68 運命の出会い
ウィズたちはエイジャやユーナ一家に見送られながら、役所を出た。停めてあった馬車に乗り込んで、ソニアはふうと息をつく。
「なんか大変なことになっちゃったね」
ウィズも苦笑いで肯定を返した。そして手綱を振るい、馬車を発進させる。
時は夕暮れ前だろう。空を見上げると若干ながら橙めいている。ウィズはその空をぼーっと見つめてから、両手を裾で隠した。
「もう屋敷に帰る?」
「そうだね……。散策はまた今度にしよー」
ウィズの提案に、ソニアは座席で背もたれに背中をうずめながらそう答える。ウィズはまやもや苦笑した。
そんな中で、ウィズはちらりと自分の腕を見る。色合い、大きさ、太さ――色々なものがついさっきまでと食い違うその腕は、ウィズの腕ではない。あの山賊のアジトでの戦闘により千切れてしまったので、山賊頭の両腕を奪って換装したのだ。
といっても、ウィズの腕の形に異変を覚えるような人はいないかもしれない。そもそも腕を他の腕に換装するなんて、普通ではない発想であるはずだ。けれども、相手は『アーク家』。ここは対策するに越したことはない。
ウィズはポケットから役所で貰った町の地図を膝を上に開きながら、軽い口調で告げた。
「ソニア。ちょっと寄りたいところがあるんだけどいいかな?」
「……ん? いいよ?」
「ありがとう」
ソニアの許可を得てウィズが向かったお店。それは雑貨店であった。
雑貨店につくと、ウィズたちは馬車を降りる。どうやらソニアもついてくるみたいだ。
「何を買うの?」
「……観葉植物。なんかクネクネ動いて指を噛んでくるやつ」
「なんでそんなものを……」
「殺風景な部屋に少しでも楽しい要素ものがあればな、って」
「気を付けてね……」
ウィズの言葉にソニアは困惑しつつも、理解のような何かを示していてくれている。頭から否定してこないのは彼女の美点かもしれない。
店に入るや否や、ウィズとソニアの足が止まった。それは店に入ってすぐ目の前、そこに佇でんいる巨体を目にしたからだった。
片やウィズは真顔で、片やソニアは目を丸くして、目の前にある緑色の物体に釘付けになっていた。
「おっいらっしゃーい!」
二人が入り口で固まっていると、奥の方から店主が意気揚々と出てくる。ウィズとソニアがその声にハッとして彼の方を見る。
そして再び二人は固まった。その店主はミイラだった。
否、正確には全身に包帯をグルグルと巻き付けていて、唯一顔にだけは包帯が巻かれていないものの、そこにはブタの仮面をかけていた。ミイラ姿の胴体に、豚の仮面を被った人物――これを変人と言わずして何というのだろうか。
「さすがお目が高いねぇ! この商品に見惚れるとは!」
ハハハと笑いながら、その"商品"に両手をじゃーん! と見せる店主。ソニアはごくんと喉を鳴らして、その"商品"に指を差して恐る恐る聞いた。
「……これ、商品なんですか?」
「勿論だよ! ほれほれ、可愛いだろぉ?」
ソニアの問いに当然のように答える店主。ソニアは今一度、指の先にある"商品"――ウネウネを動きまくる巨大な植物を見上げた。
「これは最近流行りの観葉魔植物! ……ちょっと大きいけどね」
「大きすぎじゃないですか……?」
ソニアの言った通り、その観葉魔植物は店の天井に届くほど、背丈が高かった。口らしき花っぽい何かがウィズたちを見下ろしており、パクパクと花弁だかを動かしている。
店主はソニアの指摘にちょっと困ったように頭をかいた。
「いやぁお客さん、困りますねぇ。みんな言うんですよ。『大きすぎる』って。でもねぇ、それは最初だけで慣れちまえば可愛いもん――」
『ふしゃー!』
「ひぇぇぇえっ!?」
いくつか付いている花と思われる部分がいつしか店主の耳元に近づいており、その声を鳴らした。途端に店主は怯えて震えあがり、植物と距離を取る。
「……」
どう見ても怯えている店主。さっきまで自分で言っていたことなんだったのかと詰め寄りたくなるその態度に、ソニアでさえジトリと店主を見つめた。
『ふしゅー……』
そんな店主を察してか、心なしか悲しそうに花を垂らす植物。
ソニアや店主がその観葉魔植物の怪物性に翻弄される中、ウィズは黙って観葉魔植物を見つめていた。
ただ独り、植物そのもののクールな全容に見惚れていたウィズにとって、とても邪悪そうな造形でカッコ良い観葉魔植物が悲しそうな仕草をした瞬間、胸の中にある何かが弾けた。
――俗に、それをギャップという。
「……買わせてください……」
「えっ」
「えっ」
顔を手で覆い、その観葉魔植物に完全に魅了されたウィズが、そう告げたのだった。




