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54 術

 山道をウィズとソニアが乗る馬車が駆ける。その後ろには二つの馬車がついてきていた。


 片や、エイジャが操縦を行っている。それらはこれからウィズたちが捕らえる奴らを運ぶための代物で、後ろには簡易的な檻の車がついていた。


 ウィズは手綱を振るいながら、真剣な表情でソニアに声をかける。


「……ソニア」


「……?」


 ソニアの視線がウィズへと向けられた。ウィズは前を見きつつ、ソニアへと告げる。


「今回ばかりは僕一人で戦うってわけにもいかない。敵をかち合ってユーナちゃんを確保できたとして、僕らは敵と戦う側と、ユーナちゃんを逃がす側で別れなくちゃいけない。戦闘のリスクは前者の方が高くつくけれど……」


 ウィズは瞳を細めた。


「ユーナちゃんを逃がす側は時にそれ以上のリスクを背負うことになる。――ユーナちゃんを守りながら、敵と戦闘になった時だね」


 真剣な表情でソニアはうなずく。木々のすき間を馬車は刻刻とアジトへ向かって走る。走る。


「僕が敵を請け負って、君がユーナちゃんと一緒に脱出。そういう役割分担が良いと思う。だからソニア、君がユーナちゃんを守らなくちゃいけない」


「……うん」


「だから――」


 手綱を片手に集約し、ウィズはフリーになったもう片方の手でソニアの肩を掴んだ。そしてその手でソニアの身を引き寄せ、顔を彼女の至近距離まで寄せた。


 互いの顔が触れそうなぐらいの距離で停止する。ソニアは僅かに赤面するも、ウィズが真剣な表情でソニアを真っ直ぐ見つめていたので、彼女も恋情に呑まれないよう、真っ直ぐとウィズを見返した。


「今から『魔力』を『身体能力』に働きかける(すべ)を身に着けてもらうよ。それだけでかなり違ってくるはずだから」


「そ、それならもう……」


「君のは微弱すぎるんだ。それじゃ効果が薄い。もっと大きな魔力を内から引き出して、肉体と神経に作用させないと。折角体を鍛えてるのにもったいないよ」


 そう言いながら、ウィズはソニアの肩から手を離す。


 ユーナ救出に今のソニアでは心もとないというのも否めない。なので、ここでウィズはソニアに成長してもらうことにした。


 ウィズのような魔術師と違い、ソニアのような剣士は魔力の消費が少ない。だからその分、身体強化や剣術に消費を回すことができる。


 ソニアの場合、確かにそれ自体はできていた。けれど、圧倒的に纏う魔力の量が少ない。もっと魔力を身体能力へ回しても良いのだ。


 しかしそれも簡単にというわけにはいかない。やはり『魔法』と同じように、魔力を扱う技術には『努力』と『才能』が付きまとう。普通の安全策ではこの短時間で魔力の扱いを成長させるのはほぼ不可能といってよいだろう。


 ――だから、その技術向上も今の残された短時間でやるとするなら、少々手荒い真似をしなくてはならない。


「ソニア……」


「……うん?」


「今から、僕の魔力で君の中で眠ってる魔力を誘発させる。それを体に纏ってみてよ。纏う事自体はできてるんだし」


「えっ」


 ウィズはそう言ってソニアに手をかざした。ソニアは目を丸くして、ウィズの言葉に面喰っていた。


「そんなことが……?」


「できる……と、思う。これからは自分でやらなきゃいけない過程だから、その感覚はちゃんと覚えてね」


「わ、分かった……!」


 ソニアは胸に手を当て、決意めいた瞳で真っ直ぐ見つめる。それを横目で確認したウィズは小さく微笑むと、かざした手に魔力を込めて――。


「っ……!」


 打ち出した。魔力がソニアの体周辺に及び、それは表面を包み込んでいく。ソニアは少し苦しそうに前かがみになった。そんな中、ゆっくりと彼女の体内にウィズの魔力が混ざっていく。


(……どうだ?)


 ウィズは横目でソニアの様子を確認する。


 ウィズの魔力は精神に汚染されて『負の魔粒子』で構成されていた。ソニアは言わずもがな、『正の魔粒子』である。それらは力次第で引き寄せ合ったり弾きあったり、はたまた何の影響も与えなかったりする。その性質にも期待していた。


 さらには自分の体に他人の魔力が入ったことで、その魔力を押し出そうと中にある魔力が外へ出てくるはずだ。


「この感じ……!」


 ソニアは自らの両手を開け閉めしながら、感じているであろう魔力による高揚感におののいているようだった。どうやらウィズの思惑は成功したようだ。ちょっとホッとしてウィズは息を吐く。


「そう、そんな感じ。その感覚を覚えて、自分でも出せるようにね」


「うん……っ! ありがとう! やってみるよ!」


「あ、ちょっと待って」


 嬉しそうにお礼を告げるソニアに、ウィズは待ったをかけた。ソニアはきょとんとした顔でウィズを見つめる。


「まだだよ。魔力を纏った後は、神経と肉体に魔力を伝導して、ちゃんと効果を発揮させなきゃ」


「あ……。でも、こんなたくさんの魔力を――」


「大丈夫」


 ウィズはソニアが言い終わるよりも先に、()()()()()()()()()()()()()()()()


「――えっ?」


 呆気からんとした表情で、馬車の外へ身を投げ出されるソニア。その瞳には無表情のウィズが映っていた。


「その魔力で身を守って、馬車に追いついてきな」


「――」


 ソニアが地面に落ちたのはすぐのことであった。勢いよく地面に叩きつけられ、彼女の体は弾かれては後ろへと飛んで行った。


「……」


 ウィズはそんなソニアなど気にもせず、手綱を両手で握り直したのだった。


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