翼と美咲
翼と美咲は子宝に恵まれなかったが、その後も二人仲良く暮らしている。
姉夫婦は一男一女に恵まれた。
兄夫婦は二女に恵まれ、その娘たちの結婚の時に兄は父のように泣いた。
川崎夫妻は、妻の尻に敷かれながら二人で仲良く暮らしていたが、定年間際で妻の急逝の後、川崎は妻の後を追うように亡くなった。
その日、美咲と翼は雪を見ていた。
春先に降り始めた雪をリビングから見ていた。
「名残りの雪だな……。」
「そうね………。」
「川崎……夫婦二人とも逝ってしまったね。」
「ええ……寂しいわ。」
「男は弱いんだ。本当は……。」
「そうかしら?」
「そうだよ。川崎が後を追うように逝ってしまったんだから……。
妻は夫が亡くなった後、イキイキしてる。」
「そんなことないわ。」
「そういう人が多いんだ。
でも、夫は早く亡くなるような気がする。」
「そうかしら?」
「だから、俺より先に逝くなよ。」
「えっ?」
「俺を残すな。」
「翼さん?」
「俺はお前が居ないと……無理だ。
きっと川崎みたいになる。
だから、俺より先に逝くな!
約束して………俺より先に逝かないと!」
「翼さん、約束しても守れるかどうかは分からないわ。」
「それでもいい。約束して欲しいんだ。」
「うん、約束する。」
「美咲……ありがとう。」
「翼さん、私こそ今までありがとう。
私を見つけてくれて、選んでくれて、求めてくれて、ありがとう。」
「美咲………。」
春先に降り始めた名残りの雪。
薄っすらと積もり始めた。
その夜、美咲は夢を見た。
何処かの御城でドレスを着た美咲が王子様と踊っている。
「翼さん!」
「美咲ちゃん!」
笑みを寄せて、二人で、二人だけで踊り続けている。
若い頃の出逢った頃の二人の姿で踊り続けている。
音楽が聞こえてくる。
「♪あ~な~たぁ~を いつも ゆぅ~めに見て~
そぉ~の 瞳さえ~ とぉ~ても懐かしい♪」
美咲は夢を見ながら微笑んでいる。
その美咲を抱いて寝ている翼も微笑んでいる。
二人ともまるで同じ夢を見ているかのような微笑みを浮かべて、優しい睡眠の時間を過ごしている。
きっと、残りの人生を……二人で歩める時間を……二人は大切に過ごすだろう。
夢の令嬢と王子のように寄り添いながら……。
挿入歌詞:ディズニー映画「眠れる森の美女」より「いつか夢で」(挿入は一部のみ……しかも記憶をたどって)




