応援(1)
好きと恋の違いがよくわからなった。
好きだから楽しい。
恋をしったら切ない。
だけど、その人を応援してしまう。それが、幸せだから
【応援】
(1)
中学三年の六月に、私は部活を引退した。
母親の勧めで始めたバ レーボールは一度も試合には出れなかったが、母親は毎試合会場に来ては、友だちに声援を送っていた。 どうせ試合に出れないのだから来なくて良いと言ったが、母はそれでも仕事を休んで会場に足を運んだ。
応援席の一番後ろに座った母は、胸の前に手を組み「頑張れ」と声を張り上げるのだ。実際にはそれほど大きな声ではなかったので、母が声援を送っていることに気がついていたのは、娘である私だけだったと思う。
母は私が中学に入る時に父と離婚をしていた。スーパーで働きなが ら私を育てる母を、内心恥ずかしいと思っていた。
流行の服を着ることもなく髪も無造作に短く切っている母は、他のお母さんより年老いて見えた。だから、本当は応援にも来てほしくな かった。
その頃の私は、サッカー部の男の子が好きだった。入学した時は背も低く華奢だった男の子は竹の子のように大きくなり、背の大きな私を見下ろすほどになった。
信也という背の小さな男の子とは、一年生の時に同じクラスにな り、一緒に図書係をすることになった。 本を読むのが苦手だった私は、入学早々にがっかりした。私と違い本が好きだった信也は、自分から立候補して図書係になり小さくガッ ツポーズまでしていた。
私と信也は週に一度、昼休みに図書室に行き本の貸し出しと返却をすることになったが、図書室を利用する人などほとんどなく、私は図書館司書の女性とおしゃべりをして過ごし、信也は本棚から本を出しては少し読み、また本棚に戻すということを繰り返していた。
ある時、と図書館司書の人が風邪で休み私と信也は二人きりになっ た。
「ねえ、いつも何をしてるの?」
相変わらず本棚の本を出したり入れたりしている信也に尋ねた。
「探してるんだ」
信也は本を読んでいた訳ではなく、本の裏に張り付けてある貸出カードを見ていたのだ。
その理由は聞いても教えてくれなかったが、本棚から一冊の本を出してカードを見せてくれた。
「この本は三年前に仁科って人が借りたきり誰にも借りてないんだぜ 。で、その前に借りたのも仁科だし、その前も仁科。結局、この本を 読んだのは仁科だけなんだ。なんで、仁科は三回も同じ本を借りたんだと思う?」 私と信也は推理をした。
仁科という人がどんな人で、なぜ三回も同じ本を借りたのか。
「きっと、図書係に好きな人がいたんだよ。その人に何かを伝えたくてこの本を三回も借りた」
それが二人が辿りついた結論だった。 それ以来、私も図書カード探しに夢中になった。面白い名前の人が借りていると、それを信也に教えては二人で笑った。
背の高い私は上の段を、背の低い信也は下の段を毎週探しては遊んでいた。
古い本の匂いが最初は嫌いだったが、いつもまにか、その匂いが好きになっていた。
中学の二年生になり、私と信也はまた同じクラスになった。
その頃から、信也の身長は伸び始め私の顎ぐらいにあった視線は、 いつのまにか鼻のあたりに来ていた。
そして、信也はまた図書係になるものだと思い、私は張りきって図書係に立候補したが、どうしたことか、信也はいきもの係を選んだ。
私はとても裏切られた気持ちになったが、別に約束したわけでもないので、信也を責めるわけにもいかない。
私と一緒に図書係になったのは、クラスで一番真面目で勉強が出来る大人しい男の子で、その男の子はいつも自分で持って来た本を図書室で読んでいた。
信也がいなければ、図書カード探しも面白くない。しかたなく、私は図書室から見えるウサギ小屋の中を掃除する信也を見ていた。
自分からいきもの係を選んだくせに、信也はウサギを怖がりながら小屋の中をウロウロし、ときどき「おう」とか「げっ」とか奇声を上げているのが、その表情から分かった。
天然でのんびりした性格の信也は、それなりに友だちもいて楽しそうに馬鹿な話しで笑っていたが、休み時間中にちょくちょく行方不明になり、授業に遅刻して怒られていた。
「真田はいったい何をしてるんだ」
社会の先生が問いただしたことがあった。信也は真剣な顔できっぱりと答えたのだ。
「わかりません」
つまらないことでも怒鳴る社会の先生も、そのときは呆れたよう で、「分からないならしかたないな」と笑ってしまった。




