父と娘⑩
その後、ハシュクを医療班の隊長に、セングンを軍師に任命すると解散となった。
「面倒だな医療班なんて。僕は好きにやらせてもらいたいよ」
ハシュクは一人でぼやいていた。
セングンを軍師に任命したのは、セイウンの意向だった。理由はなんとなくだった。だが、セングン自身もまんざらでもなさそうだったし、みんなも納得していた。
「さあエレン、俺達は軍の調練に行くぞ」
「…………」
「どうかしたか?」
「ううん、何でもない。そうだセイウン、先に練兵場まで行ってちょうだい。私はちょっと用事があるから」
「分かった。だけど、早く来いよ」
二人は分かれて別々の方向に足を伸ばした。
セイウンは練兵場に。
エレンはセングンの部屋に。
セングンの部屋にたどり着いたエレンは、ドアをノックした。すぐに中から、どうぞと声が返って来た。。
セングンは入って来たエレンに目もくれず、書類とにらめっこをしていた。机上にも多量の書類が山積みにされていた。これらを一日で全て読み通しているのだから凄い集中力だった。
「なんだ君か。どうかしたのか?」
「聞きたいことがあるのだけど……」
「君をセイウンの副官に任命したことか?」
「うん。本当にあれでよかったの?」
セングンが私的なことを嫌う性格は、しばらく付き合いがあるエレンは知っていた。先ほどセイウンの副官に任命された時は何も感じなかったが、よく考えれば変である。なんだか作為的な要素が混じっているのではと不審に感じていた。
セングンは書類を見るのに疲れたのか大きなあくびをした。
「正直言うと、僕は君をセイウンの副官に任命するのは反対だった。知っての通り、僕は『公』と『私』をわきまえる性格だ。本当は君をデュマの副官にするつもりだった」
「セイウンね」
「そうだ。あいつが頭を下げてまで、僕に頼みこんだのだ。そうまでされると僕も承諾するしかなかったよ。ただし、私的なことを聞いてやるのは今回だけだという条件付きだけどね」
「セイウンは、どうしてそこまで……」
「君がそんなことで悩むとは意外だな。考えてみろ。実に単純な答えだよ」
「私と離れたくなかったから?」
「そうだよ。まあ、君ならあいつの気持ちも分かるだろう」
分からない事もなかった。セイウンとは、十年以上も孤児院で一緒に育ってきた仲である。何をするにしても、一緒にいた。いつしかお互いかけがえのない存在となっていた。
つまりセイウンにとってエレンは、体の一部となっていた。
それはエレンも同じだった。先ほどセイウンの副官に任命をされた時の嬉しさが何よりの証拠だった。エレンの心中に、温かみのある何かが胸を打った。
「まだ聞きたい事はあるか?」
「いいえ、もう何も無いわ。ありがとう、セングン。私はあいつの副官として頑張るから」
「なら頑張りたまえ。君の役目は、セイウンの補佐でもあるし、あいつがどこかで浮気をしないように見張ることでもあるんだぞ」
「任せといて。浮気したら、好きなだけ殴ってもいいでしょう?」
「ご自由に。夫婦間のことまで、僕は口出しをしないよ」
エレンはセングンの部屋をあとにした。彼女は突然、走りたくなった。早くセイウンのもとに行きたい。
エレンは一気に廊下を駆け抜けた。




