35.用済み
逆光になって顔は見えないが、その声には聞き覚えがある。
「…こんにちは、えっと」
「覚えてる?この前もここで会ったんだけど」
「えぇ、覚えています。しかしお名前を存じ上げていなくて…」
「あぁ、そうだよね。僕はシモン、シモン・ベルディ」
「ベルディ様…」
人影がゆっくりと近付いてくる。
段々とハッキリしてくる輪郭と、太陽に照らされキラキラと光る霜髪。
間違い無く、私の悩みの種の1つである人物だ。
「この前はごめんね、急に呼び止めて」
「いえ…あの、何か御用でしたか?」
「うん?いや、特に用はないんだけど」
「そ、そうですか」
(えっ、それだけ?)
特に何を言うわけでもなく、ただただニコニコと微笑んでいるベルディ様。
ベルディ様が立ち塞がっているので、出ようにも出られない私。
(…どういう状況なのかしら)
今の状態は客観的に見ても異様だ。困惑しか無い。
掛ける言葉も何も見当たらないが、いつまでもこうしてはいられない。
「申し訳ございません。御用が無いようでしたら、私はこれで失礼致します」
「うん。またね」
意を決して発した言葉に、至極あっさりと図書館から出て行くベルディ様。
意味が分からない。それに、
(またね、って…)
図書館に用がある様子は微塵もなかった。それなら最初から私が目的だったと考えるのが妥当だ。
(なのに、話しかけて用は無い。でもまたねって…)
頭が追いつかない。




