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Ep.37 落ち着かない

 

ーー……まずい、これは由々しき事態だわ。




「カナリア様、お顔の色が優れませんわね。

やはりまだ色々と気がかりなことがございまして?」




 『お食事の手が止まっておりましてよ』と指摘され、ハッと手元のスプーンを握り直す。

 いけないいけない、食事中に上の空でカトラリーを落とすだなんて完璧な淑女にあるまじき姿だわ。




「ごめんなさい、あまりに良い陽気だったからつい美しい空に気を取られてしまいましたわ」


「ふふ、そうですね。

ランチを中庭にして正解でしたわ」



 朗らかに笑ったアンナの姿に私も頬を緩ませる。

 リヒト様との婚約を解消してすぐは何かと権威目当てのお誘い続きで正直疲れていたけれど、アンナと2人で行動するようになってからは下心ありきのお誘いが激減した。


 国防の要を担う彼女の生家には反感を買いたくない家が多いのだろう。友人を利用しているようで心苦しかったが


『わたくしは今、カナリア様のお側に置いていただけるのが楽しくて仕方がありませんの。

だから我が家の虎程度でしたら存分に活用していただいて宜しいわ』


 と断言されてしまったので、甘んじて恩恵を受けさせて頂いている。



「名作小説顔負けのロマンスを現実で拝見出来るまたとない特等席ですもの、おいそれと手放して溜まるものですか」


「……?何かおっしゃいまして?」


「おほほほ、何でも御座いませんわ。

それよりも、本日はデザートもお持ちしましたの。是非お召し上がりになって?」




 ありがとう、と手を出すと渡されたのはハート型のクッキーだった。可愛い。


 2人でつまみながら、また新作のロマンス小説情報などで盛り上がる。


 本当に、まさか彼女とこんなに良い友人になれるだなんてほんのひと月前まで思いもしてなかったのに……人の気持ちって想定通りにはいかないものよね。



 

 ………そう、私が今悩んでいるのはまさにそこなのだ。




「あら、イグニス殿下ですわ」


「ーっ!!」



 ふと2階の渡り廊下を見上げたアンナの言葉に反射的に机の陰に隠れた私に、くすりと笑う声が聞こえた。



「あらあら、その様に連日お避けになっては殿下がいじけてしまわれてよ。

ケンカでもなさったの?」


「そうじゃ無いけど……」



 チラっと私も渡り廊下を見てみる。

 イグニスはそもそもこちらには気づいていなかったのか既に歩き出していて、特徴的な紅色の髪が遠のいていく姿しか見えなかった。

 そんな彼に好意の滲んだ目で駆け寄っていく下級生や上級生の女性達の姿に、心の上に雲がかかる。




「ーー……」




 見つからなくて安心した……筈無のに、なんだろう。面白くない。




「うふふふっ」


「えっ、急になに!?」


「なんでもございませんわ、カナリア様は今はイグニス殿下のことだけしっかりお考えになって?」


「なっ……!だ、だから、私達はただの!

ただの……」




 そこで言葉が出なくなってしまう私。


 改めて見れば、今の私とイグニスの関係って……なんだろう。



 リヒト様と婚約破棄した今は、未来の義兄でもない。

 かと言って前は日課だった色々な競い合いも最近はしていないし。成績くらいならたまに見せ合ったりするけど学科が違うから好敵手と言う訳でもない。


 "鏡像"の件があるからなんだかんだ縁が続いてるけど、本当は。




(私、偉そうに彼の隣に居れた立場じゃないじゃない……)




「これは中々……、お二人とも案外奥手で前途多難そうですわねぇ」




 考え込んでいた私の耳には、アンナのその言葉は届かなかった。















ーーーーーーーーーーーー

 一方、渡り廊下を抜けたイグニスは一番手前の資料室を訪れた。


 ここは音楽関連の資料と機材の部屋なので、風通し用の小窓がある。外から見れば、あると分からない程度の小ささ。


 そこから、中庭に咲く金色を探した。




(あぁ、あそこか)




 アンナのお気に入りのガゼボの中……ガラステーブルを囲っている後ろ姿が目に留まるが、彼女は当然 振り向かない。



 先日の『そんな目で見ていない』宣言以降、カナリアが目を合わせてくれなくなって何日になるだろうか。



『お話されたいならご自分から声をおかけになればよろしいでしょう』



 ユーリのその言葉に頷けなかったのは、今顔を合わせたら身の程に合わない欲が出そうだったからだ。



「何故、俺を見ないんだ……なんて、言えた立場じゃないよなぁ」



 胸ポケットから取り出したのは国王()が印をした命令状。

 リヒトとの婚約破棄の件等諸々の謝罪をすべく、彼女を何としても一度王宮にこさせよとのことだ。




「……っとに、汚え血筋が」



 舌を鳴らし、書状をその場で破り捨てて部屋から出たイグニス。


 背後にかかった半割れの鏡飾りが深紅の髪をゆらりと写した。




 


 








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