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自動的なマシーン  作者: 森本泉
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 加害グループにはマシーンを含めて八人の子供がいた。マシーンが小学校六年生の時の事だった。ある日の夕方そのころ勤めていた花屋に担任の先生から電話が掛かってきたのだ。

 今日の夜ご自宅に伺いたいので出来ればご在宅ください、と。

 学校の担任から電話が掛かってくるなんて穏やかなことじゃないな。私はそう思って、即座に息子が何かに巻き込まれたことを知った。

 息子を児童館に迎えに行って、帰りの車を運転しながら、

「今日先生が家に来るそうだけど何か聞いてる?」

 と私は息子に尋ねた。息子はその時、何も答えなかった。

 担任の先生は八時過ぎにうちにやってきた。これからまた学校に帰って作業があるので手短に。と言った。夫は、その時家居なかった。

 私は先生のために麦茶と個包装のおせんべいを出しながら、居間のテーブルの横に座布団しいて座った息子のことをちらちら見ていたのだ。

 息子は、とても不機嫌な顔をしていた。きっとその後で私にこってりと叱られるのを恐れていたんだろう。だから先手を打って不機嫌な風を装っていたんだろう。

「率直に申しまして、佐藤正樹くんのご両親から一尋くんにいじめられたとのご相談がありまして」

「何をしました」

 ぴしり、と音がした。

頭がい骨にヒビの入った感触があった。そこかとぷとぷと液体が満たされていく。私は水に浮くような気持で聞き返した。そして咄嗟に息子に、部屋に上がっていなさい、と命じた。くらくらっとした。

 はあい。と返事をして息子はおとなしく、いや嬉々として自分の部屋に引き上げていった。

「一尋くんだけでなくあと七人、名前の指摘があったのですが。一尋くんはその中の一人ということなんですね」

「うちの息子が佐藤くんをいじめていたと親御さんがおっしゃったんですね」

 私はつい大きな声になってしまって、担任が一瞬ひるんだ。

「すみません。」

「いえ。こういうことがあるとどこの家庭でもまず驚かれますからね」

 と言った担任がすでに疲弊していた。若い先生だった。いじめに対応するのは、もしかしたら初めての事だったのか知れない。

「佐藤くん本人からの話では、その八人にお金を持ってくるように言われたそうです。

 佐藤くんはお年玉やおこずかいなどで対応していたようですが、もう持って来られないと言ったそうなんです。と、そうしましたら今度は全員分の宿題を一人でやるようにと強要されたんだということで。嫌がると今度は殴られたり蹴られたりしたとご両親に話したそうです」

 全員分の宿題がみんな同じ字で書かれているのに気が付かないのだろうか。と私は思った。

 セットの崩れた髪、撚れてロープの様になったネクタイ、裾の辺りに皺のよったスーツ。

 担任の先生はまだ若いのにすっかりよれよれにくたびれきっていた。これからまだ学校に帰って作業があるんです。そう言っていたのを私は思いだす。

 自分の頭の中を満たした水がたぷたぷと音を立てるのを聞きながら。

「最近一尋くんの持ち物で急に増えたものなんかありませんでしたか? 漫画とか、ゲームとか」

 私はいったいいつから息子の部屋に入るのを止めただろうか。私は担任の先生の言葉に目の前が真っ暗になった。

 実際目の前は真っ暗になったのだ。軽い貧血だ。母親が患っていたような婦人病に、私も息子を産んでから悩まされるようになっていた。

 目の前は確実に暗かった。もしかしたら母親も、私を産んだためにこんな風に目の前が真っ暗になったのかもしれない。

「だいじょうぶですか。」

 本人がちっとも大丈夫ではない担任の先生の声で我に返って私は頭を抱えた。

 本当に頭を抱えた。私は両手で自分のこめかみを包んでその両肘を膝の上に預けた。

 最近息子の身の回りで量が増えたものがあったか? 分からない。私はいつの間にか息子の部屋の中に立ち入らなくなってしまった。

 いや、違う。本当は違う。

 入るのが嫌になったのだ。今年に入ってとみに手足の長くなっていく息子が。どんどん骨格が変わってきて一人の人間になっていこうとしている息子が。反抗的な言葉使いをするようになっても年齢だから仕方がないと思っていた息子を。

 私は嫌になっていたのだ。嫌になっていたから、自分から遠ざかりたかったのだ。

関わり合いになりたくないと思ってしまった。こんな、ただの一人の人間には。

 だから私の方から遠ざかった。もう十二歳だ。親の手を離れるのには十分な年齢だろう。もともと要領のいい子供だった。いろんなことをうまく立ち働いていくだろうと。

 でも息子は私が思っていた以上に、集団の中でうまく働いてしまった。


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