第89話.女がオーガに勝てる訳ないでしょ
本降りの雨だと、雲はかなり低いです。
地図を見るとオーガの森からエルフの里へ向かう街道には数か所の難所と言うか峠道があって、その一つで荷馬車を待ち伏せして食料を焼き払ったのよ。
オーガ族は進軍を止め、かなりの数の兵士を後方の補給線の警備に駆り出した、わたし達が火矢を放った峠道には特に人数を割いた様よ、同じ場所で攻撃する訳ないのにね。
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わたしの目線よりも少し高い草が生えている草原、今はねずみ色の低い雲と本降りの雨に包まれて、時間が止まった様な感覚。
わたし達は草の陰で濡れながら出番を待っている。
ポンチョは着ているけどターポリン生地の隙間から雨水は容赦なく染み込んで来ている惨めな状況よ。
あーあ、売れっ子ソープ嬢がなんでこんな事をしないといけないの?
だけどソープの仕事も楽ではなかった、お客の前では全身全霊でご奉仕、どんなにきつくても苦しさを見せない、接客業の基本よね。
本当に辛かったのは後片付け、備品はお店から借りている物だからキレイに洗って返さないといけないの。
ソープマットにシャワーを当てる音が未だに耳に残っているわよ、糸状になった白いたんぱく質が排水溝に流れていく、あれは惨めだったわ……
ターポリン生地を叩く雨音とソープマットを洗う音がゴチャ混ぜになってきた。
「……ミヤビ様、斥候が帰って来ました」
「補給隊が来たの?」
「はい、四十から五十くらいの荷馬車が連なっています」
「ふーん、ニンファは何発撃てそう?」
「時間的にも五射くらいじゃないでしょうか」
「分かったわ、わたしは先頭を燃やしたら、真ん中辺を適当に攻撃するわ、ニンファは最後尾からお願いね」
「ミヤビ様、同期とれましたか?」
カタリーナが魔弓を真上に向ける、わたしは弓に魔力を集中する。
椅子に座っているのに真上を見ている変な感覚。
「今!」
わたしは雨を突っ切ってぐんぐん昇っていく、次第に速度がゆっくりになって、今度は真下に向けて落ちていく感覚、草むらの中に荷馬車の列が見える。
まるでドローンから見ている様な真上からの視点、先頭の荷馬車を探しだすとロックオン、グングンと荷物が近くなりロープの結び目までハッキリ見え、そこで視界が途切れる。
「当たりましたか?」
カタリーナが訊いて来るが、わたしは頷いて返事をしただけ。
「次に行きます、ミヤビ様、同期をとってください」
またしても上昇の視覚、頂点まで来ると放物線を描いて落ちていく火炎矢だけど、わたしの感覚同期で誘導しているから絶対に当たるのよ。
絶対に当たる魔弓は一本が金貨一枚とお高いのよ、感覚同期は魔力がゴリゴリ削られ、数発が限界、使いどころが難しい魔道具よね。
「あれ? あの荷馬車の周りにはオーガが大勢集まっているわね、と言う事は貴重品かしら」
二射目は陶器を割った感触があった。
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戦いの矜持を忘れたエルフ共は我々の荷馬車を攻撃すると言う恥知らずな事をした、よかろう、ならば我らもお前達を根切りにするまで。
あっ、いや待て、エルフのメスは貴重だ、やつらは我々が鳴かせないとな。
そんな益体も無い事を考えていたオーガ族の戦士だが、突然荷馬車が燃えだした。
「敵襲!」
「どこだ、どこから火矢を撃っている、探し出せ」
次の瞬間お神酒を積んだ馬車が炎に包まれる、間違いない火は天から降って来た。
護衛の兵士達は雨雲に向けて矢を放っているが、手ごたえは無い。
そのうちに族長がやって来て“周囲を探せ”と叱咤された。
「ですが奴らは天から矢を放っています」
「そんな訳が有るか、まずは周囲を探せ!」
族長に言われ周囲を探しまわる。
「ちょと、こっちに草を踏みつぶした跡があります」
「こざかしい真似を、早く見つけ出せ」
足跡を辿って行くと岡の陰は数人がいた跡がある。
「おい、この椅子はなんだ」
不用心なオーガが折りたたみの椅子を蹴り倒した瞬間一帯は炎に包まれ、オーガ達は一瞬で消しズミとなる。
遅れているオーガ軍の侵攻は、更に数日遅れる事になった。
この数日は陣地を造り、連絡壕を掘り、凶悪な罠を仕掛けるには充分な時間となり、自らの命で、遅れを取り戻す事になる。
感覚同期の弓矢、最初はドローンみたいな兵器にしようかと思っていましたけど、中世的に。




