閑話④「戦女神の聖域⑥」★
「ああ、そうか……。俺は死んじまったんだった。何であんな馬鹿なことしちまったんだろうな……」
「後悔しているんですのね……」
「まあな、やり直せるなら今度はもっと上手くやりてぇもんだぜ」
それから更に数十年の時が過ぎ、わたくしの移動範囲は大幅に拡大しており、奥の光までは未だ到達できていないものの、かなりの自我を残している者と遭遇することができるようになっていた。
今日出会ったのは、立派な斧を携えた筋肉隆々の青年だ。
彼は今まで会った人物の中でも特に意識がハッキリしており、生前の記憶も殆ど保持している様子で、多くのことを語ってくれた。
なんでも彼は"アストラルディア"という剣と魔法の世界でトップクラスの冒険者として活躍していたものの、才能の限界に気づいた結果、魔に堕ち、最後はかつての友人に討たれて命を落としたのだという。
「なんだか事情を聞く限り、自業自得な気もしますけれど」
「うるせぇ! 分かってるよ! だから余計に後悔してるんじゃねぇか!」
「他人と比べてばかりの人生などつまらないですわよ? 人は誰しもがオンリーワン。唯一無二の価値を持っているのですから」
「お前を見てると本当にそう思えてくるよ……」
「オ~ッホッホッホ~! ならば来世ではもっと自由奔放に生きることをお勧めいたしますわ! 仮に誰かと比較するとしたら、それは昨日までの自分自身とだけにしておくことですわね!」
「ガハハッ!! そうすっか。難しいことなんて考えずに毎日筋トレして自分を磨いたり、美味い飯を食ったり、いい女を侍らせてみたり……やりたいことを片っ端から全部やってみるのも面白そうだな!」
「ええ、是非ともそうしてくださいませ!」
笑い合うわたくしたち。
だが、そんな楽しいひと時も束の間。斧を持った青年の姿が透け始めてしまう。
「楽しかったぜレイコ。来世に記憶が残っているかは分からねぇが、もし覚えていたらまた会おうぜ!」
「このダンジョンの入り方も教えましたし、助けに来てくれることを期待していますわよ!」
「おうよ、任せとけ! じゃあな!」
最後にニカッと爽やかな笑顔を見せると、青年は人魂となって光の中へと消えていった。
「……と、何人もそう言ってくれていますけど、結局誰も来ませんのよねぇ~」
わたくしも前世の記憶なんてないし、きっと転生したら全て忘れてしまうものなのかもしれませんわね。
まあでも、こうして話しができるだけでも十分ありがたいことですわ!
◇
「僕は立派な王で在ろうと努めてきたつもりだけど……無念だなぁ」
「理不尽な力によって、国や民……自分の命まで奪われたのですわね。同情いたしますわ」
今日出会ったのは、剣と魔法と、そして闘争の世界"ストラグルディア"で暮らしていた、とある国の若き王。
彼は民を第一に想う優しく正義感溢れる賢王だったが、たった一人の圧倒的な暴力により国は蹂躙されてしまい、国民は虐殺され尽くした上に自身もその命を散らしたという悲劇の人物だった。
「……優しさは大事ですが、人の上に立つならばやはり力も必要なのですわね」
「ああ、僕にはそれが足りなかった。もし次が有るのなら、今度は誰にも負けないような絶対の力を得たい……」
「オ~ッホッホッホ~! 逞しい殿方は素敵ですわよ! ……ただ、強いだけではわたくしの世界ではやっていけませんわ」
「というと?」
「情報力ですわね! これからの時代は知識こそ最も重要な武器になりますのよ!」
「へぇ……それは確かに興味深い。そうだね、様々なデータを集めてそれを基に優れた策を練り、それを武と組み合わせることができたら最強かもね」
「ですわですわ!」
しばらく話をしているうちに、青年王の身体が透け始めた。
「ありがとうレイコ。とても有意義な時間を過ごせたよ」
「こちらこそですわ! あ、それと……もしよろしければいずれわたくしを助けに来てくださいな」
