マサルが照れ臭そうに頭をかきながらそんなことを言い出した。
「それはいいね。あのカードキーで挑戦できるダンジョンも気になるし、僕たちで裏世界の秘密を探ってみるというのも面白そうだ」
「わたくしも賛成ですわぁ~!」
「俺もお前らとは気が合うし、【世界の覇者】ってのが気になるから、付き合っても――」
「だめだめ! マネージャーとしては許可できません! スズは今度ミスティの中学生編の撮影も控えてるし、来月には新作のハリウッド映画の収録もあるでしょ? 今はスケジュール詰まってるんだから、そんな時間はないの!」
「ちぇ……。わかったよ」
せっかく意見が一致したと思ったのに、リノが厳しい表情で却下してしまう。
まあ……スズはどうやら世界的な有名人で多忙らしいし、致し方ないことかもしれませんわね。
「それは残念だね。だけど、もし気が向いたら連絡しておくれよ。僕たちはいつでも歓迎するからさ」
「ああ、時間に余裕ができたらぜってー参加するよ」
「絶対ですからね、スズ? わたくし、もうパーティ名も考えてありますのよ!」
自信満々に胸を張るわたくしを見て、全員は興味深そうにこちらを見やる。
"英霊"たちの集う場所、その名も――
「――――【戦女神の聖域】……ですわっ!!」
◇◆◇◆◇◆◇
長い長い昔話が終わり、わたくしはふぅ……と大きな息を吐いて椅子の背もたれに体重を預ける。
「……で、結局その一年後にメサイア教団の策略でスズが指名手配になったことがきっかけで、僕たちは再び一緒にパーティを組むことになったんだよね」
「改めて思い返してみると、俺様たち【戦女神の聖域】は随分と奇妙な運命の糸で繋がってたんだなぁ」
「それにしても……レイコって犬瀬恋侍に恨みはないの? 聞いている限りだと、彼のせいであんな酷い目に遭ったのに」
「そうですわねぇ~……確かに最初はムカついていましたけど、結果的にこうしてあなたたちと巡り逢えたのですし、今は特に憎んでいませんわ。わたくしの家族や友人にも手は出さなかったみたいですし」
机に置かれている紅茶のカップを掴み、口を付ける。
わたくしが『冥界迷宮』から帰還して実家に戻ると、なんと正太郎はまだ生きていた。
あれからさっちゃんと結婚して4人もの子供を授かり、幸せな家庭を築いていたらしい。
突然70年以上前の姿で帰ってきたわたくしを見た弟は、「やっぱり姉ちゃんはどこかで生きてるって思ってたよ」と、皺だらけの顔をくしゃりと歪ませながら喜んでくれた。
正太郎はその半年後に、先に逝ってしまったさっちゃんのところへ旅立ってしまったが、子供たちや孫、それにひ孫たちにまで囲まれた大往生だった。
恋侍とは全く真逆の幸せな最期でしたわね。
そして先人と千夜子はわたくしが行方不明になった後もパーティを組み続けていたらしいが、先人の元には何故か才能豊かな美少女たちが次々と集まり、やがて最強のハーレムパーティが結成されたのだとか。
千夜子は結局恋愛バトルに敗北してしまったようだ。
先人はその中の一人と結ばれて、子供をもうけたらしい。
しかしその後、"魔王アビス・ディザスター"との戦いでパーティは全滅。千夜子を残して先人を含めた全員が死亡してしまったという。
そこに至るまで様々な出来事があったみたいだが……それはわたくしの物語ではないので割愛する。
「それに今の煌びやかな時代の方がわたくしには合ってますし、若い姿のままこの時代を謳歌できてることにむしろ感謝してるくらいですわ~」
……まあ、それはそれとして、犬瀬家に侵入したときは怪しげな書類は片っ端から頂いてまいりましたけどね!
オ~ッホッホッホ~!!
「くか~……すぴ~……」
「まったく……この子から話を聞きたいと申し出ておきながら、途中で寝てしまうんですから……本当にお子様ですわよねぇ」
ソファーで涎を垂らして爆睡するスズの柔らかい頬っぺたをプニプニと突っつく。
むにゃむにゃと口をモゴモゴさせながらわたくしの指をパクっと咥える彼の姿に、全員が目を細めて頬を緩ませた。
「それより……いよいよ来月は"奈落"の攻略だね」
「ああ、あのカードキーは奈落の深層に挑むために必要なもんだって判明したしな。最奥には何が待ち構えているのか楽しみだぜ!」
「でもメサイア教団も邪魔してくるだろうし、気合いを入れていかないとねー」
アーサーたちの話に耳を傾けながら、ソファーで眠るスズの金色の髪を優しく梳く。
「……【世界の覇者】ですか。わたくし、もし裏世界を制する者がいるとしたら、それは他ならぬスズではないかと思っておりますの」
わたくしの言葉に、三人は小さく頷き同意を示す。
「僕はこの世界でもトップクラスの実力を持つと自負しているけど……スズは正直言って測り知れないね。僕は王ではなく、一人の仲間としてこの子が頂点に立つ姿を見てみたいと思っている」
「俺様も同じだな。レイコによると前世の俺様は頂点を目指したがっていたみたいだが、頂点に立つ者の仲間の戦士くらいが俺様にはちょうどいい。美味しいポジションじゃねえか」
「私は世界の全てがスズの敵に回ったとしても、この子の味方をするって最初から決めてるから。どんな困難が訪れてもスズを守り抜いて、私たちの望む結末を勝ち取ってみせるよ」
それぞれが確固たる意志を込めながら、微笑を浮かべる。
わたくしもそうしたい。
"親友"――アンジェリーナの子。そしてわたくしを救ってくれた恩人。
スズがあのとき抱きしめてくれたぬくもりを、忘れる日は一生ない。この子のためにわたくしは全力を尽くし、最強の矛にも盾にもなろう。
「もしアームストロングや他の連中が如何なる手段をもってしてもこの子を害そうというのなら、わたくしたちが全て打ち砕いて差し上げましょう!」
それが――戦女神の元に集まった、"英霊"たちの宿願なのだから。
スヤスヤと幸せそうな寝顔を浮かべる金色のお姫様の顔を眺めながら、わたくしたちは拳を合わせて誓い合うのだった――。
次はいよいよ最終章!
大魔境グンマ突入編が始まります!
最後まで全部書き終わってから一気に投稿するので、続きはもうしばらくお待ちくださいm(_ _)m




