幕間2
「お帰りなさい、アーティファクト!」
アルエットが歓声を上げた。
グィオットも同じ文言の看板を掲げた。
「ただいま! 二人とも元気そうでよかった。心配したよ!」
アーティファクトはトランクを置き、メリーの蹴りを避けながら二人の肩を叩いた。
真珠の都のお土産のスノーボールケーキを開けたい衝動をこらえ、アルエットは階段を上りながら尋ねた。
「途中でペストさんに会った?」
「ホームですれ違って少し話したよ。君の悪運も相当なものだね! あの有名人が立ち寄るなんて――まあ、立ち往生していたと言う方が正しいか」
ペストは、正義の魔女や、季節の評議会が一目置く魔女の一人だった。
戦争中にペストの不興を買ったため、以来彼らはペストにずっと償いを続けていたらしい。
『魔女ドミナの統治機関ですら彼を尊重してるの? 僕の料理を気に入ってくれててよかった! 何事もなくて
去り際に「ありがとう」って言ってくれたよ!!!』
アーティファクトは咳払いをして不安を飲み込んだ。
「そう信じよう! 会った時は少し顔色が悪かったけどね」
窓辺にはペストのイナゴが、動くことも求められることもなく鎮座していた。
✦ ✦ ✦
翌朝、グィオットはアルエットのそばにいなかった。
いつものようにナイトスタンドの脇に服が用意されていたので問題はない。
浴室までの短い距離を足を引きずって往復するのは容易だった。
転べばドールの糸が受け止めてくれるが、それはそれで癪だった。
やがて鎧の心地よい金属音が戻ってきた。
早起きしたことを謝るサインを出した後、グィオットはベッド脇の椅子から彼女を抱き上げた。
「アー、ティ、ファ、ク、ト、の、お、土、産、食、べ、た、い!」
アルエットは手話を返しながら声を出した。
ヘルメットが小刻みに揺れる様子から、彼が笑っているのが分かった。
三人は書斎に集まった。
アーティファクトが先に話を聞きたいと言わなければ、アルエットはスノーボールケーキ(昨夜グィオットに没収されたもの)に食らいついていただろう。
彼は二人の話を面白がって聞いていたが、ペストとの別れ際の会話を知ると表情が曇った。
「理想のために死を受け入れる者は多い。正直なところ、僕の大事な人たちには、そんなもの諦めてただ生きていてほしいよ。たとえ幸せを犠牲にしても」
彼は場の空気を沈めたことに気づき、寂しげなケーキに「どうぞ」と仕草をして微笑んだ。
アルエットは彼を喜ばせるため、悲しい一口を食べた。
「命を犠牲にしても真実を知りたいかい?」
アルエットは慌てて飲み込んだ。
「そんなわけないです! もしそうなら、ドールのもとに戻って直接聞くよ」
成功など期待していない。誰もがそうだった。
グィオットは朝のうちにペストの伝言――彼女を救う術はないということ――を伝えた。
だがアーティファクトは、良くも悪くもアルエットに絡みつく運命の糸を信じたがった。
それが彼をあの地図と再会させたのだ。
世界がその奇跡を起こすほど狭いのなら、もう一つくらい奇跡を恵んでくれてもいいはずだ。
「なら僕も乗ろう。その代わり、君たち二人は精一杯生きること。この遺物たちのように、置いていかれるのは御免だからね」
✦ ✦ ✦
真珠の都の記録にはアルエットや死の魔女に関する情報はなかった。
だが、一つだけ手がかりがあった。
正義1000世が何かを知っていると主張しており、集合知の計算によれば、その情報が関連している確率は98パーセントだという。
詳細は直接会って聞く必要があった。
アルエットとグィオットは顔を輝かせ、歌い、書き殴って称賛した。
「すごい! 私たちのアーティファクトは世界一だ!」
『どうやってそんな重要人物に謁見できたの?』
アーティファクトは満足気な顔をした。
「僕もそれなりに重要人物かもしれないよ? ドミニオン所有者の特権さ!」
歓声(と遺物たちの呻き声)と共に、三人はティータイムに入った。
グィオットのためにも皿とカップが用意された。
雲のようなケーキを一口食べたアルエットは頬を押さえた。
「グィオットにも食べさせてあげたい! 体を取り戻したら、一緒に――」
復活の代償は彼の母の命だ。
この無垢なスノーボールケーキに苦い思い出しか残らないと諦めかけた時、グィオットが肩をつついた。
『いつか美味しいものを一緒に食べよう! (^_^)』
これほど優しい人をどうして戦争に引きずり込めたのだろう?
