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5話 地上

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 ダンジョンの通路をDPを使って拡張していく。延ばす先はさっきの厳重に閉ざされた扉の先だ。

 一度その先に行けたら〈転移〉で移動すればいいのですぐに埋めることもできる。


 DPは十分にあるから余裕で開通する。

 あれ、なんでこんなにDPがあるんだろう。記憶にないなぁ。

 そうだ。俺が転生して初めて会った女性があんなのだったなんてことはあの空間と一緒に封印したままにしておこう……。


 口直しに綺麗なものを見よう。

 もちろん俺の顔だ。

 ああ、なんて美しいんだ!



 ◇



 通路は無事に開通できた。やはりあの空間以外はダンジョンの通路を通すことができるようだ。

 ダンジョンの出口付近まで〈転移〉してダンジョンから出る。

 うん。今度は普通の通路だ。タイルは貼られていない。少し離れた場所にあの扉があるが、こちらから見ても大きく重そう。

 周囲を軽く見回したら、再び〈転移〉でコアルームに戻り、侵入者がいないのを確認して今開けたばかりの出口を塞いでおく。ダンジョン拡張のために一時的に開けていたコアルーム付近の通路もだ。

 もうマッピングされているから〈転移〉で移動できるので開けている必要はない。復活できるとはいってもそれはこの身体だけで、本体であるダンジョンコアが破壊されたらそれで終わりなのである。

 安全第一。どんなやつがいるかわからないから油断はすまい。


 幽霊はやはりあの空間から出られないようだ。大きな脅威がなくなった。

 これぞ秘密の抜け道といった趣のある通路を抜けて先に進んでいく。ここも迷路じみているが罠はないようだ。

 罠はないが隠し通路じみた仕掛けに迷いつつもマッピングしながらどうにか進んでいくと、やっと地上へと続くだろう縦穴に到着した。


「定番の涸れ井戸ね」


 円形の穴の底。けっこう深いのに上まではロープもなにもないところを見ると、ここは通路への入り口専門なのだろうか。それとも飛行能力のあるやつしか使うことを考えていない?


 そんなことを考えながら〈壁歩〉で上へ上へと歩いて行く。

 いよいよ外か。ああ、緊張する。〈感知〉に意識を集中して誰もいないはずなのはわかっているのに。

 深呼吸深呼吸、ってダメだ、歩みを止めたら〈壁歩〉の効果がなくなって井戸の底へと落ちてしまう。


 ドキドキしながら井戸を歩き続けると行き止まりになっていた。まさか道を間違った?


「いや、これは」


 落ちないように歩きながら壁を押す。うん、動くな。

 どうやらこれは井戸に見せかけた隠し通路に雨水が入って溜まることを防ぐ物だろう。対外的には子供が落ちないように、とかしてるんじゃないだろうか。


 俺は小人ながらSTR、つまり力は一般人以上にあるので軽く力を込めただけで自分の体よりも何倍も大きな蓋は簡単に動いていく。


「軽い軽い、っと外か」


 蓋を動かしていても光が入ってこなかったからまだだと思っていたがそこはもう地上だった。出てしまった。

 外は真っ暗。あれ、もしかして夜?


 さっきの気分転換で鏡に映るイケメンに夢中になりすぎちゃったかとため息。だがよく考えれば夜でも全く問題は無い。人間に見つかる可能性も減っていいぐらいだ。


 慎重に井戸の縁に乗って周囲の様子を(うかが)うが人気(ひとけ)は無く物音すらしない。〈感知〉スキルにも付近に生き物の反応は無し。


 こうなったらいくしかないか……。

 ふうぅぅぅ。

 大きくため息。

 シティボーイだイケメンだなどと無理矢理自分を鼓舞してきたけど、やっぱ怖い。

 危険もそうだけど、自分よりも巨大な人間とコミュニケーションなんて取れる自信が無い。しかもダンジョンマスターという正体を隠してなんて難易度が高すぎるよなぁ。


 外の空気を吸ってダンジョンマスターの精神操作が弱くなってるのかしらん?

