第41話 耳が気になって仕方がない
グラスドッグの群れを倒し、暫く休んで体力を回復させてから、俺とルージーは馬車を追って駆け出した。
風魔法の追い風を使うと、歩いているときよりも、走っているときの方が快適だ。軽い駆け足でも、普段の1.5倍くらいのスピードが出るし、脚の負担も少ない。
トゥデラたちの騎馬と馬車は、危機を脱したら、並足に戻しているはずなので、そのうち追いつくだろうと予想して1時間ほど走っていると、前方に騎馬と馬車が見えてきた。
騎馬と馬車との距離は、直ぐに詰まり、程なく追い付いた。
トゥデラが先頭から馬を返して来て、
「問題はなかったか?」と聞いてきた。
後ろから襲われたら、俺とルージーは囮になって時間を稼ぎ、トゥデラは護衛対象を連れて逃げると、お互い了解した上での行動なので、これは仕事の上での確認の声掛けだ。
「ああ、問題ない。グラスドッグの数が多かったから時間が掛かったけどな」
と、状況を説明した。
「そうか」とトゥデラは頷くと、また先頭に還っていった。
その後、もう襲撃はなかった。
この日は、かなりの距離を走ったので、夕方よりかなり早く次の宿場街に着いた。
半弓の矢を使い切ったことをトゥデラに言うと、「それなら、倍買っておけ」と言われたので、矢筒を2つ買い込んだ。
斡旋された宿屋に入り、やっと寛いだ。
早めに夕飯をつくってもらい、今日は2人部屋だったのでルージーと組み、2人して爆睡した。
翌朝、ステータスを確認した。
久しぶりの大きな戦闘だったので、ステータスが上がっているかもしれないと期待した。
スキル 奥の手(短剣、盾、戦斧、弓、剣、槍、大盾、癒し魔法、風魔法、土魔法)、短剣術4、盾術3、戦斧術3、弓術7、剣術6、槍術3→4、大盾術2→3、癒し魔法1、風魔法4→5、土魔法1、気配察知7→8、生食5、身体強化5→6
なんと、土魔法が芽生えていた。待望の新しい魔法だ。風魔法よりも、かなり戦闘に役立ちそうな魔法だ。これで、昨日の苦労が報われると、小躍りしそうになった。
いつものように朝早くに宿場街を出た。
次の目的地は、ロブスクリという中規模の街だ。
風魔法で背中に追い風を当てるのも慣れてきたので、歩くのがかなり楽だ。
今日は、何事もなく過ぎてくれと願っていたが、王都から離れるにつれ、魔物の影が濃くなるのか、かなり頻繁に魔物の襲撃に遭った。
半弓の矢は節約して使わずに、奥の手の弓で対処した。
襲って来たのは、グラスドッグ、ゴブリン、グラスウルフだが、いずれも10匹以下の小さな群れだったので、奥の手の弓で大半を殺した。
近寄って来たグラスドッグやゴブリンに、顔を狙ってストーンバレットを撃つと、止まって目を庇う動作をするので、弱い魔物の突進を止めるのに有効だと分かった。しかし、まだ威力が弱いので、ウルフ系はストーンバレットなどものともせずに突っ込んで来る。
接近を許した魔物は、奥の手の槍と剣で倒した。
今日の戦闘は楽勝だった。土魔法もかなり使ったので、早くも熟練度が2に上がって、ストーンバレットのストーンがやや大きくなり、威力も少し増したようだ。
ほんの少し強くなっただけだが、便利な中距離攻撃の魔法だから、これから伸ばしていきたい。
さて、今日は、予定通りの時刻に、ロブスクリに着いた。
斡旋された宿屋で夕食を食べ、1人部屋に案内された。
「また、1人部屋か」と不満に思ったが、我慢して眠った。
夢の中で、ナーシャに似た女性が現れた。
顔がはっきり見えず、朧げなイメージでしかないが、確かにナーシャだと思った。
そのナーシャは、何かを訴えている。
何を訴えているのか声は聞こえない。
『助けてくれ、と言っているのだろうか?』と疑問に思うが、どうもそうではないようだ。
そのとき、ナーシャが後ろを向いて、頭の後ろが見えたが、振り向くときに髪の間から尖った耳が見えた。
『尖った耳?エルフなのか?』
俺は、まだエルを見たことはない。しかし、ルージーはハーフドワーフだ。ドワーフがいるなら、エルフも居るだろう。ハーフリングやハーフノームが居るぐらいだから、エルフやハーフエルが居てもおかしくはないと、夢の中で考えていた。
夢はそこで終わり、目が覚めて、あの夢は何だったのか?
『そうか、エルフか・・・。そいえばナーシャの耳って、見たことがないな』
ぼんやりと、そんなことを考えていた。
「旦那様、朝食に行きますよ」
ルージーが部屋のドアを叩いて起こしに来てくれた。
「分かった、直ぐに行く。先に食べ始めてくれ」
俺は跳ね起きて、急いで服と装備を身に付け、食堂へ降りて行った。
食堂では、もう3人とも席に着いて朝食を食べ始めていた。
俺は、ルージーの隣に座ったが、向かいの席のナーシャの耳が気になって仕方がない。
パンを千切りながら、ナーシャの耳をチラチラと見てしまう。
ナーシャがそれに気づいて、
「どうかしましたか?私の髪に何か付いています?」と聞いてくる。
「いや」と俺は胡麻化して、食事を続けた。




