第75話 高いところから (コンチータ)
ウサギ獣人のコンチータ目線の話です。
買い取り遠征に行ったけど、なかなか帰って来ないミヤビ様達、わたし達までガイセ迷宮に呼ばれる事になったのよ。
どんな強い魔物が出て来るかと思っていたけど、ダ・デーロとあんまり変わらなくて拍子抜け。
その後、新型アーマーや連射弓を買ったりしたけど、突然、ガイセ迷宮を切り上げて、ダールマイアー領にやって来たの。
何をするのかと思っていたけど、田舎の作業小屋にこもってお裁縫、みんなは物凄く大きな生地を縫っているから、帆掛け舟の帆だよって言っていたけど。
残念、船じゃないわ、吸うとアヒルみたいな声になる“アヒルガス”を入れて、空を飛ぶのよ。
空なんて飛べる訳ない? ミヤビ様が出来るって言うと、絶対に出来るのよ。
○
「いいこと、コンチータ、上空に上がっても怖くなって上のバルブを開けたらダメよ“アヒルガス”が抜けちゃうからね。
安全ロープがあるから絶対に流れて行ったりしないから落ちついて上昇速度を確認して、
それとあんまり下ばかり見ていると怖くなるかもしれないから……」
ミヤビ様は初めて子供をおつかいに出す母親みたいな口調でいつまでも話しているのでカタリーナに引き離された、
わたしは高いところに昇れるので嬉しくて仕方が無いと言うのに、鳥みたいになれるんだよ、誰だって嬉しいわよね。
「アニカ、大丈夫?」
黙って頷く小さな子、試験飛行で空に上がる権利をクジで勝ちとった子よ。
「良いですよー」
ゴンドラから大きな声で合図すると四本ある係留索が同時に解かれ、強い衝撃で床に叩き落とされたわたし達、悲鳴をあげる暇もなかったわ。
何よこれ、もっとゆっくりプカプカと浮かんで行くんじゃなかったの?
「アニカ大丈夫よ、落ちついて、安全ロープがあるから止まるわよ」
“ガクッ”と二度目の衝撃が来る、安全ロープで止まったわね、確か100ヤードだったはず。
「コンチータ、こんなに上昇の速度が速いなんて下の人達心配しているよ」
「おかしいわね、浮力計算間違ったのかしら」
ゴンドラの手すりから下を覗こうとした瞬間、今日最大の衝撃。
“キャ”二人は再び床に投げ出される、もうお尻が痛いわよ。
安全ロープがあっさり切れ、帆かけ船は風に流されて行く、下を覗くと作業小屋は遥か遠くになり、針葉樹林の上をギュイギュイと流されて行く。
「わたし達、山の方に流されているわよ」
「このままだといつかは山にぶつかるわね」
「上のバルブを開ければ、“アヒルガス”が抜けて、高度は下がるけど」
二人してゴンドラから下界を覗きこむと下は針葉樹、文字通りの針の山に見えて来る。
「アニカ、降りる?」
黙って首を左右に振る少女アニカ。
「もっと“アヒルガス”を入れてみようよ」
「コンチータ、そんな事したら、どこに飛んで行くか分からないわよ」
「山にぶつかって死ぬよりはましでしょ」
わたしは下のバルブを開いて更なる“アヒルガス”を布袋に送り込む。
さっきは枝まで見えていた針葉樹の森がどんどん小さくなり、緑のカーペット、これだけ上がれば山にぶつかる事は無いけど、どこに行くのか分からないわよね。
全然問題が解決していないじゃない。
どんどん高いところに昇って行く帆かけ船、今朝は暖かく穏やかな日だったけど、寒さを感じる、高いところって寒いの? 太陽の近くだから暑くなると思っていたのに。
「アニカ、あんたは寒くないの?」
「わたしは山で慣れているから平気だけど、それより流されている向きが変わっていない?」
「そうかなぁー」
「ほら、畑が見えて来たよ、さっきは全然見えなかったのに」
遠くの方に四角い畑が広がっている。
「コンチータ、上のバルブを開けよう、今から高度を下げれば帰れるよ」
「ダメよ、今高度を落とすとまた山の方に流されるわ」
「どうすればいいのよ!」
「一旦畑の上まで行って、そこから高度を下げましょう」
その後は鳥も飛ばない様な高い空でやっと帆かけ船が安定するバルブの位置を探しだして、畑の上空までやって来た、
「バルブを閉めるよ」
地面がドンドン近くなる、やばいわよ。
「コンチータ、今の高度は100ヤードよ」
「どうして分かるのよ?」
「安全ロープが地面に着いたわ」
ここまで降りれば大丈夫と言う安心感、だけど安心って長く続かないものなのね、
地上100ヤードの高さまで降りて来た帆かけ船だけど、そこからはピクリッとも動かないの、凪に入ってしまったみたい、
「ねぇ、コンチータ、わたし思ったんだけど、この帆掛け舟に風の魔具を積んだら便利よね、行きたいところに行けるわよ。
いいアイデアだと思わない?」
「それには、まずは帰ってミヤビ様にお話しないとね~
ちょっと、あそこ見て、アニカ、わたし達帰れるわよ」
「何があるの?」
「あそこの草をよく見てみて、あそこら辺は風があるわ、きっとこっちにも …」
最後まで言う前に動き出したけど、想像以上の速度で移動を始めた帆かけ船。
作業小屋の屋根をかすめる様に飛ぶと最初の広場にキレイに降りる。
“なーんだ、空を飛ぶなんて簡単ね”
地上に降りたわたし達は突然涙腺が崩壊して涙が止まらない、アニカと二人でワンワン泣いたわ。
この話しは最初は熱気球を考えていたのですけど、ヘリウムガスの気球に変更しました。