 あ、ダンジョンコアから遮断されていたんだっけ。それはないのか。


 深呼吸を繰り返してから、ようやく覚悟を決めて最後の一歩を踏み出した。

 外で大恥かいてもすぐにダンジョンを引っ越せばいいやと、ある意味開き直って。

 そしてこれが最初の一歩。小さい身体の大きな一歩前進。


「さあ、シティ小人(ボーイ)のデビュー開始だ!」


 声を出してしまったが、聞いた者はいないだろう。それに小人の声だ、そんなに大きな声ではないのかもしれない。

 わかっていたのだが全くの無反応に肩の力が抜ける。ほら、簡単なことだったじゃないか。


 井戸の上の蓋を元の位置に戻して夜空を眺める。

 星がよく見える。空気が綺麗なのと周囲に明かりが少ないからだろう。

 星座にはあまり詳しくはないが、やはり地球で見る夜空とは違うっぽい。

 月は今のところ一つしか見えてないが他にあるのだろうか。模様(クレーター)も形が違う。こっちでは何に喩えるんだろう。


 それなのに1日が24時間だったり、1年の日数がほぼ同じだったりするのだから、自転と公転周期が偶々同じだけなんて考えるのはあまりにも都合よすぎるだろう。


「ま、今はそんなことを考えてもしょうがない、か」


 理由がわかったところで俺になにかあるわけもなし。それよりもこの街のことを知る方が先だ。

 マップで位置関係を確認すると現在位置はダンジョンの真上の地下空間からかなり離れている。ダンジョンは城の真下に創ったから離れた場所のここはもう城内ではない可能性が高い。


 ええと、ダンジョンのあるのはあっちだから。

 その方向に見えるのは高くそびえる壁。たぶん城壁。やはり城の外か。非常用の抜け道であってそうだな。


 反対方向を向くと、うーん、なにやら大きな石がならんでるようにも見えるがこれもやはり脱出路定番の墓地だろうか。


「まずいな」


 俺には〈霊視〉スキルも〈霊聴〉スキルもある。変なものが見えたり聞こえたりしないうちにさっさと移動しよう。

 詳しく調査するのはここを離れてからでいい。



 ◇



 適当に道なりに歩いて行くと民家っぽいのが建て並ぶ場所に出た。

 見える範囲では外を歩く人間もいないようなので深夜なのかな。明かりがついているのも大きな家のみ。あれはランタンかそれとも魔法の光か。


 とりあえず、どこへ向かうべきか。

 この際だから城を目指そうか?

 危険そうなら引き返せばいいし、城ならば深夜でも夜番で門番や見張りがいるだろう。この世界の人間の顔がどれほどのものかが確認できる。本当に俺がイケメンなのかそうでないのかハッキリさせたい。

 フルフェイスの兜をしていないといいのだが。


 城を見つけるために民家の外壁を〈壁歩〉し屋根へと移動する。こんなことなら〈登坂〉スキルの方がよかったか? 蜘蛛男みたいだし。


 ふう、なんとか乗れた。屋根は瓦じゃない。高い場所からだとさらに街なみが見て取れるようになってきた。

 うん、前世のヨーロッパっぽい。行ったことないけど!


