表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

107/130

107 奪取

 フィリアに向かっていった『緋閃(イグネート)』の全てがその途中で止まった。全ての熱線は停滞し、フィリアの剣はウィズを正面から狙っている。


 ウィズは目を細める。空間で静止した『緋閃』を視界に入れて凝視すると、小さくため息をついた。


(なるほど……)


 大気に留まっている『緋閃』をよくよく感じてみた結果、そこからはウィズの魔力だけでない、余計なものも混じっていた。それはウィズが時々感じていた魔剣『フレスベルク』の魔力によく似ていた。


(魔剣の魔力を媒介して、オレの『魔収束(アトラクト)』……『緋閃』に細工したな?)


 『魔収束(アトラクト)』によって微かに繋がっている『緋閃』に魔力の信号を送っても、応答している感覚はあるけれど反応はしてくれない。フィリアが『フレスベルク』の魔力を用いて、その作動を妨害しているとみた。


 剣士のくせに、面白い魔法の使い方を身に着けたものだ。魔法剣士を目指す者が身内にいる影響もあるのだろうか。


 しかし――。


「ま、それだけじゃ、何ら変わりませんがね」


 ウィズはフィリアの剣に向かい、右手をかざす。その右手には『緋閃』になりうる魔力が込められていた。


「『緋閃』が止められたらのなら、また新しくぶっ放せばいいだけですよ」


 刹那、ウィズの右指の一つに緋色の魔法陣が顕現し、魔力の集約点から煌めきと共に高熱源が発生する。それは瞬きする間もなく熱線――『緋閃』となり、大気を貫いてフィリアへと接近した。


(ちょっと驚いたが、ただ止めただけだ。見方によっては剣で弾くのと同義。この状況を覆すものでも――)


 『魔収束(アトラクト)』の『緋閃』をすべて止めたところで、ウィズの攻撃の手を塞いだことにはならない。『魔収束(アトラクト)』はいわば少し過去の攻撃の再利用であり、現在の攻撃手数の増減とは無関係なのだ。


 ――と、ウィズはそう思っていた。


「っ!」


 放ったばかりの『緋閃』がフィリアに至るまでの経路で、異なる光と衝突して消滅したのだ。ウィズは目を見開く。


 ウィズの脳がその事態を理解するよりも早く、フィリアは斬撃を放った。ウィズは目の前の危険を察知し、一旦考えることを放棄して『緋閃』でその斬撃を相殺する。


「くっ……!」


 直後、ウィズの肩に熱線がかすった。ヒリヒリする痛みに震えて、ウィズの姿勢がちょっと崩れる。そして同時にその正体を把握し、舌打ちをした。


(フィリアの"魔法"は『緋閃』を止めただけじゃねぇ……!)


 ふと正面を見ると、すでにこちらに向かって光る点がウィズの視界の中で星のように散らばっていた。それは正面から見た熱線――『緋閃』であった。


「『緋閃』を……っ!」


 無数の『緋閃』が今度はウィズに迫り来る。ウィズは咄嗟に地面を蹴って壁沿いを駆け、それらの熱線をかわしていく。しかし『緋閃』と一緒に再び放たれたフィリアの斬撃により、ウィズの足が止められた。


 ――フィリアの"魔法"は『緋閃』を止めたわけではない。『掌握』したのだ。魔剣『フレスベルク』の負の魔粒子を使い、『魔収束(アトラクト)』によって操作された『緋閃』の主導権をウィズから奪い取っていた。


 止められた『緋閃』に魔剣の魔力を感じたのも、すでにその時点で『緋閃』はフィリアの管理下にあったわけだ。彼女はわざわざ"そう思わせるために"『緋閃』をあえてピタリと硬直させておいた。ただそれだけの話だった。


「さあ、どうするの?」


 足を止められ、周囲は『緋閃』の被弾による砂埃にまみれていた。視界最悪の中で、それをかき分けて飛び込んできたのは二度目の斬撃と、それを放ったフィリアの悪戯っ子っぽさを含んだ音色。


「どうするも何も……」


 目の前の斬撃は普通の『緋閃』では対処できないであろう。けれど、ウィズは右手の中にはすでに光の線が煌めていている。そして迫る斬撃に構えた。


「どうせ避けられないんだよ」


 右手の中にある光は『緋閃』であった。それは手のひらで小さな弧を描いて、グルングルンと回転しては加速していた。『緋閃』は加速し、残像が橙の球を縁取っているようであった。


 『緋閃』はその性質上、発射元よりもある程度距離が伸びてからの方が威力は高くなる。"ある程度"というのは、管理が及ばないほど遠くに『緋閃』が放たれた場合、自動的に魔粒子が大気へと分解される仕組みになっているからだ。


 その仕組みというのは、『緋閃』は平たくいうと『負』と『正』の魔粒子がぶつかり合うことで、一定方向に加速し続けエネルギーを生んでいる。理論的には永遠と加速し続けることができるのだが、そう簡単なことではない。


 使用者がその都度管理していないと、二つの関係性は少しの緩みで破綻してしまう。その破綻の種類もそれぞれで、中には少々荒っぽく破綻するケースもあった。だから管理領域の外へ出た場合、安全に『緋閃』が消滅する術式を組んでいる。



 それ踏まえて、今の状況。ウィズの手のひらで球を形作るように『緋閃』は回転し、加速を続けている。



 ――それが何を意味するのか。ウィズの領域内で『緋閃』は加速し続け、発生するエネルギーは爆発的に増加しているということは。



 手の中で廻り続けていた光の線が軌道を変えて、ウィズの右腕に輪となって顕現した。そして、次の瞬間には右腕が斬撃に向かって振りかぶられる。




「押し返すのみだ……!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