エンジェルライト
「腕が硬い。もっと柔らかく」
「や、柔らかく……うーん」
亜麻色の長い髪をした『ティナ』という選手がよく分からないという表情をした。
魔王との一件から二ヶ月が経過した。
あれからというもの予選トーナメントに向けて練習していたのだが、二週間前にこのティナという選手がエンジェルライトに加入した。
彼女はペンディスとは別の街のチームの選手としてプレイしていたらしいのだが、エンジェルライトの入団試験を受けてきた。
ティナは女性にも関わらず、百八十五という高身長でチーム一の背が高い。
天才的とも言えるリバウンド力とディフェンス力を持っており、入団試験ではラグリーのダンクを見事には叩き通すという荒技を見せた。
しかし、そんな彼女に重大な弱点があった。それは――
「ああ。またエアった……」
フリースローラインからのジャンプシュートはリングに触れる事なく落ちた。つーか、エアったってなんだ。いやまぁエアボールの事なんだろうが。
このように彼女はシュートがド下手なのである。ティナはダンクシュートすら外すこともある。
最初はシュートの上手いアイリにシュート率の指導を任せたのだが、次の日にティナは泣いて俺に指導するよう頼んできた。アイリが怖いらしい。ちなみにティナは俺より二つ上なのでアイリより年上なのである。
「膝を柔らかくして打ってみるか。高くジャンプして」
「わ、分かった!」
ティナが高くジャンプし、着地するとある二つの物体が数回大きく揺れた。おお、すげぇ揺れっぷりだな。思わずボールの軌道を見ず、本能的にそこを見てしまっていた。
「やった! リングに当たった! どう、ユウタくん?」
「へ? ああ……今みたいなイメージで打てばそのうち入ってくると思う。うん」
全くボールなど見てなかった為、誤魔化すため、そう答えた。
「ちょっと、ユウタ」
こんこんと誰かに肩を叩かれた。振り向くとハレスがムスッとした表情で俺に見てい。
「なんだ、ハレス?」
「我にももっと色々と教えて欲しい。ティナばかりに構いすぎであるぞ」
「いやぁ、だって。もう俺の指導は必要ないだろ。もうフリースローもだいぶ入るようになったしな。自分で練習しても伸びると思うぞ」
「だ、ダメである! えーっと、スリーポイントとか! もっと教わりたいことがあるのだ!」
「リオンから聞け」
そういうと、ハレスが「ぐぬぬ……」と悔しそうな表情をした。
「我はユウタに教えて欲しいのである!」
「あらあら。ハレスちゃんったら、ユウタくんが取られそうで不安なんだね。可愛い」
ティナは微笑みながらハレスの頭を撫でた。ハレスの表情は見る見るうちにトマトのように真っ赤な色へと変貌した。
「ち、違うのだーーーーーーー!」
ハレスは叫びながら、逆サイドのコートへとドリブルしながら移動した。本当、あいつ一体どうしたんだ……
「モテモテで辛いね。ユウタくんは」
「はぁ?」
ティナの訳の分からない発言に首を傾げると、ガラガラガラと扉の開く音が聞こえた。入ってきたのはリオンとラグリーであった。
「みんな! 集合して!」
リオンが興奮した様子で叫んだので、俺も含め自主練習していたみんなはセンターサークル内へと集合した。
「これ見て! ついに予選トーナメントの組み合わせが決定したのよ!」
俺たちは予選トーナメントの組み合わせが書かれている紙を覗き込んだ。
一回戦の相手は『デビルメイデンズ』というチームであった。
「おお! デビルズメイデンズではないか! ここと試合ができるのか?」
「ちょっと、ハレス。このチームのこと知ってるの?」
なぜかリオンが嫌そうな顔をした。
「うむ! このチームの試合を見て我はバスケをしようと思ったのである!」
そういえばそんなこと言ってたな。
「なぁ、リオン。デビルメイデンズってのはどんなチームなんだ?」
「決勝トーナメント出場を掛けた試合で対戦したチームよ……負けたけどね」
リオンが自嘲するように語った。それはさぞや悔しかっただろう。
「でも聞いて! このチームひどいのよ! 試合が終わったあと、うちの選手を軒並み勧誘して、残ったのは私一人! 私も含め、みんなかつてラグリーさんに助けてもらった身だってのに!」
「助けてもらったってのは?」
「そんな大したことじゃないよ。ただ私が選手の怪我を治しただけさ」
「いえいえ! みんな、選手生命が絶たれる危機だったんですよ! 私だって試合中に一度靭帯をやって、もうダメかと思っいたところをラグリーさんが何とかしてくれて。本当に感謝しています!」
「あははは。魔王と戦った時でさえ、そんな怪我しなかったのにね」
ラグリーが愉快そうに笑った。どうやらリオンが今まで受けたダメージの重さは、
バスケの怪我<<<(超えられない壁)<<<魔王の攻撃
らしい。
「ラグリーさんに少しでも恩を返す為に、みんなこのエンジェルライトに移動したってのに、あいつらと来たら……本当にもう!」
ゴンとリオンは床を叩いた。ゴンという力強い音がなり、コートにヒビができるんじゃないかと思ってしまった。
「デビルメイデンズの監督も正直好きじゃないのよね。油っぽくて太ってるし。いかにも下心丸出しな感じで私の体をジロジロと見てたし」
「それは多分、自意識過剰だと思うぞ」
「何ですってー!」
アイリの言葉にラグリーが激おこぷんぷん丸……いや、激怒した。二ヶ月経過するというのに相変わらず、この二人はなかなか打ち解ける気配がない。
「まぁまぁ、二人とも。とりあえず落ち着いて」
ラグリーが割って入り、何とかリオンは怒りの矛を納めた。
「と、とにかく! みんな、デビルメイデンズに移籍なんてしたらダメだからね! あれは絶対に顔で採ってるわ! 在籍してる選手見て確信したもの!」
ほう、ちょっと気になってきた。一度試合を見に行きたい。
「ちょっと、ユウタ? 何か考えてた?」
「いえ、ちっとも」
怖い。超怖い。このチームの女性は見た目こそ良いが、怖い人が多い。いや、怖いのはリオンとアイリだけか。
「とにかく! まずはデビルメイデンズをギッタギタのボッコボッコにする為、練習あるのみよ! みんな、早速練習しましょう!」
リオンに促され、俺たちは立ち上がり、練習メニューに取り掛かろうとした。
「あ、ちょっと待って。ユウタにお願いがあるの」
「お願い? 何だリオン?」
そう訊くと、リオンが真面目な表情で見つめた。
「今日からユウタにキャプテンをやって欲しいの」
「俺に? 良いのか俺で」
「うん。多分、私よりも向いてると思うから。みんなはどうかしら?」
リオンは俺のキャプテンの就任について他のみんなにも意見を訊いた。
「我は構わぬ!」
「私も良いよー!」
「私もです」
「まぁ、良いんじゃない?」
「私もユウタくんで賛成です!」
みんな、俺がキャプテンをすることに特に異論はないようだ。
「みんな賛成みたい! どう、ユウタ?」
「分かった。それじゃ、やらせてもらうよ!」
「ふふ、良かった! それじゃよろしくね! 『キャプテン』!」
「ああ。それじゃ……練習するか!」
「「「「「「「おおー!」」」」」」」
天使や元凄腕の冒険者、魔王の娘、転生者など、個性豊かなメンバーが揃うエンジェルライト。
日本で死んでしまった俺はこの世界で今日も楽しくバスケを続けていく。




