第25話 悪事にペナルティあり
翌朝、村の護衛としてトゥデラとルージーを残し、俺とドゴーとスレイの3人は、縛り上げた盗賊の1人に案内させてアジトに向かった。
この依頼に参加しているのは3チームなので、盗賊の洞窟で財産が見つかった場合は、3チームで3等分すると話し合って決めた。
俺とトゥデラとルージーは3人いるが1チーム扱いで、ドゴーとスレイはそれぞれ1人で1チームだ。
昨日捕らえた盗賊の1人に、猿ぐつわを噛ませた上で、首と両手首に木の板の枷を嵌め、両足首にも縄を繋いで走れないようにして、腰に縄を繋いで先導させた。
そのせいで盗賊のアジトに着くまで時間がかかり、半日かかって着いた。
洞窟が木々の間から見えるところでいったん立ち止まり、案内の盗賊の頭を剣の柄で殴って気絶させておいた。強く殴り過ぎたので、ひょっとしたら死んだかもしれないが、気にしないでおく。
アジトの洞窟の前で、2人が番をしているが、スレイの矢と俺の投げナイフで、あっさりと倒した。
えっ、矢と投げナイフでは、速さが違うだろうって?
普通ならそうだ。矢の速度は時速200キロ以上だそうだ。同時に攻撃しても、1人に矢が刺さってから、もう1人に投げナイフが届くまでに、かなりのタイムラグがある。その間に、地面に伏せるか、物影に隠れる時間が出来てしまう。当然、投げナイフは当たらないよな。
だが、俺には風魔法がある。投げたナイフを風で包んで加速して、矢に負けない速度で飛ばすという芸当が出来る。
このときも、矢が盗賊の1人に刺さったのと間髪を置かず、俺の投げナイフも隣の盗賊に突き刺さっている。
「いい腕だ」とスレイに褒められた。
洞窟の中には。まだ3人残っているはずだから、俺が見えない盾で護りながら、単独で洞窟に入っていって残りの賊を倒した。
残念ながら。洞窟の奥には特に何もなかった。ラノベだと奪った財産がたっぷりあってウハウハとなるんだが、財宝も女奴隷も見つからなかった。盗賊たちの寝床の下から金貨と銀貨を数枚ずつ見つけたのが唯一の収穫だった。
「村長、ナーシャ、済まない。盗賊の洞窟に、財宝は無かった。だから、ナーシャを引き取ることは出来ないので諦めてくれ」と、ナーシャを譲るという話を断った。
ナーシャは、どうしてもこの村から連れ出して欲しいと縋ってくるが、金がない以上出来ない相談だ。
ナーシャは美人だし、惹かれもする。同情もするが、金のある奴がこの村に来たときに頼んでくれと、心を鬼にしてこの話は断った。
ナーシャは涙を溢しながら、村長の家に駆け込んで、俺たちが村を去るときにも出て来なかった。
ラズラの街に戻る野営のときに、
「旦那様、よかったのですか?」とルージーかこっそり聞いてくる。
「この世の中、金がないと出来ないことだらけだからな。仕方がない」
とあっさり諦めた風を装っておいた。
手が出せない話に、未練だけで拘るには、俺はいささか歳を取り過ぎている。
「ご主人様の判断は、正しい。私とルージーを売っても、金貨30枚にはとても届かない。届かないものに手を出す奴は、早死にすると言うしな」とトゥデラが横から口を出して俺に賛成したが、自分自身をもモノのように扱うトゥデラの考え方に驚きながら、
「俺は、お前たちを売る気はないぞ」と、2人に対しての思いを口にしておいた。ルージーにはその気持ちが通じたと思うが、荒くれ者の気質が強いトゥデラには通じたかどうかは分からない。
3日かけて商業ギルド会館に戻り、案内された小会議室で、担当職員に村長のサインをもらった依頼書を返し、報酬を受け取った。
俺たちのパーティへの報酬は、塩漬けになりかけていたこの仕事を積極的に受注したことへの報奨金を含めて金貨5枚、スレイとドゴーたちは、それぞれ金貨3枚ということだった。このほかに盗賊たちの首を衛兵隊に提出したが、残念ながら賞金首はなかったので、追加の儲けは無かった。
