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61 奪取

「あああああぁぁぁあああぁァァァァアアアアア!!!!」


ウィズの『緋閃(イグネート)』が紫色のフードの防御壁を破壊する。同時にウィズが黒い触手で模した腕が砕け散り、中身についていた無数の目玉が露わになった。それはギョロりと周囲をそれぞれの方向で見つめている。


 腕が崩れると、『緋閃(イグネート)』の術式もパキンと砕け散った。


「ちっ……!」


 ウィズは舌打ちをして、周囲に目をやる。周囲には恐れおののく山賊たちが腰をつけており、ウィズはそれをじとりと注意深く見渡した。


「っ」


 その隙に防御壁が壊れた余波で倒れていたフードが飛び起き、広間の外に向かって駆け出す。ウィズから逃げる気のようだ。


 魔力を風に還元し、それを体に乗せて粒子を纏わせながら退路に行くフードに、ウィズが気づいていないハズがない。ウィズは腕にすら模していない一歩の太めの触手をフードの方に向けた。


「逃がすかァッ!」


 『緋閃(イグネート)』がそこから発せられ、フードの頭上を通ると広間出口の天井に着弾する。大きな爆発音をたてて、天井が崩落した。


 フードは崩れ落ちた岩の前で立ち止まると、右の袖に魔方陣を展開する。


 十中八九、フードは魔法で岩をぶち壊して出口に進むつもりだろう。当然、ウィズはフードがそういう行動を取るであろうことを本能で理解していた。


 だから、ウィズはさっき周囲を見渡していたのだ。その中で、丁度よさげな山賊を見つけるために。


 そしてその得物は見つかった。


 ウィズの視線は山賊の頭と思われる者へと向いていて、フードが足を止めたのとほぼ同時に彼へ『緋閃』を放っていた。ウィズの両腕から伸びる黒い触手はすでに彼へと向かっている。


「ぐぁっ……!!」


 その『緋閃』は山賊の頭の両腕をいとも簡単に焼き切った。腕を千切られた山賊は白い泡を吹いて仰向けに倒れ、その両腕はぼとりと地面に落ちる。同時に、先行していたウィズの触手がその両腕の断片に入り込み、それを取ってウィズの下へ戻っていった。


 それを見た残り山賊たちにとって、ウィズは『悪魔』にしか見えなかっただろう。


 山賊の専売特許でさえある横行な態度は枯れ果てていた。その虚勢に隠された臆病さと弱さが彼らの足を震わせている。誰一人として立ってウィズに歯向うような勇敢な者はいなかった。


「っ!」


 ウィズは触手で取り寄せた山賊の頭の両腕を千切れた自分の両腕代わりに装着し、奪取したばかりの拳を握りしめた。そのまま間髪入れず、奪い取った右腕を地面につけて魔法を発動する。


「『極低温の(Cryogenic)浸食する(Erosion)秩序(Method)』」


 触れた地面に藍色の魔方陣が現れると、その地点から一斉に凍結の浸食が始まった。床から360度全方位に始まった凍結は、到底ながら大広間の全てを凍らせる。


 その速度は一定距離内に限って素早く、フードが瓦礫の山を魔法で弾き飛ばそうとした頃にはすでに大広間全体が凍っていた。もちろん、『緋閃』によって崩落してできた瓦礫の山も、それを守るかのように完全な凍結が成されている。


「……っ!」


 フードが火炎弾で凍結した瓦礫を取り除こうと放った。瓦礫の山に着弾し、大きな音と共に砂煙と蒸気が舞う。


 それらはすぐ消えて瓦礫の山が再び視界に現れるも、それを見たフードは一歩後ずさった。何故なら、火炎弾によって破壊した凍結部分と瓦礫の山の一部――それらは再び『極低温の(Cryogenic)浸食する(Erosion)秩序(Method)』により、さらに強固な氷の塊へと凍結していくのを見たのだから。


 ――『極低温の(Cryogenic)浸食する(Erosion)秩序(Method)』。それは周囲を絶対零度の氷結世界に誘う、大規模氷魔法だ。


 術者の使用魔力や予めの調整により、浸食スピードや浸食時間もある程度はコントールできる。当然、それは大規模になればなるほど大量の魔力が必要になるが、ウィズにはほとんど関係ない。


