26.日替わり
「メイリア、さん!あの…先日はありがとうございました」
「い、いえ。どうして私の名前を」
最近の悩みの種、リリー・メレス当人が目の前にいる。
どうしてか、私を追って走って来たらしい。
「ごめんなさい、コールドローズ様お付きの侍女さんなんですよね…私、歓迎パーティーでコールドローズ様に…」
「結構です、次からはお気をつけ下さい。では失礼致します」
態々走ってまでお礼を言いに来る律儀さは認めるが、リベラに飲み物を掛けたことは許せない。例えやらされていたとしても、だ。
余り関わり合いになりたくない相手ではあるが、放って置く訳にも行かない。
(虐めなんて、あってはならないもの)
どうしたものかと頭を捻らせても、特に良い案は浮び上らなかった。
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今日もいつも通り、初等部貴族科の授業がある内に中央図書館へ来た…のだが。
「酷い、酷いわアンバー様!」
(な、何事?)
書棚の陰に隠れ、様子を伺う。
「何が酷いんだい?」
「だって私のこと、好きだって言って下さったのに…」
「好きだよ?」
「…っ!私以外にも、そう言っているのでしょう!?」
「あんまり覚えていないんだけど…今僕の目の前にいる君のことは、好きだよ?」
「ッ最低!」
バチン!
(…あら)
まるで小説のようなやり取りに目を疑う。
私が潜んでいる書棚の横を、先程ラザフォード様の頬を叩いたご令嬢が早足に通って行った。
(気不味いわね…)
今更書棚から出て行くのも憚られ、ゆっくりと音を立てないように立ち去った。
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「どうして分かって下さらないの?!」
「分かるも分からないも…何の話をしているの?」
「私は、アンバート様の唯一になりたいのです!」
「そんなこと言われても、僕は僕のことを好きになってくれる子は好きになっちゃうんだ」
「私だけじゃ、足りないと言うのですか…!」
「うーん、そうなっちゃうのかな」
(えっ今日も…?)
昨日の今日で、同じ様にご令嬢に詰められて、同じ様に最低の返しをするラザフォード様。
それからまた少し経ち、バチンと音がしてご令嬢は去っていった。
(仕方ない、今日も諦めよう…)
せめて場所だけでも移してくれることを願いながら、止む無く中央図書館を後にした。
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「何故僕が君だけを特別に扱わなければいけないの?意味が分からないよ」
バチン!
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「好意には好意で返すのが道理だろう?」
バチン!!
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「だから…君のことは好きだよ、それと同じくらい他の子のことも好きなだけだ。それじゃダメなの?」
バチン!!!
(どうしてこうも!最低な言い回ししか出来ないのかしら?!)
来る日も来る日も違うご令嬢に頬を叩かれるラザフォード様は、もうむしろそれ目的なのではないかと疑ってしまう程だ。
「…メイリーちゃん!居たんだね。最近メイリーちゃんが来なくて寂しかったよ」
思わず顔を出して様子を伺ってしまったようで、遂に見つかってしまった。
「毎日毎日あのような場面を見せられたら、入れませんよ」
「見てたの?遠慮しなくていいのに」
「遠慮とかそういうものではありません…」
少し赤くなった頬を気にする様子も無く本を読んでいるラザフォード様は、正直異常ではないかと思ってしまう。
(今何か言われたら怒ってしまいそうだわ…。堪える、堪えるのよメイリア)
「あっメイリーちゃん。この前の感想の続きなんだけど、」
ダメだ。堪えられない。




