番外編短編・母娘
今からちょっと昔、理世の母・莉子が女子高生時代の事である。
莉子はガリ勉で、超がつくほどの優等生だった。成績も常にトップで、看護師になる為に看護学校に行くことを希望していた。もっとも医療に高い志があるわけでもなく、安定した生活を送りたかっただけだが。母親の石子もミステリ作家を目指していたと聞き、あんな風にはなりたくないと思ってしまった。母の石子は農家で野菜を作っていたが、やかましく圧の強い性格でウマが合わなかった。タバコ臭いのも勘弁してほしい。
友達は流行りのビジュアル系バンドに熱中していたりしてたが、勉強一筋だった。そういった娯楽にも目もくれず、机に齧り付いて勉強していた。黒縁メガネと三つ編みという典型的な芋娘で、時々石子に「勉強ばっかりしてると気が狂うわよ! 少しは化粧やピアスをしなさい!」と母親とは思えない事を言われたりしていた。
そんな莉子だったが、恋をしてしまった。同じ学校の先輩で、委員会が同じなのをきっかけに好きになってしまった。莉子と同じようないかにも真面目タイプで、勉強の話題で気もあった。名前が雲井良一。そう、莉子と苗字も同じで、運命じみたものも感じてしまった。
「ちょっと、莉子。あんた、最近ぼーっとしてない?」
ある日、夕飯を食べた後石子に指摘されてしまった。石子は妙に鋭いところがあった。莉子が熱を出した時は、体温計を測らなくとも病院に連れて行った事もあった。あと、嘘をつくと全部バレた。
リビングは石子と莉子だけだった。ちゃぶ台を囲み食後の緑茶を飲んでいた。
父の泰三は、裏の立花家に飲みに行ってしまった。弟の史緒、妹の真凛は自分の部屋に戻って宿題をしていた。史緒も真凛も石子を反面教師にし、勉強好きの傾向があった。
「実は」
隠していても無意味だと思い、同じ苗字の彼が気になっている事を説明してしまった。
「あら、同じ苗字だなんていいじゃない。田舎だとあるあるよ。麹衣村にはいないけど、隣の美素町では中村さん家がいっぱいあるんですって。それに結婚した時いいじゃない。仕事していたら、苗字変わんないって色々楽ね」
「け、結婚って」
「これはいいわよ。私は激推しだわ!」
そこまで考えていなかった莉子は顔が真っ赤になってしまう。
しかし、向こうも同じ苗字と言う事で莉子に運命じみたものを感じていたらしい。高校の卒業式の日、告白され付き合いはじめた。大学卒業と同時に結婚し、娘の理世もすぐに生まれた。
今振り返ると、石子のアドバイスに従ってやった事は、大きく失敗した事はない。この結婚も幸せで、特に不満もない。確かに苗字が変わらないのも、石子の言うとおり楽な面があった。
娘の理世が、学校で厄介なトラブルに巻き込まれて、心を病んだ。そんな時、石子のところに行きたいと言ったのは、全く悪い予感はなかった。むしろ、そうした方が良い気がしていた。
結果は、大正解だった。
確かに圧が強くて、色々と問題はある人だけど、勘だけは妙に良い。自慢の母とは言えない。ウマも全く合わないが、大切な母親である事は間違いないと莉子は思った。
タバコ臭いのは勘弁して欲しいけど。




