飛翔する獅子⑥
進軍していた敵が突如、止まった。
「来るぞ」
セングンが、セイウンに向かってささやいた。
敵の陣から笛が鳴った。開戦の合図だった。雄叫びを上げ、槍や剣を振り回しながら進み始める。馬蹄の音も聞こえてきた。
まずは矢が届く位置まで、敵を引きつけなければならない。
「構えろ!」
バルザックの指揮する声が響いた。彼は以前はクルアン王国の将軍だったので、こういうのはお手のものだった。
そろそろだろう。敵が矢の届く範囲に入って来ているはずだ。戦に関して素人のセイウンもこれぐらい分かった。
来い、来い、来い。
入った。
「放て!」
バルザックが叫ぶのと同時に、矢が一斉に放たれて、敵に当たった。一気に斃れる者が続出した。
敵の方も弓隊を用意しているみたいだった。あっという間に、前方に出て来た。
「敵の弓隊も射殺せ。奴らに慈悲をかけるな!」
サイスの声も聞こえてきた。慈悲をかけるな、と言った理由は以前の反乱で負けている恨みからだろう。
再び矢が放たれた。悲鳴がセイウンの耳に次々と入って来る。
これが戦。城塔から様子を見ていたセイウンは、背筋から嫌な汗を流していた。
こんな戦いを、父はやってきたのか。いつの間にか、足が震えていた。やはり戦というものは怖い。どんなに強がっても、やはり怖さだけは隠すことができない。
しかし、怖がってばかりでは話にならない。自分は反乱軍の頭領である。みんなが戦っているのに、自分だけ怖がってどうするんだ。
セイウンは己の両頬を張った。
「どうした、セイウン?ご乱心か?」
「セングン、俺がもしそうなった場合、遠慮なくぶん殴れ」
セングンは、こくりと頷いた。
敵は、はしごを持って来た。登って攻め落とすつもりである。
「はしごを持っている兵を殺せ!」
バルザックのかけ声とともに、矢が再び雨のように放たれていった。




