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新たな世界へ

「チェックだ! チェック! 四番を徹底的にマークしろ!」

 相手の監督の指示が耳に届く。フェイクを駆使し、巧みに相手のディフェンスを躱した。

 俺の名前は五十嵐裕太いがらしゆうた

 俺は今、静岡県高等バスケットボール大会の決勝戦中であり、大勢の前でプレイしている。

 俺の高校は例年初戦敗退していた弱小だった。

 自分で言うのも何だが今年の春、俺は親の都合でとある都内の強豪高から転校してきたことにより、うちの高校は劇的に戦力を増した。

 俺の身長は百七十五センチとあまり高くない身長ながらも持ち前のスピードとテクニックを武器にここまでたくさん得点を稼ぎ、何とかここまで勝ち上がって来た。


 ダブルチームをドリブルで強行突破する。フリースローラインで急ストップし、シュートモーションに入った。

「打たすかぁ!」

 相手のセンターが立ちはだかった。大きくジャンプしたでかい身体をしているセンターは俺の視界を狭くする。

 シュートはまだ打たず、相手が着地したのを確認し、俺はシュートを打つべく高く飛んだ。

「な……フェイクか!」

 しっかりとフォロースルーした。今日の俺は絶好調。全く外す気がしない。

 ボールは縦回転し、パサっとリングに吸い込まれた。

 会場から『ワー!』という歓声が湧き上がった。点差は八十一対八十。

 点差は僅か一点差。しかし、俺のチームの方が負けている。それに残り時間も少ない。

「みんな。オールコートプレスだ! 絶対に勝つぞ!」

 俺はチームメイトに声をかけた。

「「「「おお!」」」」

 他の四人が俺の声に応えるかのように気合いを入れた。

 お世辞にも才能があるとは言えない四人である。しかし、これまでの練習や試合、必死に俺についてきてくれた。


 必死のディフェンスで相手からボールをスティールしようと試みる俺たち。

 しかし、相手のチームもインターハイ常連校だけあって、なかなかボールを取らせてくれない。

「いいぞ! そのままキープしろ!」

 相手チームの監督が叫んだ。くそ、あくまでもボールをキープし、やり過ごすつもりか。

「みんな! 頑張って! 絶対に取って!」

 今度はうちの監督、水上美香子みずかみみかこ先生が叫んだ。美香子先生は今年で三十路になり、絶賛恋人募集中である。メガネをかけた地味目の顔だが、とても性格がよくこれまでバスケ部のために練習試合を組んでくれたりと非常に素晴らしい先生である。

「絶対にとる!」「おお!」「ああ!」

 味方の三人がボールを持った選手に対して、プレスを仕掛けた。

「何!? 三人がかりだと!」

 ボールを持った選手が一瞬怯んだ。奴は必死にパスを出す相手を探していた。

 よし――今だ。


 鳥肌が立ち、自分でも身体の中が熱くなっているのを感じる。

フリーの選手にパスを出す敵の選手。俺はパスを出す相手を読み、パスカットを成功させた。

「しまった!」


 そのままドリブルし、一気にフロントコートまでボールを運んだ。

「行かすか!」

 敵の四番と六番がダブルチームで俺にディフェンスしてきた。これまでの試合の疲れのせいか何だか身体が重い。

 抜けないと判断した俺はすぐさま味方にパスを出した。パスを出したことで意表をつかれたのか、敵の動きが一瞬硬直したのを俺は見逃さない。

 ボールを持っていない状態で四番と六番の間を縫うように抜き、リターンパスを受け取った。

「いけ! 裕太!」「決めろ裕太!」「決めて! 裕太くん!」

 監督とチームメイトの声が聞こえてきた。

 時間は残り二秒。俺の立っている位置はフリースローラインの一歩手前。

 俺は息を整え、平然と練習と同じように身体の力を抜き、シュッとシュートを放った。

 シュートは高いアーチを描き、そして――そこで俺の意識が無くなった。



 気がつくと、俺はあたり一面の白い部屋におり、茶色い椅子に腰掛けていた。

 周りを見渡すと無と読んでも差し支えないほどの殺風景な部屋。ここは一体どこなのだろうか。


「気が付いたようだね」

 すると、俺の目の前に突如、さらさらとした長い銀色の髪と翡翠の瞳をしており、水色のドレスを着た俺より十センチほど低い少女が現れた。その少女は肌は色白くきめ細かやで、とても美しい見た目なのだが無表情でどこか神秘的な雰囲気を醸し出しており現実の人間とは隔離している印象を受けた。

