6話 仮面の戦士
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夜空を見上げる。
ファンタジー世界なんだから箒にまたがった魔女ぐらい期待していたんだが、残念なことに飛んではいない。
せめてあそこを飛んでいるコウモリは吸血鬼だったり……したら面倒か。
あ、でもコウモリなら眷属にすれば夜間の偵察に便利かも。ダンジョンにいても違和感ないし!
どうにかして捕まえる方法を考えよう。
あとはやっぱり猫だな。俺の足としても活躍してくれそうだ。犬がいればそっちでもいいけど野良犬は見かけないし。
強そうなのいないかな。もしくは額に三日月傷のある猫。
むう、遠目だと〈鑑定〉があまり使えないみたいだな。スキルレベルを上げなければ。
とりあえずはこんなとこか。
ダンジョンも気になってきたし、そろそろ帰ろう。
ウィンドウでマップを確認しながら〈転移〉でダンジョンに瞬間移動。あっという間に景色が変わった。
「便利だよな、やっぱり。取っておいて正解!」
思わず口に出すほど感動してしまう。だって瞬間移動だよ、瞬間移動! 緊急脱出にも使える超便利スキル。
これがなかったら詰んでたと思う。ファントムにコアルームに侵入されてさ。
欠点としては行った場所にしか転移できないということ。たいした弱点じゃないでしょ。
必要DPがスターターで貰えるポイントの半分というお高いスキルではあるけど、持っているダンマスも多いんじゃないだろうか。もちろん種族特性のDP100分の1でお安く入手したけどね。
真っ暗なコアルームに魔法で明かりをつけて状況確認。ダンジョン機能で侵入者をチェック、侵入者は無しだな。〈感知〉スキルでも確認して一安心。
外出中に吸収したポイントも見てみる。
ふむ。こんなものか。ファントムと接触した時に比べると少なすぎる。生物が持っている瘴気を吸収できなかったからだろう。さっきは猫から逃げたけどDPを稼ぐにはもっと近づかなければならないようだな。
ダンジョンにお客さん呼べるのはいつになるんだか。
「換気扇も買っといてよかったな」
今このコアルームは密閉されているので換気扇がないとヘタしたら窒息する可能性もある。
DPの入手が少ないので先に買っておいて正解だった。
ダンジョン用の換気扇は外と繋がっている必要はない。排気ダクトもいらない謎換気なのである。
実際、設置して稼働しているファンの向こう側は〈暗視〉も通用しないほどに真っ暗でなにも見えない。どこと繋がっているんだろうね、まったく。
換気扇のおかげでコアルームを固いダンジョン壁で覆っていられる。侵入するには地面を掘りぬき固いダンジョン壁を破壊するか、〈転移〉するしかない。
だが〈転移〉スキルは行った場所にしか使えないのだ。しばらくは安心。それまでは鉄壁の防御なのである。
いずれダンジョンレベルが上がるか、キャンペーンが終了してしまい無料復活がなくなる可能性もある。
その時に備えてコアルーム以外のダンジョンも拡張しておくつもりだ。まずは俺自身にもさらにDPつっこんで強化するけどね。
だってこのダンジョンは今のところはぼっち仕様。DPを稼ぐ手段も俺の外回りのみなのだから。
ダンジョン拡張前に無料復活なくなったら眷属に外回りしてもらえばいいのかな?
外出時に恥ずかしくないようにまた服や靴を買って……その前に遅すぎて断念したパソコンを高性能な品に交換しておこう。
コアルームのパソコンはダンジョンマスターの孤独を癒やすツール。前世のインターネット同様に多くのダンジョンマスターが掲示板や動画サイト、そして通販サイト等を楽しんでいる。
もちろんダンジョンマスターとして活動するための知恵も入手可能だろう。その重要なアイテムがあのポンコツではいけない。せめてストレスなく動作する物でなくては。
オークションサイトでも見れれば中古でも今のより性能がいいパソコンが見つかりそうだが、あの重さでのサイト閲覧にはシティボーイは耐えられん。
DPでの購入用のウィンドウを呼び出す。ダンジョンレベルが上がればこれのようにパソコンの機能も全てウィンドウでできるようになるとのことだが、最初からできればいいのに。
ダンジョンレベルはDPの貯蓄量で上がるので瘴気を集めさせるための目標の一つなんだろうけどさ。
「小人用の最新パソコンがないとか」
やはりクチコミで地雷種族扱いされたのは間違いではないのかもしれない。小人サイズの取扱品が少なすぎる。小人専用の品がないどころか、基本装備以外が全くないのだ。
だが俺には問題がない。サイズ変更の処理には手数料がかかるけどどちらにせよ100分の1価格なのだから。
◇ ◇ ◇
地上に出て数日。
この小さい身体にはもう慣れた。スキルレベルも上がっているので街歩きにも不便はない。
服も靴もお洒落だしこれでもう立派なシティボーイといって間違いあるまい。
イケメンを隠すためにぐるぐる眼鏡も入手して愛用している。世界的な損失としてきっといつかもったいないモンスターがダンジョンに侵入してくることだろう。
そうそう、街の住人の顔を確認したけど、やっぱり俺が一番のイケメンだったよ!
