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88 ソニアの贈り物③

 差し出されたのはどうみても大きすぎる紙袋。それを差し出してきたエルシィを前にして、ウィズの頬に一筋の汗が流れる。


「……えっ」


 そして遅れて腑抜けた言葉が漏れた。エルシィはじっとウィズを見つめており、固まっているウィズを見かねて、差し出した紙袋をウィズに押しつけてくる。


「はやく受け取りなさいよ」


「うっぇ……は、はい……」


 恥ずかし気もなく紙袋を押しつけてくるエルシィに、ウィズはそれを反射的に受け取ってしまった。唖然とするウィズを前にしても、エルシィは変わらずウィズを見ていた。


(オレはこいつに嫌われてたハズだが……)


 ウィズは訝し気にエルシィを見る。受け取った重さ的にはちょっと重く感じるが、大きさと比べて考えれば服としておかしくはない範疇だ。爆発物のような危険なものは入っていなさそうである。


 心境の変化があったのだろうか。ウィズの知らないうちに――そうはいっても最後の遭遇から数日ほどしか経っていない――態度が軟化する出来事があったのかもしれない。フィリアやハーネスが何かしてくれたとか。


 とりあえずエルシィの贈り物を受け取ってしまった手前、それが服だというのならば、現状からして着るほかない。ソニアから貰った服は試着して、『アーク家』であるエルシィのそれは拒否するなんてことはできないのだから。


「……じゃあ、お言葉に甘えて」


「ええ。甘えなさい。そして早く着替えて出てくるのよ。とても楽しみにしているので」


「……」


 薄っすらとほほ笑んでぐいっとウィズを部屋の方へ押しやるエルシィ。その行動からして、やはりというべきか、沈みかかっていた彼女への疑念が強まった。


(こいつ……そんなに着せたいのか……。……何かある。うん。絶対)


 ウィズはそう思いつつも彼女に押されるがまま、部屋に帰還する。ウィズが部屋に入ると、エルシィによってその扉は閉められた。


 がちゃり、という音を最後に周囲は再び沈黙に包まれる。


 一人だけの部屋で、ウィズは抱えた紙袋をじっと見つめたのだった。



 *



 ソニアは廊下でウィズが出てくるのを待っていた。隣ではとても楽しそうな様子のエルシィがいる。


「ソニアちゃん、また今度二人で町に行きましょうね。今度は少し遠い方の――」


「……ああ、前に仰っていた温泉のあるところですね」


 そんな明るめのエルシィに対して、ソニアの表情は少しだけ優れなかった。というのも、それはエルシィに関してである。


「じゃあウィズと一緒に……」


「……」


 とある名前を出した途端、エルシィは微かに表情をするのだ。その名前というのは恐らくアルトたちも、そして本人もわかっていることだとは思うが、『ウィズ』である。


 エルシィはあまりウィズをよく思っていないようで、ソニアとウィズを近づけさせたくないようであった。人と人との相性は千差万別であるからして、それ自体は仕方ないと思うソニアであるが、ここまで露骨だとウィズが可哀そうである。


 なので、ソニアは密かに思っていることがあった。


(なんとか……穏やかにお話できるぐらいには……)


 ありがたいことに、エルシィがソニアを気にかけていてくれているのは確かだ。それを伝って、なんとか改善していけたらなとソニアは思っていた。


「あの……」


 ふと、扉の向こうから声がした。ウィズの声だ。着替えが終わったようである。


 その声を聞いたエルシィは微笑みながら言った。


「用意ができたら出てくるといいわ」


「……いや、ですがこれは……」


「何か不満でも? 空調バッチリでしょ?」


(空調……?)


「いやクソ暑いですし不満というかなんというか……」


(暑い……??)


 ソニアは二人の会話に出てくる単語に首を傾げる。服の試着をしていたはずなのだけれど、彼ら間の言葉はそれとは関係ないような単語が混じっていた。


「いいから出てきなさいよ。頑張って一番可愛いのを選んだのよ」


「可愛い……!?」


 腕を組んで言うエルシィにソニアは反応する。


 彼女は今可愛いと言った。確かにウィズは中世的な顔立ちをしているので、そういう衣装も似合うかもしれない。そこは盲点であったと、ソニアは少しエルシィの着眼点を羨んだ。


(……いやいやいや!)


 と、その思考を頭を左右に振って振り払う。ウィズは男であるし、自分本位で本人の意思にそぐわないであろう格好をさせるわけにはいかない。着せ替え人形ではないのだから。


「とにかく出てきなさい」


「……はい」


 ソニアが悶着していると、エルシィがそうウィズへ促した。


 埒があかないとウィズも思ったのか、扉のノブが回る。


「ウィズ――」


 出てきた彼に話しかけようとしたソニアはその段階で固まった。


 その視線の先には毛を全身に生やした、巨大な二足歩行の猫が立っていたのだった。


 


 

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