「頑張って忘れないように努力してみるが……あまり期待しないでくれよ?」
青年王は苦笑を浮かべると、人魂となって道の先に飛び去って行った。
……ふぅ、また一人新たな出会いがありましたわね。
これまでこの道を通って来た沢山の人たちと話をしてきたが、いくつか分かったことがある。
まずここを歩いてくる者は、別の世界からやって来ているということ。
世界はわたくしのいるこの"第二地球"以外に五つか六つほど存在しているようで、神様の気紛れなのか何か意図があるのかは不明だが、極稀に自分のいた世界とは別の場所に転生させられる者が出るらしい。
そういった者たちがこの"黄泉への道"を通り、わたくしのいた世界に生まれ変わる……というのが、今まで得てきた情報から推測した結論だ。
それとどうも時間軸も捻じ曲がっているようで、同じ世界からでも色々な時代の人たちがやって来る。
例えばわたくしの住む世界そっくりの場所から来た人でも、侍のような恰好をしている人もいれば、スマホとかいう謎の機械を持った未来人っぽい人もいた。
あとは何故か言葉も通じる。外国人や異世界人でさえ普通に会話ができるのは謎すぎる……。
「まあ、魂の通り道や輪廻転生なんて人間には到底理解できない次元の現象ですからね。深く考えても仕方ありませんわ」
ただ、死んでも先があるかもしれないというのは、ゴーストのわたくしとしては少し心救われる気持ちになりますけれどね。
◇
「こんにちは! ですわぁ!」
「うわ、びっくりした! こんな場所に金髪ドリルのお嬢様ってどういうこと!?」
今日は中学生くらいの日本人の女の子と遭遇した。
髪はチリチリのボサボサ。目つきも悪いし顔はそばかすだらけで、正直言ってあまりかわいいはいえない娘だ。
しかも今まで出会ってきた人たちはその世界でも選りすぐりの凄腕だったり、地位や名声を得ていたりする人物が多かったが、彼女からはそういった特別さを全く感じない。
だというのに、何故か他の誰よりも意識がクリアだし、まるで生きている人間のように生命力に満ち溢れている。
「えっと……私、女神さまにこっちに行けって言われたんだけど、お姉さんこの道の番人かなんかですか?」
「いえ? わたくしはただの一般幽霊ですことよ? オ~ッホッホッホ~!」
空中を浮遊しながらドリルヘアーをギュイーンと回して自己紹介をする。
「一般幽霊!? こっちの世界の人って皆そんなキャラが濃いの!?」
「ええ、そうでしてよ? あなたもこちらに転生するなら、これからどんどん個性を出していかなくてはなりませんわよ!」
「私はとんでもない世界に生まれ変わろうとしているのかもしれない……」
軽快なトークを交えながらも、なんとか彼女の事情を聞き出すことができた。
どうやら彼女はわたくしのいる世界とそっくりの別世界、"第三地球"に住むごく平凡な学生だったが、無謀にもダンジョンに挑戦した結果、あっさりと死亡してしまったらしい。
「ふむ、そっちの世界には裏世界はないけどダンジョンはあるんですのね。……しかし何の力もないのに無茶をしましたわねぇ~」
「私……ブスだし学校ではいじめられてたし家にも居場所がないから、思い切って人生を変えようと思って……」
「で、何もできないまま簡単に死んでしまったと」
「うん……」
「それにしては妙に魂のエネルギーが高いような気がしますわね……。女神様とやらに会ったと仰っていましたが、それが原因なのでしょうか」
今まで何人もの魂を見送ってきたが、神様と会ったと主張する者とは初めて出会った。
これは詳しく聞いてみる必要がありそうですわ。
「女神さまが言うには、私が死んだことによって【世界の覇者】とかいうのが誕生したらしくて、その功績を讃えて別世界に転生させてくれるんだって」
「世界の覇者? あなた生前に何をしたんですの?」
「別に何もしてないよ。くっさいダンジョンに入ってゾンビみたいな奴に襲われて瞬殺されたぐらい」
