22話 地下四階 ― 炎の散歩と駄目飼い主
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22話 地下四階 ― 炎の散歩と駄目飼い主
地下四階探索通路
空気が重い
湿気が喉に貼りつき
石の匂いが濃くなる
三階の統制された金属音は
もう届かない
ここから先は
迷宮の“中”
真田は模造刀の柄を握る
「行くぞ、ただの犬」
マロンが小さく鼻を鳴らす
尻尾がぴこぴこ動く
どう見ても可愛いフレンチブルドッグ
数分前
赤銅色の宝箱から出た炎の宝珠を
当たり前のように飲み込んだ存在とは思えない
『ちなみに召喚の対価、黒龍の魔石だったよ』
「聞いてない」
『闇魔法ランクMAXで召喚したよね』
「聞いてない」
『種族はベヒーモス幼体』
「犬だ」
軽口
だが通路奥の気配は軽くない
⸻
■ 生態
角の向こう
ぶつかる音
唸り声
骨の軋み
覗く
ダンジョン猪がゴブリンを突き飛ばす
野犬がコボルトの脚に噛みつく
ゴブリンが棍棒を振るう
互いに敵
四階は群れが2〜4の小規模
だが
真田が一歩踏み出した瞬間
止まる
さっきまで殺し合っていた目が
同時にこちらを向く
敵意が統一される
猪二
野犬三
コボルト三
ゴブリン二
十体
争い中に出くわすと
群れは膨れ上がる
四階の“罠”
⸻
■ 一回目 ― 扇状の火
猪が突進
石が砕ける
野犬が左右へ散り
コボルトが跳ぶ
真田が風を纏うより先に
マロンが一歩前へ
喉が赤く灯る
――――ゴォッ
扇状の炎
熱が通路を満たす
猪の脂が爆ぜ
野犬の毛が一瞬で焼け
コボルトが空中で黒くなる
焦げた脂の匂い
焼けた毛皮の匂い
五秒
十分だった
崩れ
倒れ
四階特有の数秒ラグを挟み
光粒へ
魔石中
猪牙
強化腱
低純度インゴット片
【SP +0.064】
真田は瞬きをする
「……効率が狂ってるな」
⸻
■ 二回目 ― 横薙ぎ
さらに奥
また争い
八体
炎が左右へ薙ぐ
群れが瓦解
混合魔石(未鑑定)
【SP +0.052】
迷宮が静まる
湧きが遅い
通路が妙に静かだ
まるで
考えているように
⸻
■ 自衛官の違和感
遠く
無線
「四階北通路、湧きが薄い」
若い自衛官が石壁を触る
指先が黒くなる
「……焦げ跡?」
隊長は無言
「人の火じゃない」
沈黙
「記録しておけ」
まだ確証はない
だが
迷宮のどこかで
何かが始まっている
⸻
■ 三回目 ― 十秒の灼熱
広い通路
猪三
野犬四
ゴブリン三
コボルト二
十二体
四階正規湧き
真田は一瞬だけ寒気を覚える
もし
この火が暴走したら
誰も止められない
だが
マロンは振り返る
どや顔
――――ゴォォォォ
十秒
通路が灼熱の筒になる
悲鳴は短い
崩壊
消滅
魔石大が一つ転がる
【SP +0.085】
真田はゆっくり息を吐く
四階が
散歩道になっている
⸻
■ 男の計算
魔石を拾いながら
頭の中で弾く
これを一日
五階まで安定すれば
月収どころじゃない
年収が変わる
人生が変わる
仕事を辞めた判断は
間違っていない
手応えがある
だが
強すぎる
強すぎれば疑われる
守るために強くなる
だが
強すぎれば
管理される
だから
隠す
⸻
■ 駄目飼い主
真田はしゃがむ
マロンを抱き上げる
ずしり
筋肉の密度が違う
「お前、天才か?」
尻尾ぶんぶん
「うちの子最強だな」
『災害級』
「聞いてない」
マロンが小さく炎をぽふ
真田の顔が即座に引き締まる
「人のいる所では火を吐くな」
両手で顔を包む
「火は俺と二人の時だけ」
マロンが小さく鳴く
喉の赤が消える
「偉いぞ」
完全に甘やかし
『完全に駄目飼い主』
「犬だ」
⸻
■ 静まり返った四階
通路は静か
湧きが薄い
焼けた匂いが残る
国家が慎重に検証している階層を
犬が塗り替えている
迷宮は
まだ何も言わない
だが
確実に
見ている
⸻
■ 階段
通路奥
地下五階への階段
空気がさらに重い
暗い
四階はもう恐怖が薄い
自分たちのせいで
真田は階段を見上げる
オーク
群れは硬い
火を隠せるか
目立たず進めるか
国家はもう
違和感を掴み始めている
真田は小さく呟く
「静かに行くぞ」
マロンが小さく鳴く
火は吐かない
いまは
真田は一段、足を置く
地下四階の散歩は終わった
迷宮はまだ
人類を試していない
これは
まだ序章だ




