第12話 キス
寧々と龍太郎はお互い息を乱しながら、見つめ合っていた。
「おれとおまえがキス……?」
彼の鳶色の瞳には、寧々だけが映っていた。
「そ、そう。助かるにはそうするしか……神様もそう言っていたじゃない。はぁ、はぁ……」
寧々は龍太郎の長いまつげに自然と目がいく。
「はぁはぁ……おまえはそれでいいのかよ。おれたち、昨日知り合ったばかりだぞ」
呼吸が荒い龍太郎が壁に手を突きながら、寧々を見下ろす。
「いいの。元はといえば、あたしのせいだし……キスぐらい、どうってことないよ」
寧々が潤んだ目で龍太郎を見つめ返した。
「……おまえ、アホだな。まぁいいや。おれもそろそろ限界らしい」
龍太郎のレイヤーが入った髪が軽やかに揺れた。
彼の髪から石鹸の香りが漂う。
彼の顔がいよいよ寧々の間近に迫る。
(ん……いざとなると緊張する)
寧々は目をきつく閉じた。
「ちゅっ」
優しい音がした。
彼は寧々の頬にキスを落としていた。
柔らかいくちびるが触れた場所が熱い。
「これも、キスだよな……?」
龍太郎が寧々の目の前でかすれた声を出した。
「うん。これもキスだよ」
寧々の頬がピンクに染まる。
「良かった……おっ? 胸の痛みが消えたぞ」
龍太郎が寧々から離れて、晴々とした笑みを浮かべた。
「あ……ほんとだ」
寧々の胸の痛みも消えていた。
「良かったな。しかし昨日の夢、マジかよ〜! これからおまえと48時間のうち、ほっぺに一回はキスしなきゃならないのかよ。はぁ〜」
龍太郎がため息をついた。
「…………」
寧々は、龍太郎の寝巻きから見える白い鎖骨に目がいく。
(ぎゃあああ! 危険、危険! この男の色気に悩殺される〜!)
寧々はさっと目を逸らした。
「まぁ、この件はなんとかしなきゃな。日常生活に影響が出まくりだ。とりあえず、おれは今から仕事に行くから」
龍太郎が寧々に背中を向けて歩き出す。
「あ、あの、本当にごめん!」
寧々が彼の背に声をかけた。
「…………」
龍太郎は何も言わなかった。
「な、なぜだかわからないけど……もう一度、きちんと龍太郎に会いたかったの」
寧々が先ほどよりも、か細い声を出した。
「……それってつまり、おれに惚れたってわけ?」
龍太郎が口元に半円を描きながら、振り返って寧々を見た。
太陽の日差しが彼を照らす。
龍太郎のきれいな鳶色の髪がふわりと揺れた。
「惚れたってなに? そんなのわかんないよ。ただ会いたかっただけ……だから」
寧々が龍太郎のまぶしい笑顔に顔を赤く染めた。
「……おまえ、バカだな。なんでも素直に言い過ぎだろう」
龍太郎が目を細めて笑う。
「バカってなによ。あたしだって、きちんと考えてるんだから!」
ムッとして寧々が言い返す。
「ふっ……どこが?」
龍太郎が寧々を見て、さらに笑い出す。
「な、なによっ」
寧々が真っ赤になる。
「じゃあな……うっ! ま、またかよ」
龍太郎がまた胸を押さえ始めた。
「え? 龍太郎、大丈夫……ううっ!」
寧々も痛む胸を押さえ出した。
「はぁはぁ……おれたちさ、きちんとしたキスじゃなきゃ……いけないんじゃねぇ?」
再び息を荒くした龍太郎が寧々に告げた。
(え? きちんとしたキス? え、それってつまり──)
寧々の思考回路が固まった。
次回は夕方18時すぎに更新です。
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