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64 ワイヤー

 ソニアが魔力で身体能力を上げ、地面を蹴った。そう、馬車から落とされた時のように思いっきり――。


「ひゃぁっ」


 その結果、体が天井スレスレまで跳ねて、ソニアは思わず声を上げながら天井から身を逸らした。


 確かに彼女のこの技術は付け焼き刃であった。だからこそ、思いっきり実行したわけだが、その思いっきりが仇になる。


(気をつけないと……)


 ソニアは無事地面に着地しながらため息をついた。


 直後、矢を射る音が聞こえてすぐさま視線を前にやる。暗闇に揺蕩う炎の矢。ソニアはすぐさま太ももに付けたバンドから小道具を引き抜く。


 それは先に刃が付いているワイヤーであった。それを巻いてある筒状の魔道具を左腕に装着する。


(この中ならこっちの方が……!)


 ソニアはそのワイヤーを前方の天井に投擲した。腕に付けたワイヤーの巻かれた部分がしなり、ワイヤーが伸びていく。


 ソニアが投擲したそれは、馬車から落とされた時に使ったブレードフック付きのワイヤーとはまた違うものだ。洞窟内などの、フックを引っ掛けられない場所ではブレードフック付きのワイヤーよりもこちらの方が扱いやすい。


 彼女が放ったワイヤーの先にある刃が天井に到達して刺さると、ソニアの魔力がワイヤー越しに伝い、その魔力で刺さった刃が固定される。


「……っと!」


 ワイヤーの事ばかり気にしてはいられない。ふとした瞬間に、狙いが定まった火矢がソニアへと飛んできた。彼女はギリギリその矢を短剣で斬り落とし、防いだ。


 同時に左腕につけたワイヤーの巻き筒が動き出し、勢いよく巻かれていく。ワイヤーが巻かれて収納されていくことにより、ワイヤーに引かれてソニアの体が宙を駆けた。


「近寄らせるなァー!!」


 山賊の怒声が響く。火矢の照準が宙のソニアを追った。


 ワイヤー移動しながらソニアは再びふともものバンドに手を伸ばす。もう一つの刃つきワイヤーを手にすると、今度は右腕に装着した。


 これで両腕にワイヤー装備が取り付けられた。


 ソニアは右腕のライトワイヤーを山賊の後ろ横の壁に放ち、同時に左腕のレフトワイヤーの刃を天井から離す。


 そしてすぐにレフトワイヤーを巻き上げた。煩雑な矢が少し飛び交う中、ソニアはレフトワイヤーに引っ張られ山賊の頭上を通り抜け、そのまま壁に着地した。


「なっ……!」


 アクロバティックな動作に呆気にとられる山賊。その背後を取ったソニアは、首筋に膝蹴りを入れて一人目をダウンさせる。


 ソニアはそのまま山賊が力を無くして崩れ落ちる背中に隠れた。残る山賊は三人。倒した山賊の背中から、残りの者を観察する。


「クソ……! よくも……っ!」


 まだ動ける山賊がソニアへ弓矢を向けた。ソニアは慌てて気絶させた山賊の背中へ隠れる。


「……っ!」


 その背後に隠れたことで、山賊の弓を射る指が止まった。ソニアはその影から出ないように、ふうと息をつく。


(ちょっと卑怯だけど……)


 敵とはいえ、気を失った者を盾にして自分の身を守るのは気が引けた。けれどもソニアはなりふり構っていられないのも事実であった。その盾の後ろでソニアは汗を流しながら肩の傷を抑える。


(……治りきってないよね)


 肩の傷に触れた手には、服越しにベトリと赤い血液がついていた。すでに傷口は短剣の『自動治癒(オーバーヒール)』によって修繕されつつある。しかし、さっきのような動きをすればするほど、閉まりつつある傷口も開いてしまう。


 だからといって消極的な動きをしていては負ける。ソニアは息を切らしながら、残った山賊たちを再びのぞき見た。


 弓を構えつつも仲間に当てるわけにはいかないので射ることができない山賊たち。


 そして出方を見つつ、『自動治癒(オーバーヒール)』で傷の回復を待つソニア。


 睨み合ったまま戦況は固まっていた。しかしソニアにとっては好都合であった。


 時間が経つことでソニアの傷は治っていき、さらにウィズの加勢が見込める。もっとも、ウィズの加勢は奥にいた山賊たちを倒せていたら、という前提が必要であるが。


 このまま静かな睨み合いが続く――とソニアも山賊も思っていた瞬間、深く轟く爆音が洞窟の奥から鳴り響いてきた。


 揺れる地面。周囲にうなるピキピキといった不安を煽る音。天井からパラパラと砂が落ちる。


 ――それは、ソニアとは違う場所で、同じ時間にウィズが放っていた『緋閃遡光(イグネートヴェイン)』の余波であった。


 しかしソニア含むこの場所にいる者たちはそれを知る由はない。


「崩れる……っ!?」


 その場がどよめく。ソニアは歯を噛み締めると、ついぞ気絶した山賊の影から出たのだった。

 

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