1話 都会派
よろしくお願いします
「せっかくだから俺はこの小さい種族を選ぶぜ!」
ネットサーフィン中に見つけたゲームらしき“転生スターター”によって異世界のダンジョンマスターに転生してしまった。
転生スターターではDPを割り振ることで種族やスキル、ステータスを決定できるのだが調べているうちに、必要DPが100分の1というチート能力を持つ謎の小人種族【スクナ】を見つけて悩んだあげくに選んでしまったのだ。
「俺の心臓、動いてる」
いやあ、焦った焦った。転生スターターを使っている最中に俺の心臓が止まってるのに気づいちゃって、こりゃ転生ってのは冗談じゃないかもしれないって前世の俺は悟ったんだよね。
だから結構真剣に選んだよ、今の俺の種族。
クチコミ見る限り小人は弱いみたいなんだけど、必要DPが100分の1でその種族差以上に自分を強くできるんだから。
そしたらさ、必要DPが100分の1ってのはスターターだけじゃなくて転生後も有効みたい。バグかな?
転生後でもDPはダンジョンマスターの通貨として物品やスキル等の購入、ダンジョンの拡張、強化にも使う。
ってことはだよ、運営が気づく前にこのバグを活用しないといけないよね!
転生する時に自動的に覚えさせられた知識によれば、ダンジョンってのはダンジョンマスターの住処にして仕事場。
世界に充満してしまっている瘴気を集めるのがダンジョンマスターの任務。
もう一つ、瘴気を世界にバラ撒く“邪神のダンジョン”ってのを攻略するのも大きな任務らしい。世界最大の邪神のダンジョン、“世界の中心”の完全攻略こそがダンジョンマスターの最終目標だ。
瘴気ってのは大気だけじゃなくて生物や無機物にも染み込んでいるから、ダンジョン内にそれらを誘き寄せることで瘴気を集めることができる。殺せばその生物が持っていた瘴気を全て吸収可能だが、そのためには強いモンスターや“罠設備が必要となるだろう。
ダンジョンが吸収した瘴気はDPに変換される。
このDPでの引き換えや、転生スターターをめぼしい人物に送っているのが運営。よくわからんけど神様っぽい?
だって実際に俺が転生しちゃったしスゴイ存在なのは絶対だね。
ダンジョンの設置場所も選べるのだが悩む。
ダンジョンを攻略するのを仕事とする冒険者もいるからだ。
奥深くまで攻略され、コアを破壊されればダンジョンマスターは滅んでしまう。復活もできない。
でも強い冒険者は瘴気もたっぷり――瘴気の濃い場所に行ったり、瘴気を多く持つモンスターとよく戦うため――らしいので、DP払いのいいお客さんだったりもする。
ならば人里離れた誰にも見つからない場所の方が安全面でいえば確実。しかしなのだが、当然DPは稼ぎづらそう。
いつ100分の1バグがアップデートで修正されるかわからないんだからDPを稼ぎやすい場所にダンジョンを創る方がいいだろう。
それにスターターのクチコミにこんなのがあった。
・アキラ (【ヴァンパイアエンプレス】 ??歳)
山ん中にダンジョンあっけど誰もきてくれなくて退屈。別に寂しいとかじゃないから!
いやこれ寂しがってるよね。性別がクエスチョンになってるけどエンプレスってことは女だろうし、ツンデレさん?
ううむ。これを機会にヒキコモリから脱却するのも有りか? 生まれ変わったつもりでさ。というか実際に転生したんだった。
なにより前世と違って転生先にゃアニメもゲームもなさそうだから娯楽が不安。
いくら精神まで調整されているっぽいとはいえ、ずっとぼっちではおかしくなるかもしれん。……むう、こんなことを考える時点で精神や思考の調整は確実か?
入り口を小さくしておけば大気から吸収できる瘴気は減るが、冒険者は入ってこないだろう。
小人系の生物が入ってくるかもしれないが、クチコミだと弱いって話だし驚異ではない。上手く行けば眷属にできてぼっちも脱却だし、むしろその小人系の巣としてダンジョンを偽装できる。
それに小型で強力なモンスターもいるかもしれない。ならばいっそのこと街中にダンジョンを創った方が、そんな危険なモンスターもいなくて逆に安全かも。
「俺は都会派になる!」
よし、ダンジョンは街中に創ろう。DP源になる生物も多そうだしさ。転生先はよくあるファンタジー世界みたいだけど街中にそう危険なネズミもおるまい。
あと他の条件として付近に邪神のダンジョンはあってもいいが、他のダンジョンマスターのダンジョンがないこと。
クチコミをするぐらいダンジョンマスターはたくさんいる。仲良くできればいいけど、ダンマスなんてヤクザな商売だ。すぐに喧嘩を売られる可能性は否定できない。それは避けたい。
争いになったら負けるからね、弱いしさ。
条件は決まった。どこにするかな。
どうせなら大きな街がいいだろう。転生時に選んだスキルの中には素材が必要なものもあるが、それも大きな街の方が集めやすいと思う。意外と他のダンマスダンジョンも近くにないかも。
海に近い方がいいか?
