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旅立ち

「おい、誰か三分測ってくれるものはおらぬか?」

「それじゃ私がやるよ。『エンジェルタイマー』」

 宙に黄色い魔方陣が現れ、中から天使の羽のようなものがついた可愛らしいタイマーが出て来た。

「すごい! ラグリーさん、見たこともないような魔法使いますね!」

 ミツキが感激した様子でラグリーを褒め称えた。本当すごい便利な魔法だな。

「ま、まぁね。それじゃ三分セットするよ」

 タイマーには残り時間三分と表示される。

「それでは、勇者がドリブルしたら開始で良いな?」

「ああ」

 額から汗が流れてくるのを感じた。魔法の配下はいつでも取ってやると言う風にこちらの様子を伺っている。

 覚悟を決め、俺は地面にボールを着いた。『ダム』とボールの弾む音が鳴る。

「ゆけ! お前たち!」

「「「うおおおおーーーーーーー!」」」

一斉に魔王の配下たちがこちらに向かってきた。それと同時に『ピー』という甲高いタイマーの音が聞こえた。

 俺はひとまず、走ってくる軍勢から距離を取るため、逆方向に逃げた。この部屋結構、広い。

 うまく行けば逃げ切れると思う。魔王自身は動くことなく真剣な表情でこちらを見つめていた。

「お前たち! 二手に分かれて挟み撃ちにしろ!」

 指示通り、軍勢は二手に分かれ、半分は逆方向へと向かっていった。

 逃げ続けていると、もう片方の軍勢がこちらに迫ってきた。

「これで終わりダァ!」

  左手には壁であるため、俺は右に移動した。全員手を伸ばし、ボールを取りにいったが、なんとか姿勢を低くし、手でボールをガードしながら、脱出を試みた。

 しかし、

「悪く思わないでください! 魔王様のために!」

 思いっきりメイさんに思いっきりタックルされ、体勢を崩した。ボールは転々と俺から数メートル先へと転がっていき、メイさんとは違う、牛の姿をした二足歩行の魔王の配下が拾おうとした。

「渡す……かぁ!」

 痛みをこらえ、地面を蹴る。なんとかボールを奪われる前にボールを拾い、息を切らしながら再びドリブルした。

「ほう……あれで諦めぬとは。見上げた根性だな。勇者よ」

 魔王が賛辞を送っている最中、後ろからカットしに来る輩がいたので、俺は左手にボールを持ち替え、カットされるのを防いだ。

「く、くそー! 全然、こっちを見てなかったのに! 貴様、魔法使ってるんじゃないだろうな!」

 サイの姿をしたような魔王の配下が俺に不正魔法疑惑を吹っかけてきた。

「使ってねぇし。できねぇよ!」

 そんな捨て台詞を吐いた後、再び軍勢から逃れるため、俺はドリブルで移動する。

「ふん、では我も直々に貴様からボールを奪ってやるとするか!」

 ついに魔王が動き出した。魔王の動きは配下とは比べものにならないくらい速く、すぐに俺に接近してきた。

「くそ……! 速すぎるだろ! 魔法使ってるんじゃないだろうな?」

「ふははは! 馬鹿め。これくらい魔法なしで動けなれば到底魔王など名乗れぬわ!」

 積極的にドリブルをカットしに来る魔王に対して、レッグスルーやスピンムーブを駆使して躱すが、他の魔王の配下に注意をする余裕が全くなくなった。

「ミロス! お前はそっちに回り込め! サイオンとシーカは後ろに回り込んで攻めろ!」

 魔王の配下たちも俺のボールを奪いに来た。それでもなんとかかいくぐっていたが、残り時間、一分を切った時、下から誰かの手にボールを触れられ、高くボールが舞い上がった。

