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ロゼリア:私→わたし
ルドルフ:私→俺
素になると一人称が変わります。
「ルドルフ様……」
「ロゼリア……。どうしてここに?」
「今日は王子妃教育がありましたので…。ルドルフ様がいるとは存じ上げず、お邪魔してしまい申し訳ございません」
「いや……」
「ご一緒しても、よろしいですか?」
「ん? …ああ」
ルドルフ様に拒否されなかったため、私は昔の指定席に座る。私の指定席は、ルドルフ様の左隣。侍女にお茶を用意してもらい、下がらせる。
「こちらにいらっしゃるとは、驚きました」
「いや、少し思うところがあってな。学園が始まってからは初めて来た。ロゼリアはいつも来ていたのか?」
「ええ、王子妃教育の後は今でもこちらに来ておりました。ここは私にとっては、特別なところですの」
学園で同じクラスで婚約者であるにも関わらず、ルドルフ様とお話しするのは久しぶりだわ。少し緊張しているのか、乾いてる喉をお茶で潤す。美味しいわ。ルドルフ様も私が用意したお茶を飲み、
「うん、美味いな。すっきりとしていて飲みやすいが、後味はピリッとしていて癖になりそうだ。このお茶は新作か?」
「ええ、そうです。茶葉を何種類かブレンドして隠し味を少々。お身体にもよろしいですし、お気に召したのでしたら、贈らせていただきますわ」
「うん、それは楽しみだ。……ロゼリアがここに来てるとはな。今日はどうした? 何か辛いことがあったか?」
「うふふ。昔が懐かしいですわね。……ルドルフ様は変わらずお優しいですね。昔もルドルフ様とこうして並んでお話しして、本当に救われていました」
「今だから言えるが、当時は俺も辛かったからな」
一人称が俺になった。王子と婚約者ではなく、古い友人として話すと言う合図だ。そんなことまでわかるほど、私たちは長く過ごしているのよね。
「ルド、何かあったの?」
久しぶりに、二人だけの愛称で呼んでみる。最近、二人きりになることもなかったから、本当に久しぶりだ。
「……ルド」
「あ、ごめんなさい。もう子どもではないから嫌よね」
「いや、いい。リアにはずっとそう呼んでほしい」
ルドとリア。幼い頃に二人で決めた愛称だ。絆がまだ残っているようで、心が温まる。
「なんだか久しぶりね」
「本当にそうだな」
「ルドもわたしも、お互い忙しくて、なかなか昔のようにいかないわね。寂しいわ」
「俺もだ。学園では…、何か、違う」
「そうね。何か、違うわね」
「おかしいな。いや、おかしかったのか? 頭の中がはっきりしてきた」
アンナの言う強制力ってやつなのか、確かに学園でのルドは、わたしの知っているルドらしくなかった。そのことを言っているのかしら?
「俺は……。リアは、俺を避けていた?」
「そんなことは…。お互い忙しかっただけよ」
沈黙が訪れる。
昔、アンナに言われたことをルドにも話したことがあった。当たり前だけど、ルドはありえないと言って、笑い飛ばしたのよね。わたしだって半信半疑だけど、もし本当に婚約破棄を申し渡されるなら、卒業パーティーなんて衆人環視の元ではなく、きちんとした場で、きちんと順序を踏んでほしいわ。お互いのためにね。
ルドを見やると、わたしを見ていた。どちらからともなく、顔を近づけ、軽くキスをする。
・・・
あら、皆様驚いたかしら? 大きな声では言えないけれど、わたしたちキスは経験済みなの。いつからかしらね? 幼い頃から婚約者同士ですし、わたしは慕っておりますし、思春期ですから……。でも、その、キス以上はないのよ! キスだって、噂に聞く、その、ね、軽くよ? でも内緒よ?
ふと、バルトさんにもしているのかと、黒い考えが頭をよぎる。嫌ね、嫉妬なんて良くないわ。勝手に想像して落ち込むなんてね。
「リア? 何を考えている?」
「……あなたのことよ」
嘘は言っていない。
「悲しい顔してる」
わたしの頬に手を添え、顔を上げさせる。
「そうかしら」
「何を考えているか、教えて」
「……わたしはあなたの心に従うわ。ルドにとって最善を選んで欲しい」
好きだから、わたしを選んで! そう言えればいいのかしら。でも、好きや嫌いで一緒にいる関係ではないし、政略結婚なのに、わたしの本当の気持ちなんて知ったら、ルドには迷惑でしょう。
「わかった。俺は、いや、私は自分の心に従おう」
一人称が私になった。プライベートの時間は終わりだ。寂しさが胸を掠める。ルド、ルドルフ様が一気にお茶を飲み干し、立ち去る背中を、わたしはただ見つめることしかできなかった。
翌日も、その翌日も学園での私の立場に大きな変化はない。学園でルドルフ様をお見かけしても、大体隣にはバルトさんがいる。臆病者の私は話しかけることもできず、せめて、ガゼボでのひと時を忘れないでほしいと、一緒に飲んだ茶葉が途切れないようにプレゼントしたわ。
そんなとき、久しぶりにルドルフ様の取り巻きの一人である、ジェイド様が我が家にやってきたの。