 それを確信させるように背中には白鳥のように白く大きい翼が生えている。

「あ、あなたは一体……」

「私はラグリー。君たち人間で言うところの『天使』ってところかな」

 機械のように抑揚のない口調でこの少女は自分を天使であると宣言した。

「て、天使!? それにここは一体……」

「ここは上界と下界の狭間。私は迷える魂を地獄、もしくは天国に送るの仕事をしているんだ」

 どうやら、ラグリーという少女は閻魔大王のようなことをしているらしい。

「に、にわかには信じられないな。それじゃ、俺は死んだってことか?」

「うん。そうだよ」

あっさりと頷き、俺の死を肯定するラグリーだった。

「そんなバカな! まだ俺は十八だぞ! 死因は一体なんなんだ?」

「心臓発作だよ。きみは試合中、あまりに無茶をしすぎたようだね」

「そ、そんな……」

 さっきまであんなに熱中して試合をしていたのに、こんなにあっさり死んでしまったなんて信じられない。

「なぁ。ラグリー、あの試合はどうなったんだ? 勝ったのか?」

「うん。勝ったよ。君が最後にブザービーターを決めてね」

 ラグリーの言葉を聞いて俺は安堵した。というか、この天使よくブザービーターなんて言葉知ってるな。結構バスケに詳しいのだろうか。

「そうか。なら良かった」

「実はここから君の試合を見ていたんだよね。私もバスケットが好きでよく試合見るんだけど。それにしても不憫だよね。君のチーム」

「不憫だって? 何でだ?」

「君が居なければもはや勝ち抜けないじゃない。はっきり言ってインターハイに出場しても無駄だよ」

 ラグリーの言葉に思わずムッとした。

「そんなこと言うなよ。あいつらだって一生懸命練習してきたんだ。例え俺が居なくても……あいつらならなんとかやっていけるさ」

 俺の言葉を聞いたラグリーは口元をわずかに緩めた。

「そっか。随分と信頼しているんだね。けど、君のチームメイトは君が死んでものすごく悲しんでいるよ」

 ラグリーは俺の前に手をかざすと、正方形のテレビ映像のようなものが映り出した。映っているのは病院のベッドで死んでいる俺を取り囲み、悲しんでいるチームメイト達だった。

「裕太! 死ぬな裕太!」「目を覚まして裕太!」「一緒にインターハイでプレイしようと言ったじゃないか! 起きろ……起きろ裕太!」「せっかくお前のおかげでインターハイに行けるってのに……死ぬなよ! なぁ!」「裕太くん……」

 みんなはそれぞれ、死んでしまった俺に悲しみの言葉を投げかけている。その様子を見て、思わず目頭が熱くなる。

「あ、あいつら……ちくしょう……すまねぇ」

 溢れ出る涙を手の甲で拭った。これまで、みんなとは色んなことがあった。合宿での練習、遠征試合……休日はみんなでバーベキューもしたりした。とっても楽しかったな。

「こんなにチームメイトに慕われるなんて、君は本当に幸せ者だね」

「なぁラグリー。出血大サービスで生き返らせたりなんかってのは?」

 ダメで元々、俺はラグリーに訊いてみた。

「ダメ」

 やっぱりダメだった。くそ、固いなぁ。そこは「いいよ!」と言うべきじゃないのか。

「やっぱりダメか」

 すると、ラグリーは俺の周りをゆっくりと歩き出した。

「そこで……君に提案があるんだ」

「提案?」

「うん。君が大のバスケットが好きだと言うのは分かる。残念ながら蘇らせることはできないけど、『異世界』に飛ばしてやることはできるよ。どうかな?」

 異世界などというとてもファンタジックな言葉に耳を疑った。異世界というのはラノベとかでよく出るあれのことだろうか。

「い、異世界だって?」

「うん。この世にはいくつもの異なる世界が存在しているんだ」

パチンとラグリーが指を鳴らすと、部屋が暗くなった。

 すると、俺の周りに地球儀サイズの黄色い惑星や虹色の惑星、銀色の惑星といった複数の惑星の立体映像のようなものが浮かび上がった。

 再び部屋が白くなると浮かび上がっていた惑星の映像がフッと消えた。

「君が行くのはその中の一つ。私が管理している世界の一つだよ。君を生き返らせる権限は私にはないけど、別の世界に行かせることは可能だよ。そして、驚くべきことに、なんとそこの世界にはバスケットがあるんだ。別の世界のプロバスケはまだそこまでレベルが高くないし、高校生の君でも十分通用すると思うんだ。ただ、君のいた世界と違うのは男女混合で試合が行われるってところかな。それでも大丈夫?」

