表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おばあちゃんは名探偵!〜お隣さんは謎だらけ〜  作者: 地野千塩


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
38/42

犯人逮捕大作戦編(7)

 事件は解決したが、理世は美素町にある病院に数日入院していた。


 犯人に言い返すほどの気の強さを見せていたが、やはり身体は疲弊していた。過労と診断され、診療内科の医者の診断も受けた。いじめを受けて緘黙症だと診断された事もると話したが、驚かれた。なぜなら初対面の診療内科の医者とも普通に話していたからだった。医者によれば、命の危機がある状況にあい、病気も治ってしまったんじゃないか?という事だった。あと一回ほどは通院して欲しいとは言われたが、これで、精神の病気は完治したと診断書も出せるだろうという話だった。


 事件も綺麗に解決していた。確かに坂下や香村刑事は黙秘を貫いていたが、華名は全て自供し、森口への暴行を認めていた。


 さすがに銃価教祖も逮捕され、カルトは壊滅的だった。砂原や礼央がこの事件をネット記事で配信し、炎上もしていた。動画サイトなどで、教祖の被害者達が被害を訴えて、この炎上はネットニュースでも取り上げられ、止まる事は無い様子だった。


 礼央や砂原によると、警察も完全に銃価に染まっているわけでもなく、他の創一教会というキリスト教系カルトにも支配されていた。創一教会は、常々銃価とも対立し、今回の逮捕劇もそんな勢力のあと押しで揉み消されずにすんだらしい。


 証拠も奇跡的ににあったのが大きかった。あのICレコードがなぜかスイッチが入り、あの時に坂下や香村刑事や華名の声もバッチリ録音されていた。理世も入院中に担当刑事に事情を話したが、スイッチは一度も触っていないはずなのに、不思議な事があるものだと首を傾げていた。同席した石子は、「神様の奇跡!」と騒いでいたが、刑事の方は「おたくこそカルト教団っぽいねー」と呆れていたものだ。


 森口は、演技でお経を唱えているばかりだと思っていたが、気が狂っていたらしい。理世の担当の看護師から教えてもらった。看護師は、四十代ぐらいの女性だったが、「立花」という名字だった。顔は麹衣村に住む立花とは似ていなかったが、彼女の極秘情報のソースが何となく予想はついた。これを突っ込むと、秘守義務違反とか問題なりそうだったので、理世は深く追求するのは辞めた。ただ、看護師の方の立花は、カルト信者は気が狂いやすいのか、しょっちゅう病院に運ばれてくると教えてくれた。実際、狂気に満ちた坂下を見た理世は事実だろうと思った。


 森口の息子、圭吾もカウンセリングなどの治療を受けていると看護師の立花からこっそり教えてくれた。祖父母の家は幸いにもカルトとは無関係なので、しばらくそこで引きとられて生活するという。


 一方、秀太は、あのヨガスタジオの受付をやっていた伊織の家に引きとられる事になった。


 事件の幕はおり、理世は病院から石子の家に帰った。


 もう鬼頭や坂下の家の周りにはマスコミの姿はんく、静かなものだった。


「理世ちゃん、型に流すの上手よ。これをそのまま冷蔵庫に冷やしたらできあがり」


 今日、理世は鬼頭からレアチーズケーキの作り方を教わっていた。鬼頭と石子にあれこれ指示を受け、レアチーズケーキの生地を型に流し込んだ。


 いつの石子の家のキッチンに鬼頭がいるのは、ちょっと違和感があったが、エプロン姿の彼女は生き生きとしていた。独身時代は、料理研究家の元でアシスタントの仕事もしていたらしい。顔は怖いが、こんな美味しいお菓子を作れるのなら、才能豊な人だと理世は思う。そんな風に褒めたら、鬼頭からお菓子にレシピまとめたノートもいただいてしまった。これには石子も大興奮で、さっそく色々お菓子を作ってみたいと騒いでいた。


 レアチーズケーキを冷蔵庫で冷やしている間、理世達はリビングのちゃぶ台を囲んだ。ちゃぶ台の上は、温かい紅茶とナッツ類が置かれていた。窓からは春の日差しが差し込み、事件があった事などすっかり忘れてしまいそうな平和で呑気な雰囲気が満ちていた。実際、もう鬼頭も石子も事件の話題なんてしなかった。


