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アンナの話を全面的に信じているわけじゃないけど、ルドルフ様が心変わりすることはあり得るでしょう。私はお慕いしていますけど、政略結婚であることに間違いないですしね。でも国外追放やら処刑やらのきな臭い話はどうかしらね。
バルト子爵家は特に目立つお家ではないけど、ハインツ侯爵家と仲がよろしいみたい。そういえば、侯爵家ご令嬢のスカーレット・ハインツ様はお元気かしら?
ハインツ侯爵家は、医療に特化したお家で、薬草を取り扱う当家とは交流があるの。スカーレット様は、幼い頃お茶会等で、よくご一緒したわ。絶対に水面下で婚約者選定をしていたわよね。
私がルドルフ様の婚約者に決定してから、家の派閥も違うし、あまりお会いすることがなくなってしまったわ。確か、お隣のBクラスにいるはずよ。
あ、お話が逸れたわね。そもそも、ルドルフ様の一存で何一つ決められないわ。もちろん王族の方がお立場は上ですけど、当家は腐っても公爵家。腐ってませんが。それに私、お父様お兄様はじめ、家族に愛されている自覚もありますし、どうしたって一筋縄ではいかないはずよ。
第一王子であるレオンハルト殿下は既に立太子しているし、内外共に評判が良く、実績も十分だわ。王太子妃のリリー様は軍事に強い侯爵家の出で、家の力もお強い。しかも現在妊娠中。
お子様がお生まれになれば、性別は関係なく、ルドルフ様は王位継承権を返還し、臣下に降ることが内定しているわ。実際は色々な事情があるから、彼が完全に継承権を失くすわけではないけれど、口にするのは不敬なので、ここは察してちょうだい。
もし、ルドルフ様が当家に反旗を翻したとしても、レオンハルト王太子殿下のお側にはお兄様が付いているし、本当に婚約破棄になったとしても、私の評判が下がるだけで、公爵家の立場は揺るがないわね。
つまり、アンナが言うような婚約破棄は難しいのよ。万が一、アンナが言うように婚約破棄に至ったとして、王族が絡むとは言え、婚約のもつれで命の危機って、ゲームの世界の私は一体何をやらかしたのかしら?
でも、心が曇ったのは間違いないわね。ルドルフ様はいつか違う女性に懸想するって聞かされていて、本当に悩んだわ。
さらに、王子妃教育が辛くて辛くて……ね。地獄とも呼べる辛さよ? 来る日も来る日も、マナーダンス勉強社交マナーダンス勉強……。それを何年も。学園に行くのもままならないのに、学園での成績も保てですって! 鬼よね?
学園に行けば行ったで、私は特に何もしていないというのに、周りはヒソヒソとうるさいこと。以前より、仲良くさせていただいている方達は、馬鹿げたことは言わないけれど、その他大勢に耳を欹ててみると、ルドルフ様の婚約者に相応しいのはバルトさんですって。
王家が決めた婚約なのに不敬だわ。試しに反論してみようかと思わないこともないんだけど、なんとなく皆さんの表情に寒気がするのよね。瞳に光が宿っていないというか、ぼんやりしているといいますか。
結局、私は見て見ぬふりをして日々を過ごしたわ。一年が経つ頃、今度はロゼリア・フリューゲルは悪役令嬢だと聞こえ始めたわ。バルトさんを虐めているそうよ。
嘘よね? 挨拶程度で会話らしい会話も、何もしていないというのに? 逆に何もしていないからなの? え? 目つきが悪いって? ごめんなさいね、生まれつきよ。
時々、蔑んだように見る人もいたわ。視線を集めるのは慣れているけど、蔑まれる覚えはないわ。そのくせ、私が視線を配ると、皆怯えた表情をするのよね。少し目を細めると効果は抜群なの。
悪役令嬢と言われないためには、えーと、謙虚、親切、気高く、可愛く、素直……。アンナったら、けっこう難しいことを言っていたのね。
謙虚はね、公爵家の娘だもの、謙虚が相応しくない場合もあるわ。気高くは、今のままでいいわよね? 素直、淑女たるもの思っていることを口に出しては、トラブルの元よ。それに、私、可愛いと思うわよ? 可愛いわよね? どちらかと言えば美しい? そういうところが謙虚ではないですって? でもねぇ、美しいことは事実ですもの。クレームは私を生んだ両親に言って頂戴。
本当に困ったもので、婚約者に相応しくない、悪役だと陰でで囁かれていても、王子妃教育は続くわけで、今日も王宮で教育される日々……。確か、卒業パーティーで婚約破棄されると言っていたわね。いっそのこと卒業など待たずに、今婚約破棄していただければ、王子妃教育はやらなくていいのに。あと一年以上、地獄が続く私の身になってほしいわ。
昔は中庭のガゼボで、あれが辛い、これが厳しいって、ルドルフ様や取り巻き集団と話し合ったわね。当時はどれだけ救われたことか。入学後、王宮での教育は私だけになってしまったので、皆が集まることなどないのに、いつも足が向いてしまう。
王宮の中庭は手入れが完璧で、綺麗な花々に心が癒されるわ。ガゼボは奥の方にあって、周囲から遮断されるような構造になっているから、静かで落ち着いていられるから、お気に入りの場所よ。
……あら? 思わぬ先客がいたわ。