住人には【エルフ】なんてのもいたけど俺の方が美形だったね。
あと女性の下着はなんか残念だった。ドロワーズっての? あんな感じで色気がない。
いや、別に覗こうとしたワケじゃなくてこの身長だとたまたま見えてしまうっていうか。
で、だ。街中をちょろちょろしているせいか、街人に見つかってしまった。〈隠形〉スキルもレベルアップしているけどそれでも溢れるイケメンオーラは隠しきれないというのだろうか。
勘がいいやつっていうか、〈感知〉スキル持ちだったんだろうけどさ。だっていかにもすぎる冒険者だったからねえ。
なので入手したDPは〈隠形〉と〈鑑定妨害〉のスキルレベルアップにも使っている。ダンジョンの強化は後回しになっているけど仕方がない。
レベルアップした〈隠形〉のおかげで〈感知〉を自分に使用すると〈感知〉スキルのレベルも上がりやすいようだ。見つけにくいものを感じることで熟練度かなにかの貯まりがいいんじゃないかと思う。
同様に〈鑑定妨害〉して〈鑑定〉するとレベルが上がる。
そして〈鑑定〉レベルが高くなったことでわからなかった俺の種族ランクが判明した。
なんとGR!
ネットで調べた結果、ダンジョンマスターにもほとんどいない超上級レアリティのようだ。
うむ。俺が超絶美形なのも肯けるというもの。
見せびらかして自慢したいが、安全のために自重せねば。他のダンマスに嫉妬されても困る。
ああ、前世ではついに訪れなかったモテ期到来のチャンスだというのに!
……今の俺と釣り合うサイズの女性が見当たらないからいいか。人間サイズの女性に惚れられてもね。
この街には可愛い子もいる。生エルフ女子とかけっこー綺麗なんだけどさ、俺から見ればみんな巨大でそういう対象にはならんのよ。
スカートの中だって見えることもあるけど興奮するかというとちょっと、ねえ。
ああでも、冒険者だろうけどスゴイのもいるよ。俺を見つけた冒険者なんだけどね。
一言で言えばビキニアーマー女戦士!
もうほとんど水着か下着みたいな鎧にブーツとマントの女性戦士でさ、プロポーションも抜群だった。ただ、仮面で顔を隠してるんだよねえ。
なんでかと思って〈鑑定〉したら、そのビキニアーマーがマジックアイテムでかなり強力な装備なんだけど他の装備をしてはいけないって条件がついててさ、干渉しないのがブーツ、マント、仮面だけだったみたい。
いくらプロポーションが綺麗でもやっぱり恥ずかしくて顔を隠しているんだろうね。
逆にそっちの方が恥ずかしいとか思っても言わないでね。水着マントなんて痴女っぽいなんて!
ビキニアーマーのアイテムランクはLRだったんでそんな調教力……超強力アイテムを持っている冒険者にはいくら面白そうでも近づかないよ、俺は。
いやまあ、熱心に〈鑑定〉してたら逆にこっちも見つけられちゃったんだけどさ。
仮面の女戦士、できる!
と、いろんな意味で危険な女戦士なんだけど俺が発見された時以来、遭遇していない。
もうこの街にはいないのかな。
もしかしたら同業者だったりしてね。
見つかっちゃったんで開き直って時々〈隠形〉使わないで街歩きするんだけど、その度に俺を見つけたやつが大騒ぎするんだ。
そんなに小人が珍しいのかね?
いやまあ、この街で俺と同じサイズの人型生命体にはまだ会ってないんだけどさ。
そこら辺を聞いてみようとやっとこの街で使われている〈右足大陸語〉をマスターしたんだけどね、困ったことにあいつら俺を捕まえようとすんだよ。
大きな網持ってさ、俺はカブトムシやセミじゃないっつの。
で、逃げたフリして〈隠形〉でこっそり近づいて話を聞いたら、この大陸では小型妖精は絶滅しちゃったらしい。
俺を捕まえて高値で売りさばく予定だとか。
うわ、イケメンだとか関係ねえじゃん!
せっかくシティボーイになろうとしたのに捕獲対象とかあんまりですよ。もう、ダンジョンに引きこもるのもやむなしかな……。
でもなあ、せっかく言葉も覚えたんだし、もうちょっとだけがんばってみるのもありかな。
相手を前世と同じ感覚で見るから落ち込むんであって、そういう生物だと思えばなんとかなるかも。
俺のことを金づるとしか見ないか、それとも会話が通じる相手として認めてくれるか、それを試してからにしよう。
まずは会話の練習だな。
転生してから独り言以外で喋ってない。前世以上に人と上手く話せない自信がある!
いきなり他人と話すのはハードルが高すぎるぜ。
「お、俺フーマ、悪いモンスターじゃないよ」
……うん。試してよかった。焦ると思わずネタに走るのがわかったよ。
だいたい、俺はモンスターじゃない。妖精ってことにしてるんだった。
けど練習でこの緊張感とは本番が遠そうだ。
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