第22話 謎のダンジョン攻略3
ジンは【意識の羊皮紙】に描かれたフロアマップを視ながら、パーティーにどう伝えようかと思い悩む。
マップの全体像は正方形の迷路────所謂『メイズ』と呼ばれるタイプのダンジョンだ。入り口の外観や内部が古代遺跡を彷彿とする人工地形構造であることからも想像の範囲内ではあった。
問題はその規模だ。
ジンたちの現在地は正方形の中心部にある部屋状の空間であり、ここがおおよそ10m四方の空間だと過程すると、このフロア全体像の広さは5km四方にも及ぶのである。
規模としては街と呼べる空間であり、まだ第1層であることを考えると非常に攻略難度が高いと言えた。
さらに言えば『上級』ダンジョンは平均階層が15〜30層であり、【レックレス】が攻略に手こずっていた『中級』ダンジョンですら10層にとどまるのだ。
そして無秩序に点在する15個箇所もの部屋を繋ぐのは、脳の皺のように壁で隔てられた迷路だ。何れかの部屋が下層へと続く場所だが、その道筋が困難なことは想像に易い。
一般的な冒険者は【意識の羊皮紙】など無いので、この手の迷路は『右手法』や『左手法』を用いて下層への部屋を見つけ出すか、スキル【マッピング】を持つ者を仲間に入れて攻略に挑む。
その点ジンは各部屋への最短ルートを選ぶことが出来るし、トラップを回避し魔物との不必要な戦闘を避けることも出来るが、事はそう簡単ではなかった。
道中や各部屋にはトラップの表示があり、さらには魔物の存在も多数あるからだ。
しかもその注釈は【クィーンクェ】────つまりは【トリア】であった『ダンジョンオオカミ』よりも二段階も危険度が高い魔物だった。
要するに、このダンジョンは実に攻略のしがいがあるダンジョンではあるが、無策で挑むのは無謀であるということだ。
ジンとしてはもっと事前準備をしてからリトライしたいところだが、彼の独断で決めることはできない。
「……少し相談があるんだけれど、いいかな?」
ジンがそう前置いてから【意識の羊皮紙】で分かったことを皆へと伝えると、それぞれの反応を示した。
「……少し考えさせてもらおう」
アインはそう呟いてから、思考を纏めるように自身の掌で揺らめく灯火を見つめる。すると、そこへツヴァイやドライが寄って各々の意見を口にする。
「ジンさんの言ってることが本当なら、最下層へは数日から一週間はかかります。水や食料は節約すれば保ちそうですが、ボクたちだけではかなり危険かと」
「コ……ドライは心配し過ぎ。僕なら【クィーンクェ】程度は雑魚。彼の【意識の羊皮紙】なら道筋も視えてる。最短3日で帰還できる」
「グ……ツヴァイ、この階層だけでも5km四方のメイズなんですよ? それに、フィーアが帯同していることを忘れてないですか?」
「大丈夫、大丈夫。ファー……アインも一緒。余程のことが起こらない限り、この程度のダンジョンなら余裕」
現実的な話をする慎重なドライに対し楽観的に構えているツヴァイの考えに、ジンは猪突猛進な冒険者を思い出して頭痛を催す。
彼の言う『余程のことが』起こるのがダンジョンという場所だ。
たとえ『初級』のダンジョンであろうと、致死性の高いトラップがあったり簡易攻略書に記載されていない危険な魔物が出ることもある。
ジンとしては一度撤退し、攻略に必要な物資の準備と計画を立てて再チャレンジするべき事態なのだが、そこへ思わぬ人物から声が上がった。
「なら、今回は調査に徹すればいい」
「エルキス?」
戸惑うジンを横目にエルキスは続ける。
「難度が高く魔物やトラップが多いってのは確かに危険ではあるが、だからと言って手ぶらで帰るのも勿体ない話だ。この階層だけでも調査出来るならするべきだ。そうだろう?」
言い聞かせるような言葉に、ジンは少しだけ考えを改めた。
確かにエルキスの言うことも一理ある。
