第6話「見られたくなかった」
次の日、学校で緋色を見たとき、少しだけ妙な感じがした。
いつも通り、女子グループに囲まれて笑っていた。明るい声だった。
でも、昨日見た顔が頭に残っていた。あの、剥き出しの笑顔。ゴブリンの前で、本当に楽しそうにしていた顔。
同じ人間のはずだった。でも、うまく重ならなかった。
……まあ、関係ないけど。
その日の放課後、ダンジョンへ向かった。
入口の自動ドアをくぐろうとしたとき、後ろから声がかかった。
「宮前くんだよね」
振り返ると、緋色がいた。
動きやすそうな格好をしていた。昨日、ダンジョンの中で見たのと同じ格好だった。
僕は少しだけ固まった。なんで緋色がここに。いや、ここに来るのは知ってる。知ってるけど、いざ会うと固まった。
「やっぱり。同じクラスだよね。私、上村」
「うん」
知ってる。でも、それしか言えなかった。
「ここ、よく来るの?」
「……まあ」
「私も。最近はほぼ毎日来てる」
緋色は、特に構えた様子もなく話していた。学校で見るのと同じ感じだった。誰に対しても自然に話せるやつ。その延長で、僕にも話しかけているだけだ。特別な意味はない。たぶん。
そのまま、ふと思い出したみたいに言った。
「昨日、見てたでしょ」
僕は少し止まった。
「……何の話」
「ダンジョンの中。角のとこにいたの、宮前くんでしょ」
気づかれていた。
気づかれていないと思っていた。隠れたつもりだったのに、気づかれていた。完全に不審者だった。
「……見てない」
「見てたよ」
緋色は軽く言った。否定する気にもなれなかった。
「……悪かった」
「別に怒ってないよ」
緋色は笑った。学校で見るのと同じ、明るい笑顔だった。
「ただ、いるなら言ってよ。ちょっとびっくりするし」
それはそうだ。完全に僕が悪い。反論の余地がない。
「……次からはそうする」
「次もあるんだ」
「……ダンジョンには来る」
「そっか」
緋色はそれだけ言って、自動ドアをくぐった。ためらいもなく、先に入っていった。
僕はしばらく、入口の前に立ったままだった。
何だったんだ、今の。
責める感じはなかった。怒っている様子もなかった。普通に話しかけてきて、普通に会話して、普通に入っていった。僕がああいう返し方をしても、引かなかった。
それが少し、不思議だった。
……というか、なんで僕はあんな返し方をしたんだ。もう少し普通に話せばよかった。今さらだけど。
その日の戦闘は、集中できなかった。
緋色のことを考えていたわけじゃない。ただ、なんとなく頭が散っていた。
ゴブリンに蹴られて、壁にぶつかった。いつも通りだった。
倒せなかった。逃げた。
出口を出て、ノートを開いた。今日は集中できなかった、と書いた。理由はわからない。頭が散っていた。次はちゃんと来よう。それだけ書いた。
書きながら、ふと思った。
見られていたことを知っていて、それでも怒らなかった。あれが、上村緋色にとっては普通なんだろうか。
よくわからなかった。




