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おばあちゃんは名探偵!〜お隣さんは謎だらけ〜  作者: 地野千塩


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犯人逮捕大作戦編(6)

 理世が目覚めると、どこかの倉庫のような場所にいるのに気づいた。


 窓の外は日が暮れているようで、オレンジ色の光が差し込んでいた。窓の外をよくよく見てみるとと、銃価の会館が近くにあるようだった。どうやらこの場所は、銃価の施設の中の一部らしかった。


 倉庫のような場所といっても神棚があり、妙なお札が貼っているのも見え、不気味だった。倉庫というか備品置き場のような部屋だが、普通のそれとは全く違う雰囲気が漂っていた。


 理世は体は怠かったが、どうにか目を開けた。柱にロープで縛られているようで、全く身動きはできなかった。香村刑事に何か薬品のようなものを嗅がされたせいか、口の中がねばつき、喉も痛くて声が出なかった。


「目覚めたー? クソガキ」


 そこに坂下が入ってきた。マスコミで報道されているような、騒音被害者の悲劇のヒロインという雰囲気は全くない。全身黒づくめの服装で、どこからどう見ても怪しい中年女性だった。


 何か声を出すべきだったが、喉が痛くて全く出ない。身体の縛られて身動きができない。いわゆる絶対絶命の大ピンチという状態に、冷や汗も流れてきた。秀太を呼び出すという簡単なミッションのはずなのに、どうしてこうなってしまったんだろうか。


 坂下は、石子のあの花柄の鞄を持っていた。


「ッチ。こんなICレコードやオペラグラスまで持ち歩いて、何探ってんだ? 美素町でも聞き込んでいただろ?」


 心底忌々しそうに、石子の鞄を床に投げ捨てた。


「事件をあのババアと探ってたって事ね?」


 理世は頷く事しかできなかった。これはロープや薬の匂いは関係なく、緘黙症の症状が出ているのかもしれない。緘黙症は治ったような気がしていたが、それは気のせいだったのかもしれない。


「全く小賢しいやつらよ。邪魔くさいわ。あんたは、これから教祖様の性奴隷になって貰うわよ。教祖様は基本的に幼い男子が好きだけど、処女でもオッケーですって」


 恐怖なのか病気なのか全くわからないが、理世は全く身動きができなかった。頭だけは動き、これから自分の身に起ころうる事だけは、ありありと想像できてしまう。


「私はね、このマスコミ騒ぎで教祖様に会う機会ができたんだ。それで、子供か若い女を差し出せば、さらにお金や名誉をあげようって言われたのさ」


 ここで坂下は大声で笑い始めた。狂人としか思えない。改めてカルトの闇に恐怖しか感じないが、この場から逃げる方法は全く思いつかなかった。


「 同時に森口さんの事件の謎も解けたね。おそらく森口さんも子供を差し出そうとしてたんだ。あの香村刑事と華名の子供もね。それが動機でしょう」

「よ、よくわかったわね」


 理世はどうにか小声で言った。そんな事をいうべきでは無いのに、なぜか口が動いていた。


「わかるわよ。そんなの簡単よ。香村刑事もなかなか小賢しくてね、わざと騒音問題もマスコミにチクったみたいねぇ」

「鬼頭さんは全く悪くないよね……」


 それどころかカルトの被害者だった。今はそんな事を考えるべきではないのに、鬼頭の事が心配になってしまった。


「うるさい! 私はとにかく金が必要なんだ」


 坂下はカルトに金を貢ぎ、お金がなく万引きを繰り返していた事を愚痴っていた。だったらそんなカルト辞めたらいいとも思うが、地獄に行くのが怖くてやめられないという。すっかりマインドコントロールもされているようだった。そんな狂気に満ちた坂下を見ていると、理世はだんだんと冷静になってきた。石子から貰った鞄は、取られてしまったが、何か逃げられる手段があるかもしれない。防犯ブザーだけでも取り返せたら良いが。いや、まずはこのロープを解くのが先決だ。体を捩ったりすれば、ロープを解く事は可能だろうか。