広大なメイズとは言え、何もせずに帰還するのは無駄足でしかない。せめてどのような感じのダンジョンなのか傾向を調査することは大事だ。
未踏のダンジョンはそうしてコツコツと攻略していくのが定石であるし、この烏合の衆とも言うべきパーティーの戦力をお互いに擦り合わせる事も出来る。
それに、本当に危険な事態に陥った時には、最悪の手段ではあるが【ミナルディ】まで帰る手段もある。
────ここは、エルキスの意見に同意しておこうか。
ジンがそんなふうに思考をまとめていると、今まで押し黙っていたアインが咳払いをする。
「……良いだろう。私としては異論はない。ツヴァイ、ドライ、フィーア。今回はエルキスの提案通り、この階層の調査に徹する」
そしてエルキスの案を呑むと、他のメンバーに有無も言わさぬ重さで指示を出す。
反論はなく、ツヴァイとドライは「はい」と短く返し、フィーアはコクコクと何度も頷く。
その様子に少しだけホッとしつつ、ジンは頭を振って意識をダンジョン攻略へと切り替える。
話は纏った。ならば後は進むだけだ。
「それじゃあ、今回の行動目標は『第1階層の調査』だね。可能な限りトラップや魔物を避けるルートは選ぶけど、ダンジョンは甘くないから、避けられない場所は絶対にあると思ってて」
そして再び先頭に立ったジンは一度深呼吸をすると、【意識の羊皮紙】を視ながら進み始めるのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
────ジンたちがダンジョンの攻略を開始して数時間後。
一行は想定よりも悪戦苦闘する事態となっていた。
いくらジンが【意識の羊皮紙】でフロア全体を俯瞰して見れるとしても、『メイズ』というダンジョン特有の構造的難度は変わらないからだ。
景色は常に同じであり、角を10回も曲がれば方向感覚などあっという間に失ってしまう。
それだけではなく、ジンがトラップの存在を分かっていてもルート上避けられないパターンもある。
そしてジンはトラップの存在が分かっていても『何のトラップ』であるかは『勘で察するか発動させるまでは分からない』のである。
それ故に、パーティー内に"迂闊"な者がいると、どんなにジンが注意をしていてもトラップに巻き込まれてしまう。
「……ストップ。この通路にもトラップがあるよ。何度も言うけど『メイズ』は壁・床・天井に触れると発動するトラップが多いから、オレが良いというまで動かないでね。……フィーア、分かった?」
「は、ははっ、はいっ!! でありますっ!!」
ジンの何度目か分からない忠告に、フィーアは背筋を伸ばして敬礼をするが、その拍子に手から盾を落とす。
「────あ」
そして盾が床に落ちた弾みで壁にぶつかった瞬間、壁の一部が『ガコンッ』と音を立てて奥に引っ込むと、床に魔法陣が展開した。
「フィ────────アッ!!!???」
「ごごごごっ、ごめんなさ〜〜〜〜い!!」
ジンとフィーアの絶叫がダンジョン内にこだまするなか、魔法陣が輝いてトラップが発動する。
今回のトラップは魔物の召喚だったようで、パーティー全員がため息を吐いたり息を呑む様子を睨めつけるようにしながら、その魔物は姿を顕現させた。
ジンの【意識の羊皮紙】にもマーキングが追加される。マーキングが示す意味は脅威度【セクス】────中級ダンジョンのボスに匹敵する脅威度だった。
「……ほう、こいつぁ『デュラハン』じゃねぇか」
「……そのようだ。召喚トラップでダンジョンボスに匹敵する脅威度の魔物顕現するとは」
エルキスとアインが感心するように呟くと、身長3メートルはあろうかという首無しの鎧騎士は獲物に狙いを定めるように、脇に抱えたヘルムの奥で赤い眼光を灯すのだった。
更新ペースが遅くて申し訳ありません。
書くことはやめませんので2、3ヶ月置きに見に来て頂けるとある程度まとめて読めて良いかもしれません。
すみませんが、よろしくお願いいたします。




