66 手がかり
ウィズは『緋閃遡光』で残った山賊と『魔法傀儡』を一掃した後、自分が開けた穴から脱出を計った。
しかしその穴から外に這い出たは良いものの、肝心の方向にちょっと不安があった。それでもなんとか記憶をたどり、なんとか一番ありえそうな方向へ歩いたというわけである。
丘の上からソニアたちを見下ろすウィズ。手には『魔法傀儡』からはぎ取った紫色のローブが握られていた。
「ウィズ……! やっぱり無事だったんだね……!」
ウィズと視線があったソニアが嬉しそうに笑った。ウィズは丘を滑り降り、ソニアの元に向かう。
途中でソニアと共に外に出ていた山賊たちの方を見るも、彼らに戦闘の意志はなさそうであった。ソニアが何かしたのだろう。今は放置しておいて問題なさそうだ。もし彼らが逃走したとしても、『緋閃』の射程距離からは逃れられない。
「ソニアも無事で……その肩は……」
「あっ……これは痛いけど……。火のおかげか出血はないし、大丈夫だよ」
「そっか。じゃあユーナちゃんも無事そうだし、山賊たちも無力化してるみたいだし、色々と言い感じに終えた感じかな」
「うん。……ウィズの方は、何があったの?」
安心した表情を見せるウィズとは違い、ソニアは神妙な表情でウィズに問うた。
「……それがね。この紫色のフードをつけた人が山賊たちの中にいたんだけど」
ウィズは手に持ったボロボロのフードを持ち上げる。ソニアもそれには見覚えがあるはずだ。あの場所で、山賊たちとは一風変わった格好だったのだから、印象に残りやすい。
ここはシンプルに話そうとウィズは決めた。
「結構やる感じの魔術師でね。倒すために、結構魔力を使っちゃたんだ。……だけど、倒したとはいえない結果に終わっちゃた」
「え……?」
「そのローブの正体、『魔法傀儡』だったんだ。術者はどこか安全な場所から遠隔操作してたんだろうね。……『魔法傀儡』の方は破壊できたし、その影響で傀儡と"繋がっている"はずの本体にもダメージは与えただろうけど……」
ウィズははぎ取ったフードを自分の肩にかける。そして語った。
「まるで正体を掴めなかった。黒幕はそいつだろうね」
「……そう、なんだ」
歯痒そうな表情をしてみるウィズに、ソニアが同調する。ここで間髪入れずに、ウィズは追及した。
「でも、このローブは回収できたよ。これは僕の『緋閃』の威力をやわらげていた。だからこれには魔術減衰の防御術が組み込まれてるはずだ。結構高度な、ね。少なくても、これはレアなものみたいなんだ。……使い捨てるようなものではないってのは確かだね。だから、もしかすると……」
「……もしかしたら、そのローブに手がかりがあるかもしれない、ってこと?」
「うん」
ソニアは顎に手を当てて、ウィズが持つローブを見つめた。
改めて、このローブは『商売許可証』を盗もうとした首謀者のものだ。そしてウィズはその首謀者――つまり、『魔法傀儡』の情報を『アーク家』に提供するため、それを手にしている。
(少なくても"あの時"、確かにコイツらは『ブレイブ家』の勢力だったはずだ)
ウィズの忌まわしい記憶。そこにこの『魔法傀儡』が存在しているのは確かだ。当時、この『魔法傀儡』が『ブレイブ家』に加担していたのは間違いない。
だが、"あの時"から今まで時間が経っている。故に、すでに『ブレイブ家』とは関係を切っているかもしれない。『商売許可証』を不正利用しようとした理由に、『ブレイブ家』が関係していない線も十分考えられるのだ。
けれど。
(その"疑い"だけで充分だ。『火の無い所に煙は立たぬ』――『魔法傀儡』が"疑い"に火を灯したとするなら、オレがそれに油やらをかけまくって燃え広げてやる。……王国ごと燃えるような、大焦熱に。『ブレイブ家』が『白』でも、オレがぶちまけて真っ『黒』にすればいいだけだ)
『ブレイブ家』の実際など、どうでもよかった。『アーク家』と『ブレイブ家』、そしてできることなら『セリドア聖騎士団』の結成も絡め、国と最後の剣聖御三家『クロス家』をも巻き込みたい。そうすれば、『ブレイブ家』はただではすまない。
もちろん、『セリドア王国』の四つの最大勢力が争うことになるため、国は非情に乱れるであろう。だがそれも一興だと、ウィズは思っていた。
「とにかく、ユーナちゃんは無事だし、山賊も半分ほどは何とか……捕まえることができた。あとは油断せずに、最後の詰めをやるだけだね」
「……うん。そうだね。……そう、だよね」
ソニアは座り込んで意気消沈している山賊たちを見た後で、すぐ近くでソニアの顔を心配そうに見ているユーナへ視線を落とす。
それから薄く笑って言った。
「救えなかったものもあるけど……。救いたかった子は救えた。それだけで良いのかもね」
その笑みが心の底からのものではないというのはウィズにも分かった。表面だけの、繕いの仮面だ。
その理由にウィズは同感できなくて、少しの間で疑問に思っていた。しかしその後の彼女の行動で、その裏にある感情の理由を理解できた気がした。
「……今から貴方たちを縛って、送るべきところに送るからね」
ソニアは山賊の元に向かうと、そうやって優しく告げる。山賊たちは抵抗する余裕もないのか、素直に黙ってうなずいていた。
彼らを見るソニアの表情はこちらに背を向けているので、ウィズには分からない。けれども、その音色から何となくの想像はついた。
(……死んだ山賊のことを憂いているのか)
ソニアの憂いの正体が分かったようで、ウィズは内心ため息をつく。
(わざわざ敵にまで、そんな感情を抱いていたらさァ……)
そう思いながら、ウィズはユーナの手を引いて踵を返した。
「疲れちまうだろうが……」
ウィズは小さく、そうぼやいたのだった。




