54-強くなれるのだろうか
「私と勇者様で聖女様へ報告してくる。皆は戻って片付けをしておけ。では勇者様行きましょう」
宮の門が閉まると馬車を降り騎士団長について行こうとするとアナベルももちろんついてくる。しかし、そうなると馬車の中にいるアビゲイルが一人になってしまう。
「アナベル、アビゲイルを私の部屋に案内をお願いします」
騎士たちもいるとはいえ彼らには彼らの仕事がある。もちろん、アナベルもアナベルの仕事があるのだが今回は報告するだけアナベルの仕事はほぼないだろう。それに私はアビゲイルと話してみたかった。
「わかりました」
アナベルはすぐにうなづいてくれた。
「エリザベス様。エリオットです。報告に参りました」
騎士団長が扉をノックすると中から扉が開いた。侍女に部屋に通されエリザベスの執務机の前に2人で立つ。
「お疲れ様です。報告をお願いします」
「はい」
騎士団長が森に入ってからの状況を報告していく。報告がアビゲイルのことになってもエリザベスは眉一つ動かさない。
「その少女は今どこに?」
「私の部屋に案内しました」
「そう。マティルダ客室の用意を」
私が返答するとすぐに侍女に命令を出した。その侍女も命令を受けるとすぐに部屋を出て行く。
「アルカイドの使者の目的は予想がつきますから彼女は問題ないです。この件であなたが心配することはないので不安に思わないで」
「わかりました」
「報告ありがとうございました。退出して構いません。あぁ、アイラは残ってちょうだい」
「失礼します」
騎士団長が部屋を出ていくと執務机の前に椅子が用意された。
「凱旋してきたときはアーマークロウが晒されていたからてっきりアイラが倒したと思って舞い上がってしまったわ」
「ごめんなさい。私は今回ただのお飾りでした。」
「それが今回の目的だったのだからいいじゃない。あなたも頑張っているのだからいずれちゃんと結果は出るわ」
「ありがとうございます」
エリザベスに励まされたけどそれでも自分の実力に不安しか思えない。騎士たちの戦闘は凄かったし、それでも苦戦する敵だっていた。それに、今日の私は逃げることもできなかった。
……私は強くなれるのだろうか。
「それでその少女のことなのだけど何かあったの?」
「?」
何を言っているのかわからず首をかしげてしまう。
「だって、あなた今まで誰も部屋に入れようとしないじゃない。掃除の手伝いも断っているみたいだし。お客さんなんて初めてよ」
言われて初めて気づいた。確かに私の部屋にはアナベル以外入ったことがあるのは2日目に採寸に来た彼女たちだけだ。それ以降は部屋に入らずいつの間にか衣装が届いていた。
「そ、それは私の交友が狭いだけであって、別に誰も入れないようにしているわけじゃないですよ」
「そうなの? わたくしはアイラの部屋を訪ねていいか打診したのだけど断られたわよ。あ~うらやましいな。いったい数時間でどんな関係なんだろう」
「え? どうゆうことですか? 私はそんなこと聞いたことないですが」
今までそんなこと聞いたことないの。
「あら? いつも私がアイラの部屋に行こうとするとアナベルに連れてくると言われて返されるのだけど」
今までエリザベスと会うときはエリザベスの部屋か執務室だ。それはエリザベスが呼んでいるからだと聞かされていたのだがエリザベスが部屋に来るとは一回も聞いていない。
「宮ではあなたの部屋は誰も入れない不思議な場所って有名よ。いったい何を隠しているのかってね」
「別に隠していることなんてないですけど。帰ったらアナベルに聞いてみますね」
「そう。その少女はどんな子なの?」
「なんでもアルカイドという国に監禁されていたみたいで、それで使者も怖がっている可哀そうな子でした」
「そう。変な疑いをして悪かったわね。……アルカイドねぇ~」
「そういえば、アルカイドってどういう国なのですか?」
「魔族と国境を接しているせいで軍事力に特化した小国ね。最近戦争があってそこで魔王の一人を倒したのよ」
「小国だからさっき問題ないと言ったのですか」
「えぇ。そうね。スピカほど大国だと大抵の国には強く出れるの。もちろん国だから一方的てわけじゃないけど」
「ちなみにアルカイドの言語はこの国と一緒ですよね」
「? えぇ。どうしたの急に」
「私には使者の言葉がわからなかったので気になりまして」
「それはおかしいわね。パワ様の伝言ではアイラにはこの世界の言葉を理解する加護を与えたと言っていたのだけれど。元々それでわたくしと話せてますし」