 石子はテレビをつけ、ドラマ「おばさん探偵・ミスミャープル」を見て大笑いしていた。おばあちゃんがこんな大笑いしている姿に、理世はちょっと恥ずかしくなってきた。


「鬼頭さん、グランマが騒がしくてごめんね」

「いいのよ。うちの親なんか死ぬ間際はベットの上で寝たきりだったからね。日本は、寝たきり率もダントツみたい」

「へー」

「だから、少々うるさくても良いよ。老人には、元気でいて欲しいと私は思うわ」


 そう言った鬼頭は、紅茶を啜った。一時は顔も真っ暗で、頬もこけていたが、今は元気そうだった。


「それにしてもあの礼央さんと砂原さんて面白いわねー。すっかり陰謀論コンビとして、ネットで有名みたい」


 テレビを見終えた石子が、話題に入ってきた。


「でも、あの人達のおかげでネットで炎上したからね。これで銃価の人達が好き勝手できなきゃいいけど」

「全くその通りよ、鬼頭さん!」


 石子と鬼頭はしばらく礼央や砂原のことで盛り上がっていた。砂原は結局、教会に住み込み、環奈や牧師に家事や教会の仕事をやらされていた。容姿はすっかりイケメンになり、立花や石子など教会のおばあちゃん連中から可愛がられていた。理世も砂原に囮なんてアイディア出して悪かったと謝ってくれた。第一印象はクマな砂原だが、こうして普通に仲良くしていた。


 環奈と百合名とは相変わらず仲良しで、理世は彼女達と一緒の漫画を作っていた。理世は背景担当だったが、他にする事もない麹衣村での生活では良い息抜きになっていた。礼央からは、大量の宿題も出されていたが、元々成績の良い理世は特に苦にはなっていなかった。


 ちなみに牧師は華名や香村刑事に度々面会に向かっているらしい。坂下は相変わらずのようだったが、この二人に関しては改心の余地があると、説得を続けているらしかった。このおかげで香村刑事も、少しずつ事情を話し、事件の隠蔽に動いていた事なども告白していた。


「鬼頭さん! そろそろレアチーズケーキ、できたんじゃない?」


 理世は待ちきれないように冷蔵庫の方を見る。


「もう出来たわね。さっそく切って食べましょう」


 鬼頭のレアチーズケーキを切ってもらい、ちゃぶ台の上に並べた。なめらかな表面のレアチーズケーキは「早く食べてね!」と甘く誘惑していた。理世だけでなく、石子や鬼頭も唾を飲み込んだ時、チャイムが鳴った。


 客は、理世の母親である莉子だった。


「わ! チーズケーキ? めっちゃ美味しそう!」


 莉子は、図々しくちゃぶ台の席についた。鬼頭とも初対面だったが、レアチーズケーキを食べながらすっかり打ち解けていた。それぐらい、レアチーズケーキは、滑らかで美味しかった。舌の上でするっと甘みが溶けていく。


「ところで、莉子。あんた、何しにきたのよ」

「お母さん、グッドニュースを届けにきたわ」


 石子と母親である莉子との並びに、理世は何となく違和感を持ちつつ、レアチーズケーキを口に運んだ。莉子は石子と違って常識人なので、あまり親子に見えない。


「グッドニュースってなんですか?」


 鬼頭も身を乗り出して、莉子の話に耳を傾けていた。


「理世、よく頑張りました。この事件のおかげで、学校の銃価関係者は全員、引っ越していなくなったわ。あんたのクラス、ほとんど銃価信者の子供だったみたいね。隣のクラスに吸収合併されて、銃価信者の教師も全員いなくなったわよ!」


 莉子の話を聞きながら、理世の肩の荷も降りていくような感覚を覚えた。


「つまり、あなたは学校に戻れるわけ。もう、理世をいじめる子はいないわ。ごめんね、私もいじめの引き金を引いたようなものだった。未熟な大人でごめん」

「お母さん、謝らないで。でも、本当に学校に戻れるなんて」


 嬉しくて仕方がない。


「ありがとう、おばあちゃん! 鬼頭さんもレアチーズケーキ、ありがとう!」


 少し涙目になりながら話す理世に、莉子は驚いて目を丸くしていた。


「こら、理世! おばあちゃんじゃなくてグランマってお呼び!」


 鬼頭は石子の台詞に大笑いしていた。莉子もつられて大笑いし、この場所は優しい笑いに満ちていた。理世は、ここはムーミン村ではないが、この麹衣村も悪い場所では無いと実感していた。美しくなくても、泥臭くても、ここには一生懸命生きている人がいる。


 どうやら本当にハッピーエンドになったようだ。心を病み、リスのように震えている理世の姿は、どこにも居なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