思い出せない感情と戦いながら、アルエットは精一杯の笑顔を向けた。
頑張れば、彼も感じ取ってくれるかもしれない。
それは、若い頃なら吐き気を催していたであろうほどポジティブにアーティファクトへ伝染した。
彼は手を叩いて話題を変え、正義と季節の評議会について説明を始めた。
「彼女は審判のようなものだ。人はドミニオンを譲渡できるが、授与できるのは星々だけだ」
『君が魔術を授かった時のように?』
「そう。別の例を挙げよう。ペストのドミニオンは4世の死後、数千年間失われていた。君たちが会った5世は、資格ありと見なされてそれを受け継いだんだ。もっといい例はオリベイラだ。彼女は最初の平和の魔女になったが、その経緯は分かっていない」
『「平和」なんて広義なドミニオン、もっと昔からありそうなのに。彼女が現れた時はみんな興奮したよ』
『オリベイラが人間と魔女の間を取り持ってくれると思ったんだ。実際には魔女狩りへの道を切り開いただけだったけど』
「自分なりに平和への道を歩んでいたのかもしれない。隣人が全員死ねば傷つけられることもないからね」
アーティファクトは髪の房をいじった。
「彼女も被害者だったと思わずにはいられない。遺体を発見したのはペストだ。開戦当時、彼女は十代前半だった。子供だよ」
だが、評議会の長である「秋」との衝突において年齢は無関係だった。
世界最強の魔女と崇められていた彼から、オリベイラは力を奪った。
数年後、秋はその借りを十倍にして返した。
彼女の真名を暴き、殺した。
「平和」と呼んでくれる者はもう誰もいなかった。
アルエットの視界が歪んだ。
どうやってオリベイラの名を知ったのか?
「誰も知らない。ともかく、秋は生き延びて今もこの地を統治している」
アーティファクトは地図を広げた。
「真珠の都は春、夏、秋、冬の交差点に位置して――」
アルエットの脳裏に鮮烈なイメージがよぎった。
猛吹雪のツンドラに、人の三倍はある巨体がそびえ立っている。
人のように話すが、氷柱と骨でできた体はごまかせない。
違う。冬は女の子だ。
見たものを忘れて。
名前以上に、思い出してもいけない。
誰にも言っちゃいけない。
両親と同じ運命を辿りたくなければ。
思い出さないで、■■■■。
頭を押さえた彼女を見て、アーティファクトとグィオットが椅子を蹴って立ち上がった。
彼女の不器用な笑顔は、二人を安心させる役には立たなかった。
✦ ✦ ✦
アーティファクトが真珠の都で行ったもう一つの仕事は、身分証明書の登録だった。
魔女にとって馴染みのない概念だが、人間の国に入るには必要だ。
「それに、クロス・ドミナ急行に乗りたいならね。両陣営の友好協力で作られた最新鋭の大陸横断列車だ。カルムはまだ終着駅じゃないけど、交渉中さ」
『僕たち本人がいないのにどうやって処理したの?』
アーティファクトは腕時計を確認した。
「実は、公証人との予約は今なんだ」
時間通りに、書斎に見慣れた星空の裂け目が開いた。
小さな紳士が飛び出し、シルクハットを傾けると、アルエットは手を叩いた。
「スティーブ?」
「おやまあ! 私の名前を覚えていてくださるとは感激です!」
「もちろんだよ。とても独特だもの!」
正義との共同作戦において、公証人サービスはメッセンジャーの魔女の多角的な事業の一つだった。
自宅にいながら公式書類を処理できる。
必要なのは一瞬の時間と追加の料金だけだ。
「これで聖ドミナに入れる?」
「最後の手順がある。騎士の魔女が管理する国境要塞、スティールフォグでの入国審査だ。魔女ドミナへは誰でも入れるが、人間側への訪問者は厳しく審査される」
アルエットは唸った。
「テレポートできればいいのに」