 『緋閃零式(タイプ『イグネート』)』でほぼ無尽蔵に魔力が生成されている。故に、少なくてもウィズが意識を保っている間は『極低温の(Cryogenic)浸食する(Erosion)秩序(Method)』が解除されることはない。


「っ」


 ただの火炎弾では壊れせないことを知るや、フードはすぐに振り向いた。その視線の先にはゆっくりと歩いてくるウィズの姿があった。


 千切れた両腕は触手で奪った他人のものが接続されているが、何の不便もないようだ。


 フードは両手をかざすと、周囲にいくつか赤い魔法陣を展開した。どんどん展開されていく魔法陣にも、ウィズは怖気付くことなくゆっくりと歩き続ける。


 フードの肩がピクリと揺れる。直後、赤い魔法陣から細い熱線が周囲へ向かって放たれた。


 魔法陣から放たれる熱線の角度は様々だった。地面、壁、天井に至るまで網のように放たれる。


 その中で空気中において熱線同士がぶつかり合うと、互いに合成しあい威力を増した。その強化された熱線は例外なくウィズへと放たれる。


「……」


 ウィズは黙ってそれを『緋閃』でいなしていった。連続して無数の熱線が放たれていくが、ウィズの周囲にバラ撒かれた『緋閃』の粒子がことごとくそれらを消滅させていく。


 ウィズの前髪の先で火花が散っては消えた。


 その赤い熱線が削れゆく最中に、ウィズは片腕をフードへ向ける。


「オマエだろ、オマエ。なぁー、オマエだよな? オマエ誰だよ? オレのことは覚えてるか?」


「……知ラない」


 ウィズの声掛けに、フードは無機質な声で反応した。それを聞いたウィズはピクリと眉を動かし、目を細める。


 ウィズはその声を知っていた。それは人間の声ではない。魔力で作られた人工の喉と口を介した声だった。つまり、フードの下にあるのは。


(……『魔法傀儡(マジックパペット)』か? いや『自動魔傀儡(オートマタ)』の可能性もあるな……)


 フードが放つ熱線の乱射に、周りにいた山賊たちがやられているのを気にもせず、ウィズは思考する。


 『極低温の(Cryogenic)浸食する(Erosion)秩序(Method)』での魔力放出や、フードの声を聞いた瞬間にそれと脳内の知識が結びついたことが原因なのか、ウィズの情緒もだんだんと冷静になってきていた。


 フードと向かい合うウィズ。小さく息をつきながら、新たに奪取してつけたばかりの両腕の感覚を改めて再確認する。


 "神経"は完全に同期していた。動きも滑らかで使い勝手は普通。あえていうなら、奪った腕の部分が本体(ボディ)と比べて血色が悪く、若干ゴツゴツしているので不格好なのが気になるぐらいだ。


「……コレをどかせ。でないと排除、するぞ」


 フードの中にある瞳を緑色に煌めかせながら、そのフード――もとい、魔法傀儡(マジックパペット)は熱線の乱反射を中止して、魔力を漂わせる。どうやらウィズに全力の魔法をぶつけてくるようだ。


 そんな様子を見たウィズは吹き出した。そして言う。


「排除? オレをか? あの凍った瓦礫すら砕けないオマエが?」


「……排除、する。それしか道はない。アレを壊す魔法を撃つには、貴様が邪魔だ。どっちみち、である」


「分かってるなぁ、オイオイ」


 せせら笑いながら、ウィズは新たに『緋閃』を顕現させる。フードの傀儡も身構えた。


「だがまァ、そりゃ『不可能』ってヤツだろ」


 『緋閃零式《タイプ『イグネート』》』が作動する。魔力が全身にいきわたり、それでも足りないぐらいに量産されて、周囲の魔粒子が不可解に蠢き始めた。ウィズの背中に、一縷の光が迸る――。


「オマエとオレじゃ、"根源"が違うんだよ」


 刹那、その場は光に呑まれた。


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