 信じがたい話であるがバスケが出来るなら、願ったり叶ったりである。本音を言えば元の世界に生き返らせて欲しいのだが。

「行く! 絶対に行く! また生き返ってバスケができるなんて、最高じゃねぇか!」

 俺の心はとてもワクワクした。まさか、異世界でバスケするとは思いもよらなかったが、兎にも角にもまたバスケができる。

 男女混合という点も別に俺は構わないと思った。男女でバスケをしたのはミニバス以来なので少し不安だが、まぁ何とかなるだろう。

「それじゃ、君に異世界の言葉を喋ることができる力を授けるね。あと、バスケがしたいなら、今から私が飛ばす場所の目の前に木造建ての体育館があるからそこに入って、中にいる選手にこれを渡してちょうだい。すぐ、あなたをチームメイトに迎い入れてくれるはずだよ」

 ラグリーは一枚の紙を手渡した。

 文面は見たこともない文字で何だが分からない。

「なんて書いてあるんだ。これ?」

「向こうにつけば分かる。準備はいい?」

 ラグリーがビシッと俺の顔に指を差した。

「あ、ああ……」

 思わず頷く俺。すると、俺の座っている場所の地面に黄色い幾何学模様が描かれた魔法陣が浮かび上がった。

 ラグリーは目を閉じると、俺に対して両手をかざした。

「それじゃ、行くよ裕太……『ディファレントワールドトランジション』!」

 ラグリーが俺を名前で呼んだ。呪文のようなものをラグリーは唱えると、俺の身体はぐにゃぐにゃとした暗い異空間のような場所に投げ出された。

身体の向きが目苦しく変わり、どっちが上か下か分からなくい。今まで体験したことのないような未知の感覚具合が悪くなりそうになった。

 気がつくと、いつの間にかしらない場所に立っていた。

 自分の服装を確かめると、普段、自分が練習に使ってるような黒のスポーツTシャツとバスパンを着ていた。ラグリーと会った時に着ていたのは試合のユニフォームだったのだが、これはラグリーのサービスなのだろうか。

 俺の目の前には、ラグリーの言った通り、木造建ての体育館と思わしき建物があった。青色の屋根が付いており、大きさは普通の体育館くらい。

ちなみに周りを見渡したが、その建物以外の建物は見つからず、人気は全く感じなかった。

 あるのは、たくさんの大きな樹木とこれでもかというほど生い茂っている雑草ばかりである。

 本当にこんなところににバスケットの選手がいるのだろうか。入るのを非常に躊躇った。仮にバスケットの選手がいたとして、変な目で見られたらどうしよう。そんな不安に駆られた。

 おそらく初めて外国に行った時ってこんな感じなのだろう。死ぬ前に一度くらい外国に行っておきたかったな。

 俺は意を決し、建物へと向かった。扉を引くと、『ダムダム』というボールの弾んでいる音が聞こえた。

 靴を脱ぎ、扉を開け、体育館コートの中へと入る。

 日本とほとんど変わらない立派なコートであり、コートの中にはポータブル型のリングが置いてあった。ボードはアクリル製である。

 そして、コートでは一人の選手が練習していた。

 その選手は海のように碧い髪の毛をゴムで結っており、長く尖った耳をしていた。『彼女』は雪のように白い肌をしており、青色のユニフォームを着ていた。ユニフォームにはこの世界の文字で四番と書かれていた。

 どうやらラグリーの言う通り、この世界の文字が読めるようになっているようである。

 ユニフォームの番号から察するにこの選手がキャプテンなのだろうか。

 彼女は俺がコートに入ってきたことに気がついていないようである。俺は少し彼女を観察してみることにした。

 彼女はスリーポイントラインから、鋭いドライブを決めた。

 そして、ペイントラインに入ると高らかにジャンプし、

「オラァ!」

 彼女の叫び声に俺は思わずびびってしまった。なんと、男顔負けの力強いワンハンドのダンクシュートを決めたのである。

「す、すげぇ……」

 思わずそんな感想が口から溢れる。

 胸の奥底が熱くなった。これが俺と彼女との初めての出会いであり、第二のバスケ人生の始まりである。


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