 屋根の上に〈感知〉で反応があったんでちょっとビビったけど猫だった。丸くなって寝ながらこちらを覗ってはいるが、襲ってくるつもりはないらしい。

 ううむ。猫は好きだけど今の俺のサイズだと興味をひきそうなんだよな。できれば猫とは争いたくないのだが。


 猫を警戒しつつ城を探す。

 すぐに見つかった。やはりあのコーラ塔は奇妙なオブジェでしかない。ちょっと距離があるか。

 この城下街はけっこう大きいようだ。もっと高い場所からでないと全て見渡せない。

 あのコーラ塔からなら眺めもいいだろう。いつでも〈転移〉できるようにマッピングしておけば街の異常もすぐにわかるはず。


「行ってみるか」


 猫の気がこっちに向くのは仕方ないなと屋根の上を走り出す。なんとなく勢いつければ隣の屋根に飛び移れるんじゃないかとそんな気がしてた。


「ジャーンプ!」


 おお、やはり跳べた。小さい身体には不釣り合いな(STR)素早さ(AGI)ならば余裕なのだ。

 調子にのって、まるで警官から逃げる怪盗のごとく屋根を跳びまくる。もちろん〈感知〉で猫への警戒は怠らない。

 おっ、感じとれる範囲が拡がった。〈感知〉がまたレベルアップしたな。地下より反応するものが多くて経験がたまりやすいのかな、これは。


 目的地である城はあの出口からかなり離れている。逃げやすくなってるんだろう、たぶん。

 城は少し高い場所に建っていて、付近にも豪邸が並んでいるようだ。こっちでも山の手って言うんだろうかね。


 それにしても身体が軽い。途中途中でかなりの猫が俺を追いかけようとしてくるが追いつけずに途中で諦めて、誤魔化しの毛繕いを始める。マジで怪盗になれるかもしれんな。

 前世では息が上がってる距離を駆けてるのに、この小さい身体は疲れを感じない。まあ、前世のおっさんだとすぐに息切れしたけど。

 マフラーもどきで口元を塞いでいるのにスゴイね。って、これか!


 このマフラーもどきがひらひらしてたら、俺のサイズもあってそりゃ猫もまっしぐらになるのも当然だ。

 でもまあ猫は好きなので追いかけられるのもいいかと、マフラーもどきをそのままにしておく。


 家々の中には人がいるのを〈感知〉でわかるけど、外にはほとんどいない。コンビニがないせいか。深夜だからとしても寂しい。

 って、あれ? 外をうろついている子供ぐらいの反応がある。【ドワーフ】か【ハーフリング】かな。あいつらも夜目が利いたはず。

 気になるけど、まずは城を目指そう。今回はマッピングを優先だ。


 だいぶ近づいたけどかなりでかいな。俺が小さいというのもあるのだろうけど城を囲む城壁の面積、どっかのドームぐらいあるんじゃね?

 見えてきた門もやはり大きくて当然閉まっている。門番は立っていないが……ああ、すぐ隣の詰め所に明かりが灯っている。城への急用があったらそこへ連絡するってことなんだろう。


「ううむ。遠目からでは人の顔が確認できなかったか」


 詰め所に侵入したら見つかる可能性があるし、こんな時間だということで不審者扱いされそうだ。

 こんなことなら適当な民家に潜り込んで寝顔でも拝見してくればよかった。


 よし。取りあえずは塔の登頂を目指すか。

 城壁は〈壁歩〉で突破して、と。内側の壁も歩いて地面まで余裕で到達。たぶんまたスキルレベルアップしてるわ、これ。

 中に入った途端に放し飼いにされた犬に襲われるようなこともなく、易々と城へとたどり着く。

 いくらレベルを上げた〈隠形〉スキルも使っているからって、かなり拍子抜けだが油断はすまい。このスキルは気配が感じられにくくなるスキルでまさにステルス。前世でも影が薄いと言われることもあった俺には向いているスキルなんだろう。今はイケメンだけどな!


 イケメンすぎて猫たちにも通用していなかったみたいだし、ってそれは猫相手にはスキルレベルが低いのかも。にゃんこ恐るべし。


 侵入者に使われたらかなり厄介なスキルだが〈感知〉で相殺できるので、ダンジョンマスターとしては両方上げる必要がある。

 うちのダンジョンに侵入するようなサイズの〈隠形〉持ちはいるか不明だけどね。


 コーラ塔は瓶を模しているだけあって変な形なのだが、〈壁歩〉スキルのレベルアップのおかげでスイスイ登れてしまった。ちょっと苦戦したのは天辺の王冠部分くらいだ。

 王冠に腰掛けながら周囲を眺める。


 上から見る街並みは来る途中で感じたようにやはりヨーロッパみたいな気がする。大きな家以外は屋根の色が地味だな。

 猫もそれなりにいたからネズミも多いのかもしれない。

 逆に犬は大きな屋敷にしかいないようだ。野良犬を見かけないのは駆除しているから? いたら眷属化して愛車代わりにしたのに。


 井戸もいくつか見かけるが、汲み上げるための手押しポンプがついている物が多い。きっとこのコーラ塔の関係者が知識チートしたんだな。

 ポンプがついてないのは西瓜の冷却用? それともさっきのみたいに脱出路になっているのもあるのかも。





Tips

 1日は24時間

 1ヶ月は31日と30日が交互に

 1年は12ヶ月で366日



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