約束(3)
(3)
卒業式が終わり、友だちは校庭に飛び出して行ったが、僕は忘れ物をしたと言って教室に戻った。 誰もいない教室で、僕は雪乃が座っていた机の前に立ち校庭に一本だけある桜の木を見ていた。
「桜の花が咲いたんだよ。早く咲かないかなと思って、毎日見てたの」
四年生の春に、雪乃が嬉しそうに僕に教えてくれた。
昼休みに僕と雪乃は走って桜の木の下に行き、まだ少ししか咲いていない桜を見上げた。
「桜が散る時に、一緒にここにいようね。花びらがひらひらと落ちるのを二人で拾おうね」
雪乃は嬉しそうに両手を広げ、花びらが舞うのを楽しみに待っていた。
ブラジルにも桜の花はあり、雪乃が住んでいた町では八月に咲く。
でも、雪乃は桜の花を日本で見るのを楽しみにしていた。おばあちゃんが教えてくれた日本の桜は、雪のように舞いあたり一面をピンク色に染める。
でも、その年の桜は大雨で散り花びらは地面に張り付いて舞うことがなかった。雨に濡れ茶色くなった花びらを拾い、雪乃はハンカチにくるんだ。
「まだ、桜が残ってるところがあるかもしれないから探しに行こう」
そう言ったのに、僕はその約束は守らなかった。
僕は雪乃の机の前で、あの時の同じぐらいしか咲いていない桜を見ながら、遠くにいる雪乃に約束した。
「ごめんよ。いつかきっと桜が咲くときに東京タワーにつれて行くから。僕がもっと大人になったら、きっとブラジルに迎えに行くから」
僕の約束に雪乃が「うん」と笑った気がした。