……あ、そうだったんだ。てっきり同じ英語を使っているとばかり。
「私もその使者が来た時出席してもいいでしょうか」
「どうして? 言葉がわからなかったのでしょ」
「もう一回確かめてみたいんです」
「そう。後ろに控えるくらいならいいわよ」
エリザベスの執務室を出て自分の部屋に向かう。扉を開けて中に入るとリビングでカチカチに固まってソファに座っているアビゲイルがいた。
「どうしましたか?」
「いえ、まさか宮に入るとは思わなくて。てっきり客室だと」
「今客室の準備中だそうです。今はそれまでの時間待たないといけないのでそれまでお話しようと思いまして」
「そうですか。はぁ」
アビゲイルは安心したのか深呼吸をする。
「そんな緊張するものなんですか?」
自分の言葉をすぐ反省する。今まで彼女は監禁されていたのだ。それは牢屋とかひどい環境でこんな豪華な部屋初めてだったかもしれない。自分の環境より豪華な環境に来たら、それもここは国の中枢緊張するのは当然だ。
「ごめんなさい。私の配慮が足りませんでした。誰だって豪華な部屋に来たら緊張しますよね」
「はい。だって宮ですよ。スピカの貴族だろうと偉い方しか入れないところなのですよ」
「そう、なんですか? でも侍女とかいっぱいいますけど」
「それは聖女の親族やいままで聖女に仕えてきた高位の家の方たちであって侍女になろうと思ってもそう簡単に入れませんよ」
アビゲイルの興奮様に引いてしまう。さっきまで緊張していたのに急に快活に喋り始めた。
「アナベルもそうなの?」
「はい。私の一族はだいだい侍女として聖女に仕えている一族です。宮は神聖なところで聖女の許可したものしか入れません」
……今まで住んでたのに全然知らなかった。
「え? じゃあ、どうしてアビゲイルは入れたの?」
「お客を自分の部屋に通すのは構わないのです。今回は宮の目の前でそう言いましたので入り口の騎士に紹介状を出す必要もなく通れました。ただ、宿泊は別で泊まることは許可されません」
席に着き、アナベルにお茶を準備してもらいアビゲイルと話をする。
「私はここに1か月も住んでいるのですが全然知りませんでした。アビゲイルは物知りですね」
「私は読書が好きで宮のことも本で知りました。たとえ他国の君主でも入った者はいないと言われているところに入れるなんて感激です」
言葉通りここに来れて本当に感動している感じだ。頭を動かして私の部屋のあちこちを見ている。
「今まで読んだ本で一番好きな本はなんですか?」
「子供のころは母や侍女が読んでくれる英雄譚が好きだったのですが、今は……何が好きなんでしょう?」
「もう読まないのですか?」
「城にあったのは兵法書とか魔物の生態とかばっかでしたので。読書をして敵を倒す知識を身につけ、実際にそれをしようと訓練ばかりしてましたから。スピカの宮のことも歴史の本に書いてあっただけですし」
……あれ? 監禁されてたんじゃ。
私はてっきり誘拐とかされてひどい部屋で過ごしていたのかと思ったのだが言動からとてもそうは思えない。監禁というより徴兵に聞こえてくる。でもこれは聞いてはダメなことだ。彼女にとって言いたくないことのはず。
話題を変えようとしたらドアからノック音がした。外から先ほどエリザベスに準備するよう言われた侍女だろうか、声が聞こえた。
「客室の準備ができました」
「お開きの時間ですね。お茶おいしかったです。楽しい時間をありがとうございました」
「えぇ、私も短かったですが楽しかったです」
アビゲイルはお辞儀をして部屋から出て行った。
「アナベル、私の部屋って誰も入れない不思議な場所になってるの?」
「ええ。アイラが入れたいと思わないかぎり誰も入れないわ」
私とアナベル、2人だけになった部屋。そこではアナベルも私に対して主としてではなく友人としての言葉遣いになってくれる。
「どうして? 別に入られて困るようなことないですよね。それに掃除一人じゃ大変なんじゃ」
「アイラは部屋を汚さず自分でも片づけるから掃除は全然大変じゃないの。ただ、リビングまでなら大丈夫だけど、秘密にしたいものはあるでしょ? 掃除とかで入らせたら見られるかもよ」
「あっ」
「聖女様が部屋に入るときはリビングまでならいいけど、あの方は盛り上がると体が動く方だから他の部屋にも勝手に行くと思うわ」
「そう。なら今まで通りの方がいいわね。ありがとう」
……まさかエリザベスがそんな行動的だったとは意外だ。