スティーブの帽子が存在しない体から飛び跳ねた。
「無理です、お嬢さん! 生物の転送はそう簡単ではありません。神々だって走ったり飛んだりしたのです!」
「あ。そういえば伝説でもそうだね。でも、あなたが使っているのは?」
「メッセンジャーの裂け目は、生体物質を消滅するまで圧縮します――服の水たまりになってしまいますよ! しかも内部の時間経過は無限に遅い。忍び込んだ愚か者たちは、永遠の終わりまで肉の立方体に圧縮される感覚を味わったそうです!」
アルエットは聞いたことを後悔した。
✦ ✦ ✦
二つの道があった。
一つは要塞スティールフォグの検問所を通って人属ドミナへ入る道。
グィオットの状態を考えると、許可が下りる確率は五分五分だ。
もう一つは、真珠の都へ向かい正義に会う道。
最も確信を持てずにいるグィオットは、答えを躊躇した。
アルエットの努力を軽んじるつもりはないが、彼女が過去を追い求めるたびに心が沈んだ。
真実が死を意味するなら、正義に会うべきだろうか?
彼が悩みながら、逆に彼女が手を挙げた。
「先にスティールフォグに行ける? いつも私のことばかりで、グィオットのことが進んでない。ペストさんが手紙を届けてくれるけど、直接会うのが一番だよね?」
その気持ちには感謝しつつも、グィオットは不可避な事態を先延ばしにできることに安堵していた。
数日の準備を経て、アーティファクトは弁当を持って駅まで見送りに来た。
包み布は、アルエットが町で見たことのない幾何学模様できつく結ばれていた。
カートグラフィーの地図の境界線を思わせた。
心配性で世話焼きな彼だが、表面上は平静を装っていた。
最後の贈り物は、両ドミナの鉄道網、旅のルート、各地のおすすめスポットを記した手製の地図だった。
「オーチャードで数日過ごすといい。オリベイラの領地で、メリーの故郷だ。何か分かるかもしれない」
それは、アルエットとグィオットを繋いだあの地図のミニチュア版のようだった。
「すごい! アーティファクトもカートグラフィのドミニオンを勝ち取るべきだよ」
アーティファクトは笑った。
「残念ながら、僕はあまり良い地図屋にはなれないんだ」
「誰が言ったの?」
「最高の地図屋さ」
アーティファクトは二人の周りをくるくると回り、その目に懐かしさを滲ませた。
「さあ、列車に置いていかれないようにね!」
最後の汽笛が鳴り、グィオットがメッセージを掲げた。
『戻ってくるから、一人で重いものを持っちゃだめだよ!』
こうして彼らは別れた。
世界が意図した通りに、アーティファクトの老いた骨について笑い合いながら。
だが列車が地平線の彼方に消えると、心配性の男は同行すべきだったかと考え始めた。
彼だけではない。
メリーが蹄を鳴らして駅にやってきて、アルエットがどこへ行ったのかと鼻を鳴らした。
ペストのイナゴも置いていかれたが、そちらには悲しむ知能がなかった。
「ああ、それなんだがね。行ってしまったよ。君は社会的に危険だから言わなかったんだ――痛っ!」
メリーはアーティファクトの袖に噛みついた。
腕ごと食いちぎろうとしたが、服が破れれば後でアルエットの仕事が増えると諭され、なんとか思いとどまった。
「彼女のことになると大人しくするんだね!」
アーティファクトはメリーの鼻先を弾き、致命的な頭突きを避けた。
「君も行けばよかったかな。ふむ」
メリーの手綱を引き(そして脇の下に抱え込み)、アーティファクトは駅の案内所へ近づいた。
「すまない! これは非常に知能の高い馬なんだが、保護者なしで列車に乗せることは可能かな?」
メリーは胸を張った。
職員は疲れた目で彼らを見た。
「アーティファクト……だめだ」




