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序
あなたにとっての幸せって、なんですか。
作文の宿題だったか。そう問われてとても悩んだことがある。
「お母さん、お母さんにとっての幸せって、なあに?」
急に問われた母親は、困惑していた様子だったが、やがて笑顔を浮かべてこう言った。
「うーん、いろいろあって迷うけど。お母さんにとっての幸せは、あなたより先におばあちゃんのところへ行くことかな。お母さんにとって一番不幸なのは、あなたに先を越されちゃうことだからね」
一年前に亡くなった祖母の遺影を眺めながら、満足げに語る母とは裏腹に、なんだかつまらない答えだなと思った。
そんな母は、翌日、干上がった水路で見つかった。
見知らぬ人々と一緒に、水路のはじっこに積みあがっていた。
母は、幸せだったろうか。
太陽がじりじりとその山を溶かしていくのを見ながら……ぼんやりとそう考えたのを覚えている。