 そんな事を考えていると、香村刑事と華名もこの部屋に入ってきた。


「教祖様を迎える準備ができました」


 華名は坂下に顎に使われているようで、ヘコヘコしながら報告していた。坂下と同様、華名も香村刑事も全身黒づくめで怪しさ満点だった。ただ、坂下よりはまだ狂気に侵されていないと感じ、助けを求めるような視線を華名や香村刑事に送ってしまった。


「お願い! あなたが生贄になって! 秀太を性奴隷にするのは、親としてできないの!」


 華名は理世の前で土下座しながら懇願していた。あの自己顕示欲の強そうな華名の姿はどこにも無かった。子供の為ならここまで出来るものかと感心するほどだったが、森口を襲った犯人でもある。とても受け入れられない。


「頼む! 俺らはもう森口を襲って罪を犯しているし、後がないんだ。お願いだから、俺らのいう事を聞いてくれ」


 香村刑事も土下座して懇願していた。坂下はそんな二人を見て嘲笑っていた。坂下には子供はいないが、もし居たら自分の子供も利用するだろうと思う。同じようにカルト信者の森口が、息子の圭吾を性奴隷として捧げていてもおかしくは無いように見えた。ある意味、子供を守る為に森口を襲った香村刑事と華名の方が、まともに見えてしまった。


 だんだんと理世の中でイライラが溜まってきた。結局は、鬼頭も何も悪くなかったのだ。子供である圭吾や秀太も全く悪くなく、大人の被害者だった。都会でのいじめも、銃価が原因だと思うと、さらに怒りが心に溜まっていく。


「ふ、ふざけんな!」


 気づくと、本音で叫んでいた。


「あんた達、大人のせいで悪くない鬼頭さんや圭吾くん、秀太くんが被害受けてるなんて! ふ、ふざけんな!」


 声は震えて、無力なリスが吠えているようにしか思えない。ただ、華名だけは、表情が変わりはじめた。


「あなた、やっぱり子供をこんな風に利用するなんて、やっぱり……」


 華名だけは人の心が残っているようだった。見た目は強そうだったが、母親である事は変わりないようだ。


「華名さん、お願い。このロープ解いてくれない?」

「う、うん」


 ロープを解こうとする華名に、坂下や香村刑事は、揉めはじめていた。いわゆる内輪揉めという状態だった。


「ちょっと、なんて事するんだ!」

「だってやっぱり子供を差し出すなんてできないわ!」

「華名、気持ちはわかるが」

「なんて事してくれたのよ!」


 ロープは華名が少し解いてくれた為、なんとか自力で解く事がで来た。一刻も早く逃げなければ。都会では病気にかかり死にかけていたが、今はこんな風に叫び、欺き、ロープを解く事にも成功してしまった。もしかしたら死ぬ気になれば、何でも出来るのかもしれない!


 そう思った瞬間だった。この倉庫の扉が開き、夕暮れのオレンジ色の光が眩しいぐらい差し込んできた。


「助けに来たわよ、理世!」


 石子だった。しかも片手にはボウルみたいなものを持ち、何かを坂下達に投げつけていた。どうやら糠のようだった。独特な匂いが広がり、坂下も華名も香村刑事も、糠まみれで死にかけていた。


「理世ちゃーん、一人で行かせてごめんね!」

「理世ちゃーん!」


 環奈や百合名も助けにきてくれて、どうにか理世は助かったようだ。他に秀太、礼央、牧師、立花、砂原の姿まであった。みんなで犯人達に糠を投げつけていた。


 遠くの方でサイレンの音も聞こえた。警察らしい。確かにこの現行犯だったら、犯人達も逮捕出来るかもしれない。


「もう、大丈夫?」


 理世は環奈や百合名に支えられていたが、気が抜けてその場で倒れた。


 糠の匂いと犯人達の叫び声、サイレンの音、石子達の騒ぎ声。


 現場はカオスだが、ようやく事件が解決したと実感していた。


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