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ジェイド様は隣国の第五王子で、我が国に長期滞在中。燃えるような赤い髪にオレンジの瞳をお待ちで、我が国と隣国の仲は良好なのだけど、隣国の王家の内情はあまり明るくなく、ジェイド様は政治的思惑から避難されている状況ですの。幼い頃は療養と言う名目でしたわね。お元気ですけど。


お父様お兄様に話がある様子。最近のジェイド様は(わたくし)を疎ましく思っているようですし、お会いしてしまわないように部屋で大人しくしていましょう。はあ、面倒ね。


用件はすぐに済むと思っていたのに、しばらく滞在すると侍女から聞き、それならば、面倒でも挨拶をしなくてはいけないわね。


ジェイド様が滞在する部屋を訪ねる。先触れを出してはいるけど、どうにも不機嫌そうね。やはり、最近の態度は気のせいではないということね。


「しばらく当家に滞在するとお聞きしました。ご要望などございましたら、何なりと申してください」

「……あぁ」


何か嫌味の一つでも言われるかと思ったけど、そっけないこと。不機嫌さは丸出しですわね。


お父様お母様、お兄様はお忙しいでしょうし、きっとジェイド様のことは、昔馴染みの私に任せると指示があるでしょう。付き合いもある程度長いし、王子妃教育の一環で、ジェイド様の好き嫌いは把握しているから、執事を始め、使用人たちに情報を共有しなくてはね。


「エイダン様、ちょっといいかしら?」


ジェイド様の侍従兼護衛、エイダン様が一人の時に声をかける。エイダン様は隣国の伯爵家三男ですわ。付き人として、幼いジェイド様と共にやってきてからの付き合いなの。


「ロゼリア様。本日よりしばらく、主人であるジェイド様と共にお世話になります」

「えぇ、私にできることでしたら、何でも言ってくださいませ。ジェイド様の好みは、昔とお変わりないですか?」

「えぇ、左様でございます。あと、寝起きは非常に機嫌が悪いため、ロゼリア様ならびに他の者も、必要以上にお近づきにならないことをお勧めします」

「わかりました。基本はエイダン様にお任せして、サポートに回るよう当家の者には指示しておきます。苦手なものも、お出ししないよう料理長に言っておきますね」

「ロゼリア様…。最近のジェイド様は目に余ると言うのに、お心遣い痛み入ります。この間、頂いたお茶もとても美味しゅうございました!」

「エイダン様のお口にあったのでしたら、良かったですわ。いつでもご用意致しますわ」


エイダン様と細かい打ち合わせをし、使用人たちにも、しっかりと情報共有をする。当家の使用人は優秀なので、きっと不自由なく過ごせることでしょう。


私はというと、ジェイド様のために、極力顔を合わさぬよう、自分の家なのに、まぁー、気を遣ったわ! 当家は時間が合う限り、皆揃って食事をするため、その時ばかりは必然的に顔を合わせてしまうけど、朝はいつもより早く出たり、帰宅後は早々に部屋に籠ったりしたわ。だって、ジェイド様にとって、不愉快な女である私と関わりたくないでしょう?


ご結婚して家を出たはずのお兄様も、最近は毎日いらっしゃるし、ジェイド様と仲違いしているなんてバレたら大変だから、本当に気が抜けなかったわ。ちなみにお義姉様は妊娠中で、今は王都を離れ、出産準備に入っているみたい。お兄様ったら、お寂しいから、こちらにいらっしゃるのね。それにしても、リリー様が懐妊中にお義姉様も……やっぱり凄い奇跡ね。


ディナーで全員が集まると賑やかなものね。お父様お母様お兄様妹のエリナ、あと私とジェイド様ね。今日一日、何をしたか和気藹々と話すの。


一見和やかな団欒に見えるでしょうけど、私には些末なことでも、学園やお茶会で得た情報が、お父様たちに何らかのヒントをもたらすようで、いつも私が得た情報や感じたことを確認される。今はジェイド様がいるため、明け透けには話せないけど。そんな時は、全て執事経由で報告されるわ。


それと、翌日以降のスケジュールの確認。ジェイド様は滞在して数日すると、不思議そうな、戸惑っている表情をしていたのが、印象的だったわ。私のスケジュールを知って、気づいたかしら? 学園で噂されている内容との不一致に。


コンコンコン…


私の部屋の扉が鳴る。先触れがあったから、誰が来たかわかっている。中に入っていただき、自らお茶を準備する。うーん、良い匂いだわ。この間、ルドルフ様にも気に入っていただいたわね。ルドルフ様はお元気かしら? いやね、しんみりしちゃう。


「本日はいかがなさいました? ジェイド様」

「ロゼリアと久しぶりに話したくてな」

「おかしなことをおっしゃいますわね。この家でも、学園でも、お会いしているではないですか」

「本当におかしいな。同じクラスのはずなのに、君はほとんどいないことに今更ながら気づいた。私は何を見ていたのだろうな」

「おかしなことをおっしゃいますね。ようは、私は命拾いをしたと言うことでしょうか」

「命とは大層な。だが、私は紳士にあるまじき行動をしていたようだ。ロゼリアの心を砕いたこともあるだろう。すまない」

「いけませんわ! ジェイド様は頭を下げていいお立場ではありません。お心はいただきました、頭をお上げください」


すると、顔を上げたジェイド様の表情は、ここ最近厳しかったけど、優しい笑みを浮かべていた。ああ、彼はもう大丈夫でしょう。




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