……ふぅん? 『風が吹けば桶屋が儲かる』的なものなのかしら。
とにかく彼女はただ死んだだけだが、それがきっかけになって"第三地球"で何か大きな事が起こったらしい。
「それで女神様ってどんな方でしたの? わたくし一度お会いしてみたいのですが、どうすれば会えるのか教えていただけます?」
「それがあまり覚えてないんだよね……。とにかくこの世のものとは思えないような超美人だったってことしか……。どうやったら会えるかも全然わかんない」
「残念ですわ~! せっかくお知り合いになれると思ったのに!」
「あ、あとね! これ貰った!」
少女は一枚の紙切れを取り出すとわたくしに見せてくれた。
凄まじい魔力を感じるその紙面の一番上には、『チート転生券』と書かれており、裏面には細かい文字で色々と注意事項のようなものが記載されている。
「どうやらこれにあなたの希望を書けば、女神様が望み通りの特典を付けて転生させてくれるみたいですわね」
「ど、どうすればいいと思うレイコさん。さっきからずっと考えてるんだけど全然思いつかなくて……」
「オ~ッホッホッホ~! せっかくならありったけ欲張って書き込むべきですわよ! とりあえず"世界一の美女"と書いてしまいましょう!」
「え~……いきなりハードル高くない?」
遠慮がちに渋る少女だったが、結局わたくしの助言を受け入れることにしたようで、震える手で【世界一の美女】とペンを走らせた。
すると文字がピカっと光り、チート転生券が発していた謎の魔力が減少する。
「どうやら願いを叶える度に魔力が消費されていくようですわね……」
「つ、次はどうしよう」
「そうですわね~。世界一の美女になるんだから、"抜群のスタイル"とか"いつまでも若々しい身体"とか"ハリウッド映画の主演レベルの演技力"なんかもあっていいですわね」
「おぉ~……! そ、それなら"大金持ち"とか"どんな服も完璧に着こなせるファッションセンス"とかも欲しいかなぁ!」
「おっ、乗ってきましたわね! この調子でどんどんいきますわよ!」
それから二人でいろいろな案を出し合った。
最終的に彼女の持つチート転生券に10項目ほどの望みが書き込まれた時点で、券の魔力は完全に枯渇してしまう。
「これで完璧ですわね!」
「……そういえば、戦いに関するチートを書くの忘れてたけど、レイコさんの世界って裏世界とかいう危険な場所があるんだよね?」
「あ……」
や、やってしまいましたわ……!
美しさ関連にこだわり過ぎてそっちの部分を失念してしまうとは……!
「ま、まあ裏世界に入らなければ問題ありませんわ。来世では危険なことはなるべく避けるように致しましょう」
「うん……。色々相談に乗ってくれてありがとうレイコさん」
「オ~ッホッホッホ~! 気にしないでくださいまし。友達なら当たり前ですわぁ~!」
「……と、友達」
「いえ、むしろ"親友"と呼んでもよいかもしれませんわね!」
「あはは……! 幽霊だし、文字通り"魂"の友達だね!」
短い時間ではあったが、わたくしたちは確かに絆を育むことができた。
二人揃って微笑み合って拳を合わせる。
「私、今日の事忘れないようにするから、いつか必ずあなたを助けだしてあげるね!」
「楽しみにしておりますわよ!」
願いの中に、"前世の記憶を保持"もある。
彼女自身は戦闘関連のチートを持っていないのでここに来ることは不可能でしょうが、いつの日か誰か手練れを派遣してくれることに期待するとしましょう。
これでようやく脱出の可能性が見えてきましたわぁ~!
わたくしは薄く光りだした少女の手をしっかりと握りしめる。
「行ってらっしゃいまし! いつかわたくしの世界で再会できることを心より願っておりますわよ!」
「うん、それじゃあまたね!」
少女は小さく手を振ると、笑顔で道の向こう側へと旅立っていった。