「貰ったぞ、勇者よ!」

 魔王がボールを奪うため、飛びついた。

「まだだ!」

 俺もまだ諦めない。全力を込めてジャンプし、ボールを取りに行く。

 互いに身体と身体が激突し、ボールはどちらの手にも収まることはなく、ダムダムと小さく弾んでいた。

 だが、まだ取れそうだ。俺は起きて、ボールが弾んでいる地点まで行こうとした。

 しかし、

「うわ!」

 顔面を地面にぶつけた。痛みで思わず顔をしかめてしまった。膝も強く打ち、力が入らない。

「ちょっと! あいつ、足かけたわよ!」

 リオンの怒声が耳に届く。確かに誰かに足を引っ掛けられた気はした。

「ごめん! 足を引っ掛かっちゃった? わざとじゃないからしょうがないよな」

 先ほど俺に不正魔法疑惑を吹っ掛けたサイの姿をしたような魔王の配下が悠々とボールを拾おうとした。

 くそ、こんなところで……

「立って! ユウタくん!」「ユウタくん! 負けないで!」「てめぇ! 負けたらぶっ殺すぞ!」

 俺に応援してくれる元エレメンツメンバーの三人。

「ちょっと、ユウタ! あんたがいなくなったら困るんだけど! 早く起きなさい!」

 容赦なく発破を入れてくるリオン。相変わらず手厳しいな……

「負けるな! ユウタ……いや、伝説の勇者! 伝説の裕太!」

 いや、ラグリー。伝説の勇者って。

「ま、負けないでくれー! ユウター!」

 大声でハレスが叫んだ。やれやれ、しょうがねぇなぁ。そんなに応援されたら……

「負けられねぇじゃねぇか!」

「これで魔王軍の勝利……」

「ダラァ!」

 一瞬、わずかにサイの姿をしたような魔王の配下がボールに触れたが、ボールに飛びつき奪い返した。

「おい、魔王……まだ勝負は続行でいいな?」

「ああ。勿論だ」

「すみません! 魔王様! 折角のチャンスを逃してしまって!」

 平謝りする配下に対し、魔王は魔王は、

「バッカ野郎!」

 と思いっきり殴り、奴は派手に吹っ飛んだ。痛そうに奴は頬をさすっていた。

「ま、魔王様……」

「余計な事をするな! ここまでハンデを貰っているのにそんな勝ち方しても何の意味もないわ!」

 ほう。曲がりなりにも魔王としての誇りやプライドを持っているということか。

「待たせて悪かったな! 行くぞ勇者よ!」

「おお! 来やがれ!」

 残り時間は一分を切っており、何度も何度もピンチになりながらもボールをキープし続けた。

「残り時間は十秒!」

 ミツキが俺にそう告げた。あと十秒……たかだか二分五十秒しか経っていないというのに、永遠と錯覚してしまうくらい長い時間だった。

「ここまで粘るとは本当に驚いたぞ。だが、もう終わりだ。周りを見てみろ」

 俺の周りに魔王の配下たちが円陣を作るように取り囲んでいた。

「貴様はこれで終わりだ」

 魔王も円陣の中へと加わり、ジリジリと距離を詰めてきた。やばい、ドリブルで突破できそうなスペースがどこにもない。

「くそ……消えるドライブでも出来ればな」

 残念ながらそんな必殺技は持ち合わせていない。これで失敗すれば終わり。

 だが、この方法しかなさそうだ。絶対に成功させてみせる。

 俺は魔王に向かってドリブルした。

「無駄だ! このテリトリーからは逃れられん!」

「いや、悪いがここは突破させてもらうぜ!」

「ほう?」

 魔王は不敵な笑みを浮かべた。やれるものならやってみろ。暗にそう告げているような表情であった。

 魔王が右手で俺のボールを取りに行く。そこで素早いクロスオーバーでボールを左手に持ち替え、さらにそこからフェイクを使い、魔王の重心を揺さぶった。

「何!?」

 魔王は体勢を崩し、前に派手に転んだ。俺は魔王をジャンプして飛び越え、円陣の中から抜けた。

「あ、アンクルブレイク……」

 リオンは驚いたような声が耳に届く。

 そう、俺がしたのはアンクルブレイクと呼ばれるディフェンスを転ばせる技術。高いドリブル技術を駆使し、相手の重心を揺さぶることで成功する高等テクニックである。

「魔王様!」「大丈夫でございますか!」「お気を確かに! 魔王様!」

 魔王の配下達はまだ勝負中だと言うのに倒れる魔王を心配し、駆け寄った。

「三、二、一……」