港町なら珍しい物も入ってくる可能性がある。
なにより魚が食べやすい。
ああでも、ダンジョンが水没しやすいかも?
魚は好きだけど、それはダンジョンコアの安全を確保できてからでいいか。一度手に入ったらスキルでなんとかなる。
ならばいっそのこと大きな城があるようなそう、城下街にしてみるのもあり?
城に潜り込むのは大変だろうけど成功すればそれこそいろいろ手に入る。人殺しはあまりしたくないけど、ちょっと城の物を貰うぐらいなら仕方ないよね。
住居を決める時に近所にコンビニがあるかは重要なチェックポイントだもんな。
「どっこがいいかな、っと」
島よりは大陸にしておくか。なんかあった時に引っ越しもしやすそうだ。
ダンジョンコアさえ無事なら引っ越しもできる。だが小さな島だと引っ越し先を探すのも難しい。
お、ここがいいかな?
小さすぎるというほどでもないその国の名前はコーラヘブンだって。右足大陸の膝近くにある。
街の名前はシオシエか。シーオー……あ。
国や街の名前をつけたのはやっぱり現代の人間だろう。それなら、文明も多少は進んでいるかもしれない。
進んでないと困る。路上に汚物が散らかってないのは超重要だ。
だって小さい身体だとどうしても目線が低くなるから、きっとそういうのは目立つはず。現代人が絡んでいるなら衛生管理は多少はマシなはずだ。マシでそうあってほしい!
城は、うん。
まるでコーラの瓶のような大きな塔がある。これは間違いあるまい。王様の被る王冠の形が瓶の蓋の王冠みたいな形だったりしたら笑うけど。
瓶のコーラなんて最近あまり見ないけど、最近の人が関係してるんじゃないのかな?
まあいい。最近の人や未来人が関係していて、防犯カメラが多数設置されていたりなんかしたら仕事もやりにくそうだから、そっちよりはいい。
「ここにしよう。付近にダンマスのダンジョンはない、と」
声に出して、さっきの条件を確認していく。
漏れはない、ようだな。
「となると街のどの辺にダンジョンを構えるか、だ」
DP源予定のネズミがいそうなのは下水道だけど、臭いがキツそうだし不衛生すぎる。いかにもな感じもアリアリなので、いずれダンジョンを繋げるかもしれないとも思いつつ今回はパス。
冒険者ギルドも、ダンマスにとっては危険人物のたまり場なので避けるとして。
もういっそのこと城の地下深くにしちゃうか。宮廷魔術師とかいたとしても城の土台が壊れるような魔法を使えないだろうし。
脱出路等の隠し通路もありそうでその辺に出入り口を繋げればあまり調査もされないと思う。
とにかくチェックしてみよう。
◇ ◇
丹念に調べた結果、城の地下に大きな空間が広がっているのがわかった。定番の地下牢かな。
ここにダンジョンの出入り口を繋げることにしよう。
「ダンジョン作製のウィンドウを開いて、っと」
ウィンドウでも再度周囲を確認してから、地下空間のさらに下にダンジョンのコアルームを設置する。
そしてそこからグネグネ曲げながら上に向かって通路を延ばしていく。
ん? 大きな地下空間付近の壁は穴が開けられないみたいだ。他のダンマスのダンジョンじゃないよな? さっきそれもチェックしたから間違いはない。
出入り口をずらしながら、穴が開けられる場所を探す。
お、ここならいけるな。ほんの僅かな隙間、それこそネズミの穴のような小さなサイズで俺でさえ立ったままでは出られそうにないけどいいか。一度外に出られさえすればなんとかなる。
むう、もう少し迷路のようにしたいけど、DP節約のために取り合えずこれぐらいにしておくか。
所々坂にして地下空間へと通路を延ばしたが階段を設置していないせいか、まだ第1層のままだ。階層を増やすにはDPがかなりかかる。俺自身のスキルを調子に乗って買いまくったために残りのDPが心許ないんで、今はちょっと諦めよう。
大事なのはダンジョンコアの安全確保だ。コアさえ無事ならたとえ俺が死んでも復活できる。DPはかかるが死んだままよりマシだ。
逆にコアが破壊されたらその時点でこの身体が無事でもアウト。復活もできない。
ダンジョンマスターとして生まれ変わった俺の本体はこの小さな身体ではなく、ダンジョンコアなのである。
オーソドックスだがダンジョンコアは最奥に置くとして、その手前を少し広く戦いやすくし、コアを守る強力な眷属を配置したい。
でも眷属となるモンスターは買わない。DPがないし、俺のスキルでなんとかする予定なのである。
Tips
場面転換を表す◇は、その数で時間経過の長さを表現しています
バグだと思っているDP1/100を運営に気づかれないようにするのではなく、運営が気づく前に活用することにしたのがむこうと大きく違う分岐点