費やした日数を考えると1日につき、金貨半枚にもならない仕事だった。討伐する盗賊が多かったことを考えると、確かに割に合わない安い仕事だったのだろう、
しかし、護衛パーティとして実績がない俺たちには、この仕事を請け負うしか選択肢は無かったし、商業ギルドから紹介されたベテランの護衛たちとも知り合えたので、これでよしとしておこう。
今は、スレイとドゴーも誘って、打ち上げのために安い食堂に集まっている。
特に堅苦しい挨拶などはせず、それぞれ勝手に席に着き、好きな物を注文して、好きなように飲み食いし始める。
「リュート、アンタのパーティは人を増やさないのかい?」とスレイが聞いてくる。
「ああ、当分、この3人でいくつもりだ」
「人数が少ないと、いい護衛の仕事は回って来ないぞ」とドゴー。
「そうなのか?」
「8人から10人が最低限ってところだな」
「人数が多過ぎないか?」と聞き返すと、
「そんなことはない。盗賊は大抵30人から50人の規模が普通だらね。護衛の側も10人くらいいないと対応出来ないだろう」
と、ドゴーが護衛の仕事の常識を教えてくれる。
「とはいっても、護衛が多すぎると商人の負担が大きくなるからね。30人から50人くらいを10人位で撃退するのが、腕利きの護衛に求められる力だよ。まっ、リュートにはそれ以上の力があるんだろうけどね」
「なる程、それで、あんたたちも強いっていう訳か。納得だよ。しかし、1人で5人倒せるような腕利きが、そんなに大勢いるっていうのも驚きだな」
「いや、護衛と盗賊の強さの差は、実力の差じゃなくて、スキルの差だよ」とドゴー。
「スキルの差?」
「真面目に働いている護衛はスキルのレベルが高いし、盗賊に身を落とした奴らはスキルのレベルが低いからな」
「何で、そんなことが言えるんだ?」と聞くと、ドゴーもスレイも驚いた顔をして、
「子供の頃に、散々聞かされただろう。勤勉はスキルを伸ばす。怠惰はスキルを鈍らせる。だから、勤勉になれって」
初めて聞く情報に、しまった地雷を踏んだと焦ったが、
「俺には親の記憶が無くてな。森の中で1人で生きてきたからな」
と言って誤魔化した。すると、
「そんな話、私も初めて聞いたぞ」とトゥデラから援護射撃が来た。
「あんたはアルディリアの生まれじゃないのか?」とドゴー。
「ああ、ロイヒリン人だ」とトゥデラ。
「アルディリア人じゃなけりゃ関係のない話だ。忘れてくれ」
「その話は、アルディリア人に限ったことなのか?それなら俺にもルージーにも、関係ない話だな」
俺がアルディリア人じゃないどころか、異世界からの転移者らしいとは、口が裂けても言えないから、こうやって話が関係ない流れになって助かった。
「勤勉がスキルを伸ばすって話と、アルディリア人の間にどういう関係があるんだ?」
この話に関心を持ったらしいトゥデラが聞いている。俺も同じことを聞きたかったので、ナイスだトゥデラと心の中で拍手をした
「アルディリアでは、スキルは信仰による加護と信じられている。そしてアルディリアでのスキルの加護は、勤勉な者に優しく、怠惰な者に厳しい。昔からそう言われているが、本当のところは分からない」
「ロイヒリンでは、スキルには、勤勉も怠惰も関係ないぞ。もっとも、自分のスキルを伸ばすには、勤勉にスキルを伸ばす勤勉な努力が必要だがな。だか、盗賊の中にも、自分の強さについてだけは勤勉な奴もいる。そんな奴のスキルはどうなるんだ?」
「アルディリアでは、自分に都合の良いところだけ勤勉でも意味はない。盗賊になることを選んだ時点で、勤勉に働くことを放り出しているから、スキルは鈍っていくと言われているぞ」とドゴー。
なるほど、人間の自分勝手な理屈は通じないってことか。
この会話で、スキルのあり様が国によって違うという極めて重要な情報を得ることが出来た。