 ミツキが残りのカウントダウンをし、タイマーの残り時間がゼロになると『ピー』という勝負の終わりを告げる音が鳴り響いた。

「貴様ァ! 魔法を使いやがったな!」

 メイさんが胸ぐらを掴んできた。最初見た時の穏やかな表情とは違い、憤怒の表情をしていた。

「使ってねぇよ」

「嘘をつけ! ならば、何故あんな不自然に魔王様が転ぶのだ!」

「ちょっと! 言い掛かりはよしてよ! 裕太は何もしてないわ!」

 リオンが叫ぶと、メイさんはリオンのことを睨んだ。ものすごい迫力のせいか、リオンは「ぐ……」と声を出し、怯んだ。

 すると魔王は立ち上がった。服の埃を払い、俺とメイさんの近くにやってくる。

「よせ……メイよ。我らの負けだ」

「で、ですが、魔王様……」

 メイさんは腑に落ちないといった様子で俺を睨んでいた。

「我には分かる。この者は魔法など全く使っていなかった。それにメイ。お主がハレスにバスケットボールを買い与えたのであろう。お主はハレスがバスケをするのに反対であるのか?」

 なるほど、メイさんが前に言っていた執事だったのか。そういえば、ハレスがエンジェルライトに入団したって言ったのに対して驚いてなかったしな。

「いえ、反対ではありません。ただ、勝負に負けて悔しいだけですよ」

「そうか。我も負けるというのは悔しい。だが、負けは負けだな。おい、雷の女帝よ。うちの娘を頼んだぞ」

「雷の女帝は止めろっての……まぁ、ビシバシ鍛えてあげるわ!」

 照れているのか、そっぽを向いてハレスが答えた。

「おい、勇者よ。そういえば名前聞いてなかったな。名は何という?」

「五十嵐裕太だ。いずれ、世界一のバスケットボールプレイヤーになる男だ」

「そうか。ユウタよ。先ほどの攻撃は実に効いたぞ。うちの娘を任せた。だが……」

数秒ほど顔を伏せたあと、アイリに匹敵するような怖い表情を見せた。

「娘に手を出したら、人間界……いや、世界を破壊する!」

「わ、分かりました」

 凄みに圧倒されてしまい頷いた。

 俺はリオン達が立っているところへと移動した。

「お疲れ! ユウタ! さっきのはすごかったわ! あんな技が使えるなんて!」

 リオンが先ほど魔王の使ったアンクルブレイクを賞賛してくれた。

「いや、あれは偶然できた技だ。実戦じゃとても……」

「うんうん。ユウタくん。あれはすごかったよ!」

 リオンと同様、アンクルブレイクに感心した様子のミツキ。いやぁ、ミツキの笑顔を見ていると何だか和む。

「うん、カッコよかった! また見たい!」

 そんな嬉しいことを言ってくれるリンカ。リンカも大概いい人である。

「まぁ、私には通用しないけどな」

 そして、先ほどのプレーに感化されたのか対抗意識を持つアイリであった。

「よ、魔王キラー」

 グッとラグリーがサムズアップした。なんだその異名は。さっきから変なあだ名ばかりつけるんじゃない。

「ゆ、ユウタ」

 ハレスが俺の服の裾を掴んできた。

「何だ?」

「我の為に……本当にありがとう!」

 ハレスがとてもいい笑みを見せてくれた。この才能の塊とまたバスケができるというのはとても幸福な事だ。俺も負けるつもりはないけどな。

「どういたしまして」

 ハレスは魔王の方を向き、

「父上殿! 我は立派な……いや、ペンディス一のバスケットプレイヤーになってまいります」

「ふん! どうせなら……世界一になって戻ってくるがよい!」

 話している途中で魔王は後ろを向いてしまった。目に手を当てているところを見ると、多分泣いている。

「それじゃ、みんな帰ろうか」

 ラグリーが瞬間移動用の魔王の準備をしていた。

「ああ、そうだな」

 魔方陣の中に俺たちは入る。相変わらず窮屈である。しかし、出発する時よりもお互いの距離(物理的に)がどこか近づいたように思えた。

「皆様。どうかお嬢様を頼みます」

 ぺこりとメリーさんが頭を下げた。

「ええ! 任せておいて! じゃーねー魔王! また会いましょう!」

「断固お断りだ……雷の女帝よ」

「じゃあな! メリーよ!」

 リオンとハレスは手を降った。

「それじゃ行くよ! 『ワープ』!」

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